asmr!!

「お待たせ、待った?」


「いや、全然」


それから2分ほどして帰ってきた咲の手には、綿棒と一枚の紙が握られていた。


紙?綿棒は分かるが、その紙は何に使うのだろうか?


「これはヤンデレ台本です」


「ああ、そういう」


そういえばヤンデレ耳かきasmrと言っていた。それなら、確かに台本があった方がやりやすいだろう。


「よし、それじゃあほら。こっちに来て」


そう言うと咲は、布団の上に正座して自身の太ももをぽんっと叩いた。


「?私に何をしろと?」


「膝枕だよ。耳かきするにはこれが定番でしょ?」


興奮を抑える。しかし、これでも私は元男。しかも前世ではこのような経験は、一度たりとて経験したことがない。


……いいのだろうか?こんな事態にかこつけて、美少女の膝枕を経験しても、いいのだろうか?


いいや、落ち着けオレ。咲自身がいいって言っているんだ。ならば私はそこに飛び込むと言うだけ。


ぽふっと、まるで低反発枕のような柔らかい感触が私の後頭部を包み込む。…うん、めっちゃ柔らかい。


「はーい、それじゃあ右耳から耳かきしていきまーす。体を左にゴローンとしてください」


「あっ、はーい」


言われるがままに咲の膝上で体勢をかえる私。そうすると余計に、咲の太ももの感触が私の頬にダイレクトに伝わってくる。


これが前世も通してはじめて経験する女の子の膝枕…!想像していたよりも数倍も気持ちいい。


「じゃあ、ヤンデレ耳かきasmr始めていきますね。私、こう言うの初めてでうまくできないかもしれないけど、百香のために頑張るから」


おお、もう役に入り込んでいるのか?確かに、その人のためっていうのは少しヤンデレ要素含めてるかもしれないしな。


「ふうーっ」


「ひゅえ!?」


刹那、吐息が私の耳に吹きかけられ、情けなくも体と声が反応してしまう。


「え!?あ、ごめん。大丈夫だった?よくasmrでは吐息とかあるから大丈夫だと思ったんだけど…」


「ああ、いや。大丈夫大丈夫。ちゃんと気持ちよかったよ」


「そ、そう。良かった。じゃ、じゃあ続けて行きますね〜」


少しビクッとした私の態度にちょっと手を止めた咲だったが、すぐに続きが始まったらしく、綿棒が右耳に近づいてくる。


 ザッ…ザッ…ザッ…ザッ…


という音とともに私の耳に綿棒が入る。asmrさながらの、綿棒と耳の擦れる音。


インターネットの情報とは違い、それはしかして気持ちのいいものであった。


「ねえ、百香。今日、なんで私とじゃなくてあいつらとお昼食べてたの?」


ザリッ… ザリッ… ザリッ… ザリッ…。たまにちょっといいとこに当たって体がピクリと震えそうになるが、それを先に手で抑えられる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る