第30話 古代魔法④

昔々、あるところに、いたずら好きで、嫌われ者の灰色鼠がいました。


ある日、灰色鼠が森をぶらぶらしていると、見たこともない奇妙な形をした洞窟を見つけました。


灰色鼠は「暇つぶしにちょうどいい」と、鼻をひくつかせながら、洞窟探検に出掛けました。

暗い洞窟をずんずん進んで、ついに一番奥に辿り着きました。


そこには、石を切り出して作ったような祭壇があって、その上でどんぐりのお椀に入った、七色の水が輝いていました。


「これはうまそうだ」と、灰色鼠は、七色の水に指をつけて、一口ぺろりと舐めてみました。

すると、天にも上ったようなうっとりした心地になって、洞窟中を踊りまわりました。


「こりゃあ、いいものを見つけたぞ」と灰色鼠はお椀を持って、穴倉に帰ることにしました。

帰る途中のことです。


土からひょっこり顔を出した一匹のミミズと出会いました。


「灰色鼠さん、何を持っているんだい?」


「ちょっと、いいいものさ」


灰色鼠は鼻を天に向けて、ふんと得意げに笑いました。


「へぇ。それは素敵だ! 僕にも見せておくれ」


灰色鼠は自慢したかったので、ミミズに見せてやりました。


ミミズはお椀を覗き込むと「わあ」と飛びのくほど驚いて、その拍子ぬるりと体を滑らせて、七色の水の中にどぼんと顔を浸してしまいました。


灰色鼠は慌てて、ミミズのお腹を蹴飛ばしました。


「こりゃあ、素敵だ。まるで夢の中。ああ、良い気分」


「勝手に飲むなんて、何て悪い奴だ! そんなに飲みたいんなら、海にでも行って、海水全部平らげてこい!」


灰色鼠がカンカンに怒って言うと、ミミズはぴしっと背筋を伸ばして、ぺこりと頭を下げました。


「灰色鼠さんの仰せのままに」


ミミズはそう言うと、海へと行ってしまいました。

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