語りの神様と仲の悪いコックたち

【語りの神サマと仲の悪いコックたち】



「さあー、話を聞きたい子は寄っといでー」


 今日もまた、神様のお話が始まりました。

 今日はいったい、どんなお話を聞かせてくれるのでしょうか。


「今日のお話は、腕は良いけど仲の悪いコックさんたちのお話しだよ。最後までお話を聞いてくれたら、良いことがあるからねー」


 そうして、お話が始まりました。


『今ではないいつか、ここではないどこか、君ではない誰かのお話です。


 とある王国の城下町では、昔からたくさんのレストランが店を開き、コックたちが料理の腕を競っていました。


 この王国で作られた食べ物はどれも美味しく、料理の食材にするにはもってこい。

 お肉もお魚もお野菜も、卵や牛乳や小麦粉も。

 他のどの食べ物だって、この国で作られたものはとても美味しいと評判でした。


 だから料理の得意な人はこの国の食べ物で料理を作ることが多いですし、なかには、料理の修行のためにこの国にやって来る人も少なくありません。


 この国では、美味しい食べ物を使って美味しい料理を作れる人がたくさんいて、その人たちの料理を食べるだけでも勉強になるのです。


 味付けや料理の仕方、火加減ひとつとってもそこらへんの料理人とは比べ物になりません。


 その人たちに負けない料理を作れるようにと、若い料理人たちは気合いを入れて勉強しますし、どこかのレストランで雇ってもらって、美味しい料理を教えてもらったりもします。


 そうして、何年も厳しい修行をしてきた本当に腕のいい料理人だけが、城下町でレストランを開くことができます。


 城下町で店を開くというのは、この国のコックたちにとっては、とっても名誉なことなのです。


 そんな、城下町でレストランを開いているコックたちの中から、特に腕の良い何人かが、ある日王城に呼ばれました。


 コックたちを呼び出したのはこの国の王様です。

 王様は、集まったコックたちに向かって、このように告げました。


 “みなに集まってもらったのは他でもない。実は来月、隣の国の姫がこの国に遊びにくることになった”


 “なんと、それは本当でございますか!?”


 料理人たちは驚きます。

 隣の国というのは、長年この国と仲良くしてくれている大切な国であり、国内で採れる鉄や銅などを加工して、色々な道具を作っている国なのです。

 料理人たちが使っている鍋や包丁なども、すべて隣の国の職人たちの手によって作られたものでした。


 “うむ、本当だ。そこでお前たちには、姫がこの国にいる間の食事を作ってもらいたい。この城で働くコックに任せようかとも思ったが、どうせなら、最高の料理を食べてもらいたいのだ”


 “おお……! ありがたきお言葉です”


 料理人たちは感動しました。

 最高の料理を作るための料理人として自分たちが呼ばれたのですから、それは、これ以上ないくらいに名誉なことでした。


 “この城の厨房も、厨房にある食材も自由に使って構わない。姫に食べてもらうための最高の料理を作ってくれ”


 “はい!!”


 コックたちは元気に返事をします。

 さて、どんな料理を食べてもらおうかと、みんなが自分の自慢の料理の中から考えました。


 ところが、一週間たっても二週間たっても、いっこうにメニューは決まりません。

 料理人たちは、みんな自分が得意とする料理を言い合うばかりで、他の料理人の作ろうとするメニューを認めようとしないからです。


 “何度言ったら分かるんだ。確かに君の料理は美味しいが、見た目に華がない。姫様に出すには地味すぎる”


 “それを言ったらアンタの料理だって、確かに見た目は美しいがそれだけだ。栄養なんてこれっぽっちも考えてないだろう”


 “お前さんの料理なんて、物凄く体には良いが苦いものばかりじゃろう。そんなもの、姫様に出せるものか”


 “あなたたち、何も分かっていないわね。香りや食感がダメなら料理の美味しさは半減するのよ?”


 こんな風に、お互いがお互いのダメなところを言い合い、自分の料理こそが姫様に食べてもらうのにふさわしいと言っているのです。


 こんな調子では、いつまでたってもメニューか決まるはずもありません。


 このままでは、姫様に食べてもらう料理が決まらないまま、姫様が遊びに来る日になってしまうでしょう……』


「えー、どーするのー?」

「けんかしてる場合じゃないよー!」


 お話を聞いていた天使たちが、口々に文句を言っています。

 せっかくお姫様が遊びに来てくれるのに、ケンカなんてしている場合ではないからです。


「自分の料理に自信があり過ぎるのも、考えものよね」

「だよね。少しは譲り合わないと」


 他の天使より少し体の大きい天使なんかも、このように言っています。

 人間は時として、プライドやメンツというものが邪魔をしてくることがあると、この天使たちは知っているのです。


「そうだねー。どのコックさんも自分の料理が一番だっていう気持ちがあるんだよねー。それはそれでとても大切なことなんだけど、この時はちょっと邪魔になってるねー」


 神様は、天使たちの言葉を聞いて楽しそうにしています。

 それから、先を続けました。


『……姫様が遊びに来るまで、残り一週間になりました。

 メニューはまだ決まっていません。


 今日も今日で、集まった料理人たちはいかに自分の料理が良いものであるかを言い合うばかりです。


 そんな時、ひとりの料理人がこう言いました。


 “よし、それじゃあみんな、こういうのはどうだろうか?”


 この料理人はいったい、どうするつもりなんでしょうね?』

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