Re:ゼロから始める彼氏づくり!!

「うわぁぁぁああああ」


がばっ、と毛布を跳ね除けながら飛び起きる。その瞬間、身体中から傷の痛みがーーーー訪れなかった。


「え?」


疑問と当惑に満ち溢れたボクの頭は、それでも、働いていたらしい。いつの間にか来ていたパジャマを脱いで全身を確認するが、やはり、包丁でつけられた傷などといったものはなかった。


「傷が、無い?」


あれは、夢だったのだろうか?いや、でも、意識が途切れる瞬間まで感じていた痛みもあったし、何より、自分の目で家族の遺体まで見たんだ。夢だとは思えない。


「遺体?そうだ!お母さんと妹は……」


「どうしたの!?美樹!何かあったの!?」


その時、バァンと大きい音がして扉が開かれた。その扉を開いたのは、ボクの母親だった。


「え?」


「ん?あ、何だ。何も無いじゃ無い。びっくりさせて」


もちろん、お母さんは血塗れなどではなく、それどころか、怪我ひとつ見当たらない。一体、どういうことだ?


「ほら、さっさと朝ごはん食べなさい。じゃないと、学校に間に合わなくなるわよ」


そのままお母さんに引っ張られていくボクの頭は、ふと、ある一言を思い出した。


『今日中に彼氏を作らなかったら、ですか?そうですね。……端的に言って死にます』


そう発した、女神の一言を。






⭐︎⭐︎⭐︎






「一体、どういうことなんだ?」


やはりあの後、お母さんと妹にも確認したが、ボク達の家には誰も押し入っていないという話だった。


それどころか、食事中に流れていたテレビのニュースが、昨日流れていたものと全く同じものだったのだ。つまり、昨日と日付が変わっていないのである。念のためスマホも確認したが、やっぱり変わっていなかった。


「よ、朝から辛気臭い顔して、どうしたんだよ?」


ポン、と肩を叩かれる。見てみると、そこにはケンがいた。


「いや、別に……」


……、いや、待てよ?ボクはこいつと別れたすぐ後に殺されたんだ。ならばこいつはボクが殺されたのを知っている可能性がある。


「なあケン、昨日のこと覚えてるか?」


「昨日のこと?あ、お菓子の家の夢のことか?それがどうかしたのか?」


お菓子の家の夢。これを話したのは、ボクからしたら一昨日の出来事。つまり、ケンも何も覚えていないということだ。


流石に、ボクもここまで来ればもう分かる。つまりは、こういうことだろう。


ーーー彼氏ができるまでこの1日を繰り返す。


しかも、そのトリガーは死によるもの。信じたくないものだが、これがおそらく事実だ。


ならば、ボクは今日中に彼氏を作ってみせよう。


もう、あの痛みを味わうのも嫌だし、家族の遺体を見るのなんてもっと嫌だ。


それに、今日作って明日お別れをするというのも別に禁止とは言っていなかったはずだ。


ボクは幸いにも今世は美少女だし。楽なタスクだ。


⭐︎⭐︎⭐︎


2年A組3番、つまりは、ボクの下駄箱である。そして、学校に着いたボクは、その下駄箱の中に入っている一枚の手紙に気がついた。


たぶん、ラブレターだろう。なんとも古典的なやり方だが、一月に一枚は入っているので、慣れてしまった。


まあ、昨日今日は入っていなかったのだが。


教室に入ったボクは、早速とばかりにその手紙を開ける。一応、誰にも見られないように努力はしているが、もう一度死にたくないボクにとっては必死な作業だ。


『 放課後、体育館裏で待ってます。


        by 山月やまづき   』


山月……。ああ、山月燈火やまづきとうかさんのことか。


山月燈火。彼は、2年D組の人だったはずだ。それ以外の情報は、男だということしか覚えていない。まあ、話したこともないので仕方ないよね。


「でも、放課後か……」


正直、いつまで殺されないのかというのが未だ理解できていない現状では、放課後まで待つというのはリスキーだ。


自分だけ殺されないで、お母さんと妹は殺されてました、とか最悪だからね。


「よし!」


そうと決まれば、思い立ったが吉日。彼の告白にさっさと返事をしてしまおう。


そう考えたボクは、早速とばかりに2年D組へと向かう。


それにしても、山月くんは幸運の持ち主である。この美少女であるボクと付き合えるだなんて。


まあ、明日にはおさらばするので、たったの一日間だけれども。


ガラガラガラ、と2年D組の扉を開けると、ボクは山月くんの前に立つ。


「え!?あ、え!?何で芦沢さんがここに?も、もしかして僕ごときがラブレターなんて送るなよって直々に説教!?」


変なことを喚いてあわあわしている山月くん。うん、なんとも面白い反応をしてくれる。


というか、1日だけってあまりにも不義理だな。そうだな。せめて1ヶ月ぐらいはボクに付き合ってもらうとするかな。


「山月くん、ボクと付き合ってください」


そんなことを考えながら、ボクは告白の台詞を綴った。綴ったと言っても、ありきたりなものだが。


「え?」と目を点にして驚いている山月くんを前にボクは、もう一度その言葉を発しようと前へ出た。


そう、前へ歩んだつもりだった。


ゴトン、と音がしてボクの視界が反転する。立ちあがろうにも、妙に足に力が入らない。


それに、なぜだか腹回りが熱くて熱くて、そして痛くて仕方がない。


それなのに、すぐ目の前に見えている女生徒は、その足を一寸たりとも動かさない。ボクを助けようとすらしなかった。


何で、と思ったボクの視界には、その足が履いている靴下が目に入った。それは、ボクがいつも好んで履いている靴下だった。

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