第20話 天からの悪戯

(何よ…まるでデートみたいに…)


茉白は、新の前を歩きながら、頬を赤くしていた。新が、この催しを形どってくれたのは、あくまでも、勉強のお礼。それが、第一定義である。でも、今日の自分の格好はどうだろう?緑のストライブのシャツに、ロングのスカート、そして、いかにも女の子っぽいショルダーバッグ。正直、荷物をまとめるのが大変だった。リップだって入れておきたいし、お化粧直しのパウダーも持ち歩きたい。もうぎゅうぎゅうに詰め込んだ。


「なぁ、水無月。何が食べたい?」


「んー…パスタかな?何処かいい店知ってる?私、あんまり外出ないから」


「あぁ…ランドってイタリアン、上手いって武吉が言ってたけど」


「じゃあ、そこにしようか」


相変わらず、茉白はこっちを見ない。単調な返答の繰り返しだ。


「やっぱ!!俺がおごる!!」


新は、しびれを切らして言い放った。


「え!?」


思わず、自分の顔の熱りを忘れ、茉白が振り返った。


「勉強のお礼だ!!俺がおごる!!」


「い、いいよ。映画で十分おごってもらったし…」


「いやぁ~ダメだ!!ここで引いたら、おとこが捨てるぜ…!」


新は、決まった!!と思った。


「…廃るね」


…やっぱり、何処まで行っても、決まらない男、新なのだった。




*****




「ん―――――!おいし――――!!何?このボンゴレ!!あさりめっちゃイイ!!」


新は、目をぱちくりしている。茉白が食べ物で、こんなに人格が変わるとは…と、かなりの意外性を感じた。しかも、だ。


「…水無月、よく食うな…なんか、何処入ってくんだよ。その量…。そんなちっこい体に…」


「うるさいなぁ…いいじゃない。太ってる訳じゃないんだし」


茉白は少し頬を膨らませる。それでも、美味しそうに頬ばる茉白が、なにやら…、


(………可愛いな………………。………!?か、可愛い!?俺、何考えてんの!?)


新は、焦った。焦りに焦った。こんなの、まるで茉白に惚れてるみたいじゃないか!!そんなはずはない!!だって、相手は、自分を馬鹿馬鹿言ってくる、上から目線直行女だ。何度、馬鹿と呼ばれたか解らない。そんな女に惚れる?あり得ない!!しかし…、


「どうした?篠原くん、食べないの?」


「あ、た、食べるよ!!」


もぐもぐとドリアを頬ばり始める新。それから、レストランを出るまで、新は茉白の顔を見ることが出来なかった。




*****




「あー、楽しかった!!ありがとね、篠原くん」


「え?あ、あぁ、こっちこそ…」


「ん?何よ。今日はなんだかおとなしいね」


「なんだよそれ!!俺がいつも騒がしいみたいじゃん!!」


「だって騒がしいじゃん」


「え――!!」


「ふふふ。でも、最初の篠原くんの印象とは、今の篠原くんはかなり違うな」


「あ?なんで」


「だって、勉強に例え私の復讐だったとしても、こんなに真面目に付き合ってくれるとは思わなかったもん」


「あー…。なんでかな…。やってみると、勉強って面白いな…って少し解ったから」


「え――!!」


「今度はお前の方か、叫ぶのは…」


「篠原くんが?勉強が?面白い?…じゃあ、もうあんまり馬鹿に出来ないね」


「そうだ!!俺はやればできる!!天災だ!!」


「…天から災いを起こしてどうするの…」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る