語りの神様と本棚の子供たち

龍々山ロボとみ

語りの神様と本棚の子供たち

【語りの神サマと本棚の子供たち】



 高い高ーいお空に浮かぶ、大きな大きな雲の上。大地に暮らす人たちからは「天国」と呼ばれている場所が、そこにはありました。


 天国は、とても気持ちのいい場所です。


 お日様の光でいつでもポカポカしていますし、そよそよと吹く風は、とても柔らかくて優しいです。


 真っ白でふかふかの雲はベッドにするのにもってこい。お行儀悪く飛び込んでみたって、ちっとも痛くありません。


 可愛らしい天使たちがきゃっきゃと駆け回り、柔らかい雲の上で飛んだり跳ねたりしています。


 ひとりの天使が手を上げて言いました。かくれんぼするもの、この指止ーまれ。

 それを聞いた他の天使たちは喜んで集まります。あっという間にたくさんの天使たちがそろいました。


 ここにいる天使たちは、みんな小さな子供の姿をしています。


 男の子もいれば女の子もいます。

 一歳や二歳、五歳や六歳ぐらいの子から、九歳十歳ぐらいのお兄ちゃんお姉ちゃんもいます。


 みんな、見た目はばらばらです。


 目の色も髪の毛の色も違います。太っている子もやせている子もいます。鼻の形や耳の形が違う子もいますし、犬や猫のようなしっぽを振っている子もいます。


 天使たちはみんな仲良しです。


 仲間外れなんてしませんし、ケンカをしてしまっても、あとできちんと仲直りします。

 新しい天使がやってきたときはみんなでお迎えに行って、早くみんなと仲良くなれるようにしてあげます。


 さて、集まったみんなでジャンケンをして、かくれんぼの鬼を決めていた天使たちですが、そこに、どこからともなく声が聞こえてきます。



「さあー、話を聞きたい子は寄っといでー」



 その声は、凛々しい少年のようでもありますし、可憐な少女のようでもあります。

 カッコいい大人のようでもありましたし、可愛らしい子供のようでもありました。


「あー、神様だー!」

「かみさまー、今日のお話はなにー?」


 さあこれからかくれんぼを始めようとしていた天使たちは、その声を聞くと飛び上がって喜びました。

 みんなで声の元へと走っていきます。もう、かくれんぼどころではありません。


 声の主の足元にお行儀よく並んで座り、これから始まるできごとを、わくわくどきどきしながら待っています。


 これからいったい、何が始まるのでしょうか?


「みんなよく来たねー。ちゃんと良い子にしてたかなー?」


 天使たちは、元気いっぱいに答えます。


「してたよー!」

「してたしてたー!」


 これでもかと両手を上げる天使たちに、声の主は、うんうんと頷きました。


「じゃあ今日も、神サマがお話をしてあげるよー」

「やったー!」

「わーい!」


 なんと、やって来たのは神様だったようです。


 神様の名前は、語りの神様。

 ときどき天国にやってきては、天使たちに面白いお話を聞かせてくれる神様です。


 天使たちはみんな、神様のお話が大好きでした。


「今日のお話はー……、これ」


 神様の言葉に合わせて、神様の足元にある影が、大きく広がります。

 その影の中からゆっくりと、それはそれは大きな本棚が出てきました。


 本棚にはたくさんの本が隙間なく並んでいて、神様は、その中の一冊をするりと抜き出すと、挟まっていたしおりのところで本を開きます。


「光の剣の勇者が、恐怖の大魔王を倒しに行くお話だよー。この前の続きから、――いよいよ勇者が大魔王のお城に入ったところからだね」


 そうして、お話が始まりました。

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