**警告・ここを読んではならない**
【良い子は、……絶対に見ちゃダメだよ?】
…………。
………。
……。
…。
【……見ちゃダメって、言ったのになー】
とあるアパートの一室に、ひとりの男の人が住んでいます。
男の人は昼間からお酒を飲み、フラフラと酔っぱらっていました。
部屋の中にはお酒のビンやビールの缶などがたくさん転がっています。足の踏み場もないくらいです。
男の人はビールの缶を手に取りましたが、どうやら空っぽのようでした。他の缶を振ってみますが、どれも中身はありません。
男の人は舌打ちをします。
まだお酒を飲んでいたいのですが、買いにいくのも面倒でした。
いつもなら自分の娘に無理矢理買いに行かせるのですが、今はそれもできません。
ふて腐れたように横になりました。一眠りして、ちょっと酔いがさめたころに買いに行こうと思ったのです。
コンコン。コンコン。
すると、誰かがアパートの玄関戸を叩きます。
男の人は無視しました。どうせ新聞の勧誘か、借金取りの連中だと思ったからです。……しかし。
コンコンコン。コンコンコン。
それにしては、戸を叩くばかりで何も言ってきません。
しかも、男の人がどれだけ無視しても、構わず戸を叩き続けます。
男の人はだんだんイライラしてきました。
もともと、数日前からずっと訳もなくイライラしていましたし、お酒がなくなってしまったせいで、それが余計に癇に障ります。
男の人は起き上がると、玄関に行きました。
一言文句を言いたくなったのです。
玄関の鍵を開けると、少しだけ戸を開いて顔を出し、外にいるであろう人物に怒鳴りました。
「うるせーぞ! なんべんも叩くんじゃ、……?」
ところが、玄関の外には誰もいませんでした。
狐につままれたような顔でキョロキョロと見回しますが、玄関前にも、共用廊下にも、少し先にある階段にも、人の影はありません。
「なんだぁ? ……酔いすぎたか?」
そんなに飲んでないんだがなぁ、と首を傾げ、部屋の中に戻ります。
そしたら。
「――あぁ、やっぱりここにいた」
なんと部屋の中に、知らない子供が入ってきているではありませんか。
しかも、勝手に押し入れを開けて、中を覗き込んでいます。
男の人は驚き、そして焦りました。
押し入れの中には、人に見られたくないものが詰め込まれているからです。
「お、おいガキ! どっから入った!? つーか何勝手に押し入れを――!」
慌ててつまみ出そうとして、子供に近寄ろうとします。
ですが、それはできません。
「――うるさい」
子供は静かな声で言いました。
それだけで、子供と男の人の間に見えない壁ができました。
「ぐえっ!?」
壁に鼻と額をぶつけた男の人は、潰されたカエルのような声を出して倒れます。
子供は、そんな男の人を気にすることもなく、押し入れの中に手を伸ばして、そうして、――それに、手を触れました。
「……助けてあげられなくて、ごめんね」
悲しそうな声で謝って、優しく、それを撫でました。
それからすくりと立ち上がると、ようやく男の人に向き合います。
「はじめまして、おじさん。用件は、――分かるよね?」
そう言われて男の人は、ようやくその子供の姿が変わっていくのに気付きました。
短かった金色の髪は、腰まで伸びて虹色に。
凪いだ海のように青かった瞳は、燃えて噴き上がる溶岩のように赤く。
子供のように小さかった体は、大人と子供のちょうど中間ぐらいの背丈に。
可愛らしい男の子のような声は、それこそ、神様のように神々しいものに。
みるみるうちに変わっていくではありませんか。
「あ、あ……、ああ……!」
男の人は、その、この世のものならざる光景を見て腰を抜かし、子供から――神様から、目を離せません。
長く伸びた前髪で、表情は口元しか見えませんが、……形だけ見れば、笑っているようにしか見えませんでしたが。
男の人には、そんなふうには見えませんでした。
とてつもなく恐ろしいナニカが、そこにはいらっしゃいました。
「さあー、て、と…………」
座り込んで震える男の人を見下ろして、神様は、いつものように優しい声で告げました。
「自分の子供を殺した君を、神サマがお仕置きしに来たよ」
「ひぃっ――――!?」
男の人の悲鳴はどこにも漏れることはなく、男の人は、どこともしれないおぞましい世界――毒砂と腐肉と溶岩の世界――に、連れていかれてしまいました。
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