もう優勝者が決まったような武王祭

 武王祭……それは全国各地で開催される闘技場での催しの総称。形式は乱闘であったりペア戦であったりパーティ戦であったりと様々だが、共通するのは腕に覚えのある人達が武器を持って競い合うこと。


 そしてそんな数ある武王祭の中でも大きな権威を持つ『五大祭』の内一つが、ここで開かれる。


「リゼ、受付ってどこ?」


「あそこの人が集まってるところじゃないかな」


 あれから一週間。俺たちはダンジョンで連携の確認をするのではなく、アーセナルの第1部隊の人たちから直々に手ほどきを受けることに成功した。


 おかげで、俺もリゼも対人戦においてはとてもパワーアップしている。


 長い列に並び、屈強な男たちにジロジロと見られながらも、整理番号を受け取る。


 これから始まるのは予選。人数が多いので、確か8組になるまで乱闘形式で戦うはずだ。


 すでに会場を囲むように作られた観客席には多くの人が詰めかけており、その中にはアーセナルからの応援団も来ていた。


「お前ら腹から声を出せ! 行くぞ! フレーっ! ふれーっ! リーゼっ! ユーノっ!」


 と、クレアさんが鼓舞をすれば。


「「「「フレーっ! フレーっ! リーゼっ! ユーノっ!」」」」


 団員の皆さまがエールを送ってくれる。


「クレアさん…まだ始まってませんよ」


「ま、元気がいいのはいいことじゃないか」


 第2部隊の主分隊長さんとラーズ先生が苦笑しながらも見守ってくれている。


「これは…負けられないね」


「ああ、負けるつもりは毛頭ないしね」


 俺たちは今一度気を引き締め、予選に望むことにした。



 =============



 予選の開始を待つ参加者全員が会場となる場所に集められた。


 巨大な闘技場といえど、200人の参加者が集まるとそこそこに混雑する。


 そんな中、係員と思しき人がしきりに声を上げているのが見えた。


「この大会に参加する、ユノ・アスフェルトさんとリゼ・テレストラシオン三亜いらっしゃいますか―!?」


「なんだろ、ユノ、なにかした?」


「いや、全く」


 とりあえず二人で人混みをかき分けて呼び声のもとに向かった。


「ユノとリゼです」


「あ、よかった。ちょっとこっち来てもらってもいいですか?」


 そういってついていった先には、この大会の主催者と思しき屈強な老人がいた。


「会長! ユノさんとリゼさんを連れてきました!」


「うむ、ご苦労だった。二人も、ご足労いただきありがとう」


「いえ…ところで、何か用ですか?」


 俺が聞くと、老人が笑みを浮かべながら言った。


「いや、簡単なことだよ。開会の挨拶を行うんだが、そのときに私の側に立っててほしいんだ」


「はあ…そのためにわざわざ?」


 リゼが不思議そうに老人を見つめる。俺もそんなことで呼び出されるとは思っていなかった。


「まあ、わかりました。あなたのそばにいればいいんですね?」


「ああ、よろしく頼むよ」


 まあ別に大事な用とかもないので付き合うことにした。




「さて、そろそろ行くとするか。頼むよ、お二人さん」


「うー、こういうのに出るのは久しぶりだから緊張するなぁ」


 リゼが伸びをしながらそう言う。


「大丈夫でしょ。学院時代に嫌というほど参加してたリゼなら。……俺とかもう緊張で吐きそう」


「そっちこそ冗談言わないでよ。あ、でも手が震えてるね」


「でしょでしょ」


「んー…」


 リゼが俺の手を取ってじっくりと見つめる。


「なんだよ」


「嘘だね。これはワクワクしてる震え」


「…そんなことは無いよ」


「何年一緒にいると思ってるんだか。そのくらい私なら分かるよ。私もそうだし」


 そう言うリゼの手も、少し震えていた。


「武者震いってやつ?」


「それそれ」


「そっか。ならやる気は十分ということだな」


「うん。行こうか」


 俺達は一度目線を合わせて笑い合うと、老人の背中を追って会場に再度向かった。



 =============



 老人についていった俺達は参加者たちの中心まで移動した。


「では、この武王祭の主催者である、グラン王国商業連合会長、ドルト・リーツ会長から開会のあいさつをいただきます」


「えー、この大会を主催する商業連合の会長をしております。ドルトです」


「あのおじいさん、商業連合の会長なんてやってたんだ。知らなかった」


「俺も、一応商売に身を置いているのに全然知らなかった」


 ドルト老人が開会の言葉を話している間、俺は360度参加者で囲まれていることを生かし、参加者の中でも頭一つ抜けている実力者を見定めることにした。


「3組、かな」


 厄介そうだと思ったのは3組。2組が円状になった参加者たちの1番外側におり、もう1組は円の中ほどにいた。


「では、ここで私イチ押しの優勝候補ペアを紹介しましょう」


「え」


 老人にそう言われ、リゼが声を漏らす。


「ユノ・アスフェルト君とリゼ・テレストラシオンさんのペアです! この二人は王立学院を次席、首席で卒業しており、恐らくこの中で最も強いお二人だと考えております」


 周囲から怒りを含んだざわめきが漏れる。


 そりゃそうだ。これは「この二人が一番強いから君たちが勝つのは無理だよ~ん」と言っているようなものだ。


 というか俺たちの事いつ調べた?


「というわけで、この二人を倒したペアはなんと! 特別賞として金貨100枚の賞金を与えようと思います!」


 ザワッ、と今度は驚きのざわめきが広がる。


 ちなみにこの大会に優勝すると各ペアに金貨500枚が支払われる。だが金貨100枚でも1年以上は遊んで暮らせるだろう。


「では! これよりドラム武王祭を開催します! 皆さん、そこから動かないでくださいね! ドラの音が鳴ったら、スタートです!」


「オイちょっと待て、それじゃ俺らが――」


 俺が文句を言おうとした瞬間、ドルト老人は風魔法で観覧席に飛んで行ってしまった。そして、ドラの音が鳴り響く。


「あいつらだ! あの刀持った奴とレイピア持った奴を倒したら金貨100枚だ!」


「「「「うおおおおおーーーっ!!!」」」」


「嘘でしょ!? あの人私たちを大会を盛り上げるためにダシに使ったよ!?」


「言ってる場合じゃないぞリゼ!」


 刀を抜き放ち、一足早くやってきた棍棒使いの側頭部を殴り倒す。


「あんまり離れないで! 固まってくれ!」


 五代祭が一つ、ドラム武王祭の幕開けは、2対198という圧倒的不利な状況から始まった。








「……なぁーんだ。結局、数にやられて予選敗退か。つまんないの」


「警戒したかいはなし、か」







「お前が警戒するからどんな奴かと思えば……拍子抜けだな」


「いや……あいつらなら、アイツならこのまま終わるはずがない」






「ユノ! そろそろ集まったよ!」


「……了解、でかいの一発ぶちかますぞ!」

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