第46話 双子ちゃんはやっぱり個性的でした

 ゲームセンターに心を惹かれた双子ちゃん。

 特に彼女達はUFOキャッチャーコーナーに興味津々なようで、「やっぱり子どもなんだなぁ」だなんてホッコリしてしまった。


 しかし実はこの当コーナー、中々に規模が大きい。

 おかげで好奇心がユメラ・ユメレともに違う方へと向いていて、一緒に見て回るのは平等ではない感じがする。


 するといつものごとく幻ちゃんがそっとユメラちゃんの手を取り、僕達の前に歩み出た。


「二人とも趣向違うみたいだし、それなら別々に見て回ってもいいんじゃない?」

「そうだね、それがいいかも」

「なら今回はユメレにお父さまを譲ります」

「ありがとうユメラ」


 大人になった幻ちゃんは相変わらず面倒見がいい。

 昔は僕の方が面倒を見ていたものだけど、いつの間にか立場が逆転してしまったようだ。

 懐かしくもあるけど、今となってはとても頼りがいがあっていいなぁ。

 

 そんな幻ちゃんの助けもあって、二手に別れて見て回る事に。

 ユメラちゃんは女の子らしくぬいぐるみなどに興味があるようで、すぐに幻ちゃんを引っ張って行ってしまった。


 それで一方のユメレちゃんはというと。


「この造形はすばらしい。エルフの木彫り師にもここまで精巧な人形を造れる者はいない。これはまさしく神の所業」


 彼女、フィギュアなどにとても興味深々。

 特に力が入っている女の子のフィギュアに強く好奇心を抱いていて、筐体の外から色んな角度で眺めている。

 睨む目つきがとても鋭くてなんだか職人みたいだ。


「これは景品でね、すぐ上にあるアームを動かして取れればもらう事ができるんだ」

「これがもらえるのですか……!?」

「うん。ほら、向こうのユメラちゃんみたいに操作してね」

「なるほど、ここは至高の物品を獲得するために試練へ挑戦する場所なのですね。把握しました」

「なんとなく違う気もするけど多分そう」


 ユメラちゃんの方がやはり行動的らしく、すでに向こうで幻ちゃんに教わって遊んでいる所が見える。

 そんな姿を見て、ユメレちゃんもやっとゲームの仕組みを理解してくれたらしい。


 とはいえ、今見ていた筐体からはすぐ離れてしまったけれど。


「あれ、今の人形は欲しくなかった?」

「はい。あれは観賞用であり場所を取りそうなので、自室の無い今の私には不要です」

「げ、現実的だね……」

「実用性があるものを私は所望します。キリッ」


 なんだかとてもサッパリした雰囲気の子だ。

 例えるならクール度を極限まで高めてエロを抜いた姉さんみたいな。

 おまけに賢そうだから、実は結構すごいんじゃないのこの子?


 その想像通り、彼女はとても賢かった。


 景品は基本的に造形を確かめるためのただの教材でしかなく、飽きてしまえばすぐ次に行ってしまう。

 むしろ僕が興味を示した物への方がずっと執着を見せてくれるのだ。

 しかもそれで率先して挑戦したいというのでやらせてみた結果――


「取れました」

「一回で!? 初めてなのに!?」

「動作やからくりの掴む力などは他に挑戦している方を見てすでに把握していますからあとは位置・角度とタイミングを計れば確実に取れます。あと操作タイミングによっては失敗を誘発する仕組みがあるようですがその辺りは設定者の意識を意思の残滓より汲み取って最適パターンを導いた上で魔力にて固着すれば悪意の無効化は可能です」


 何を言っているのかはさっぱりわからない。

 けれど多分、魔法とかそういうのに長けているエルフだからこそ読める何かがあるのだろう。

 そんな論理を地球にまで持ち込めてかつ利用できる彼女はもしかしたら超天才級となりうる存在なのかもしれない。


 自分の子ながら論理を超越したその才能が怖い!


「と、とりあえず取ってくれてありがとうね」

「お父さまのためならば」

「う、うん、それはありがたいけど……ユメレちゃんは何か欲しい物は無いの?」

「欲しい物、ですか……でしたら私はあれを所望します」


 で、そんな天才少女が指し示したのは、巨大なバナナのぬいぐるみだった。


 普通の筐体とは違う、縦に長いボックス状筐体の景品だ。

 どうやらぬいぐるみを吊るした紐を断ち切る事で手に入る仕組みらしい。


 でもどうしてよりにもよってバナナなのか。


「一目見た時から気になって仕方がありませんでした。しかし仕組みを知らないまま挑めば討ち死には必至。ですので色々と確かめてから挑戦してみたかったのです」

「そ、そう……じゃあやる?」

「はい。今なら獲得可能だと思います」


 しかしこう言い切った以上はもう止まらない。

 狙った物の一発獲得という実績を得たからこそ、彼女はついに次の狙いを本命へと定めたのだ。


 そして案の定、二トライでゲットしてしまった。


「す、すごいねユメレちゃん……」

「仕組みさえ把握してしまえばとても簡単でした」


 それで今は自分より背の高いバナナをギュッと抱き締めて場から動かない。

 さらには顔をぐりぐりと擦り付けてその太さを堪能しているし、股にも挟んでいるから見た目がもう妖しい事この上無いんだけど?

 なんかとろんとしている目がちらっと見えた気がしたけれど、これはさすがに気のせいだと思いたい。


「よ、良かったねユメレちゃん、欲しいのが取れて」

「ンッスゥ~~~はひ、最高ですぅ……お父さまのバナナ」

「誤解を生むような事は言わないで?」

「だってお父さまのお金で手に入れたものですもの」


 でも全然気のせいじゃありませんでした。

 この子、公共の場だろうが関係無く盛っているようです。

 なんだろうね、僕達秋月家の血筋を変な所だけ受け継いでいるのかな?


「お父さま」

「何かな?」

「早く帰りましょう。私はこのぬいぐるみを抱きしめて眠りたい」

「そういう欲望に忠実なところは間違いなく僕の子だって認識させられたよ」


 それも気のせいじゃないと何となくわかったし、これで再認識つうかんした。

 加えてアリムさんの強情さもしっかり出ているから、ユメラちゃんもユメレちゃんも間違いなく僕達の子なんだって。


 強引強気なユメラちゃんと、冷静沈着なユメレちゃん。

 外見も仕草もそっくりだけど、二人ともしっかりとした個性がある。

 ちょっと癖も強いけれど、どこにも僕らの面影が見えるから嫌じゃない。


 だからきっと姉さんも幻ちゃんも面倒を見たいって思えるのだろう。

 そういう意味では、旅館で子どもができる事も悪くはないのかもしれないな。

 しっかりと自分の血筋だって認識できる子が生まれるんだからね。

 二人に関しては僕の子っていうよりも僕達の妹って感じだし。


 そうも思うと、これからなんだか楽しくなってきそうだ。

 新しい家族が増えた――その意味がより強く実感できたのだから。




 ちなみにユメラちゃんは絶望的にゲームに弱いようで、成果は驚きのゼロ。

 なのでユメレちゃんのバナナを見て欲しがるもののゲットは当然ならず。

 ユメレちゃんにも協力してもらえず、床に崩れ落ちる姿を晒す事になったという。

 

 この双子自体は仲がいいのか悪いのか、それだけはまだよくわからない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る