第11話 ひとつになりたい

 ゼーナルフさんのおかげで事なきを得たのは幸いだった。

 けどまだ禍根は残っていそうだし、ちょっと不安だなぁ今後。


「そろそろスキンシップもそれくらいにしておいて、お前さん達も温泉を楽しんだらどうだい?」

「ははは。それもいいんですが、実はもう結構長く入っていたものでして」

「おや、そうだったのか」

「とても長く、ユメジと入っていた。とても心地良かった。ゼーナルフもユメジに抱かれるといい。とても心安らぐ」

「それは遠慮しておこう。俺にそういう趣味は無いんでな」

「って事はやっぱり異世界にも同性を好む趣味ってあるんだ……」


 ともあれ騒動も収まったし、ついでにレミフィさんのスキンシップもようやく終わったようだ。

 体の方はまだ離してくれそうにないけれど。


 それでゼーナルフさんが僕達から離れるように一歩を踏み出したのだけど。


「あっ、そうだ!」


 しかしその時ふと踵を返し、気付いて振り向いた僕達に片手を振り上げていて。


「せっかくだし、後で一緒にメシでもどうだー? 三人でよぉ!」

「ユメジが行くなら、アタシも行きたい。どうする?」

「……それなら後で合流しましょう!」

「よぉし、じゃあ二時間後に食事処で集合しようか!」


 どうやらあの人はなかなかに社交的らしい。

 トラブルを解消してくれたどころか、食事まで誘ってくれるなんて。

 なので僕はもう食べた後だけど、感謝の気持ちも兼ねて付き合おうと思った。

 レミフィさんもだけど、ゼーナルフさんの事ももっと知りたいし。

 ピーニャさんには悪いけど、約束は明日に伸ばしてもらうとしよう。


 それで僕はレミフィさんと共に一足早く浴場から退出。

 その後はひとまず二人で僕の部屋へと行く事になった。


 なんだかレミフィさんの愛は結構重いみたいで、僕はずっと抱かれっぱなしだ。

 衣服を纏う彼女もなかなかにセクシーで、感触は浴場にいた時と大差ない。

 皮製の半袖白ジャケットに短パン、あとボディラインと白い体毛を強調する蒼色のタイツが、なんとなく彼女の性格を表しているかのようでね。


 ちなみに露出した丸い尻尾がとってもチャーミング。

 彼女のワイルドな性格とのギャップがものすごくたまらない。


 それで、そんな妄想をしつつ部屋に帰って来た訳だけど。


「ピーニャさん……なんで僕の布団で寝てるの」


 ピーニャさんは現在、絶賛爆睡中。

 鼻ちょうちんをぷわぷわと膨らませ、布団にくるまれてとても気持ちよさそう。

 確かにもう部屋は片付け終えてるけど、いくらなんでも自由過ぎない?


「ああなるとピーニャ、絶対起きない。だからここで休んでも、平気」

「あ、あはは……よくご存じですね」

「この子、えるぷりやの問題児だから。おもしろいけど。あとおもしろい。プゴォ」

「大事な事ですよね……」

 

 そんなピーニャさんの事をレミフィさんもよく知っているようで、容赦さえしない。

 初めて聞いたような笑い声と共に歩み寄り、傍に座り込んでは頬を掴んで引っ張ったり、こねくり回したり。

 極めつけはその丸い尻尾で鼻をフリフリと触り、くしゃみまで誘発してみせる。


 それでも起きないピーニャさんもすごいけど、いたずらをするレミフィさんもなんだかすごい。そのギャップが。

 えっと彼女、冷徹姫とか呼ばれてませんでしたっけ?


「つまり、ここで何、してもイイ」

「えッ」


 けどその直後、レミフィさんが今度は僕へとすり寄ってきた。

 それも上目遣いで、ニタァと妖しく、八重歯の映える笑みを浮かべながら。


「どれだけ暴れてもイイ。大きな声、出してもイイ」

「さ、さすがに騒音はまずいんじゃないかな?」

「隣にも外にも聞こえない。ここは完全防音のプライベート空間。だから、何しても……イイッ!」

「うっわぁ!」


 そしてとうとう、彼女の両手が僕を掴んで押し倒す。

 たとえ畳の上だろうが関係無く、ただただその欲望のままに。


 それで気付けば僕が見上げ、レミフィさんが跨るという状態となっていて。


「スキ、止められない。アタシ、ユメジと一つ、なりたい」

「レ、レミフィさん!? ま、待とう、僕達まだ今日出会ったばかりで……」

「この旅館はっ! 一期一会っ! 二度目あるか、わからないからあっ!」

「ひ、ひょええええ~~~!?」

「だからぁ、いっぱい、愛したげるね?」

「お、お手柔らかにお願いいたします……」


 その後はもう、また彼女になされるがままだった。

 ……とはいえ別に性行為を行った訳じゃないのだけど。


 どうやらレミフィさんの種族は、愛情表現として相手の体をあちこちと噛むらしい。

 強く想う方が伴侶を噛み、噛み痕を付けて占有を示すのだそう。

 この場合はもうレミフィさんが噛まないと気が済まないんだって。


 とはいえ占有というのは儀式的な話で、実際に占有権が生まれる訳じゃない。

 その事はレミフィさんもわかった上で、ただ噛みたくてたまらなかったのだと。

 それが彼女にとっての何よりもの性的欲求だったから。


 愛情の形は種族・生物にとってそれぞれ。

 その事をここで改めて教えられた僕なのでした。

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