第9話 レミフィ・ザ・パーフェクトレディ

 ひょんな事から僕はレミフィさんという女性と知り合った。

 しかも出会って数分で体を重ね合うという進展具合だ。

 こうなったきっかけはよくわからないけれど。


 それで今も彼女を抱き締めながら温泉を堪能中。

 彼女が静かにもたれかかる中、僕は両腕で支えながら周囲を見渡していた。


 本当に色んな種族がいるものだ。

 肌の色も多種多様だし、「温泉が本当に必要なのか?」って思えるような液状生命体だっているし。


 ただ、人間のような生物はどちらかといえば少ないほう。

 いない訳じゃないが、比率で言えば一割未満だ。

 人間がこの旅館をあまり必要としていないのか、それともここに達せる精神が無いと判断されているのか、それはわからないけれど。


 とはいえだからこその優越感もある。

 このすごい温泉を楽しめたのは僕だけ、みたいな。


 ちなみに僕とレミフィさんのようなスキンシップを行っている人は他にもいる。

 けど誰もその事をちっとも気に留めていないようだ。

 性的行為に至ってる人まではいないみたいだし。


 うーん、みんな高次元だなぁ……僕も見習わねば。


 そう心に思いつつ、再び周囲を見渡してみる。

 するとそんな時ふと、僕の視界に気になる存在が映り込んだ。


 どこか人間っぽい女性だ。

 それもなんだか色白の肌がとても綺麗で背が高く、スタイルが抜群にいい。

 エルプリヤさんにも負けない金色の髪も長く美しく、湿っているとは思わせないほどに柔らか。

 耳がやたら長い気もするので人間そのものという訳では無いのだろう。


 ただとても魅力的。

 なので気付けば思わず見惚れ、見つめてしまっていて。

 

「ムッ……!」


 けど直後、彼女が僕の視線に気付く。

 それもなんだか唇を尖らせながらに。


 それで何を思ったのか僕に近づいて来た。

 温泉をもかき分け、どこか荒々しく。


「この……ッ!」

「えっ――」


 するとその途端、頬に衝撃が走った。

 女性がいきなり僕の頬を平手打ちしたのである。


 何が何だかわからない。


「女を抱きながら下卑た視線を私にまで向けて……! これだから人間は!」


 しかも彼女は僕を見下し、嫌悪感さえ露わにしていた。

 それだけ僕の事が気に食わなかったのだろう。

 だからっていきなり平手打ちなんてひどいと思うんだけど?


「オマエッ! 今! 何した!」

「はぁ!?」


 しかしそんな時、レミフィさんが真っ先に女性の前へと立ち塞がった。

 その豊満な身体を震わせ、女性へ反発し始めたのだ。


 でもこんな時ですいません、真っ白いお尻がとても眩しいです。


「ユメジ、イイ男だ! それをオマエッ!」

「知らないわよそんなの。人前でこんな破廉恥な事をする奴の気が知れないわ。あなたもあなたね、こんな低俗な人間にたらしこまれて情けなくないの?」

「訂正、しろおっ!」


 だけど事はどんどんエスカレートしていく。

 止める隙も無くレミフィさんが女性に掴みかかっていて。


「ちょ、やめなさいよ!」

「ならオマエ! ユメジに謝れ! 今すぐ!」

「なんで私がそんなことしなきゃいけないのよおッ!」


 遂にはとうとう取っ組み合いの喧嘩にまで発展。

 周囲がざわめく中、湯船から飛び出して床面で体を抑え合う事態に。


 ただしレミフィさんは決して殴るなどの手を出したりはしない。

 女性を抑えようとして節々を掴み、ただ謝罪を要求し続けるだけで。


 でも一方の女性はもう抵抗するまま、ひっぱたりたり殴ったり、蹴ったりとやりたい放題だ。

 レミフィさんの方が体が大きいから、そうでもしないと抵抗にならないからだろう。

 とはいえ暴力的でとても見られたものじゃない。


 だからか、僕も止めるに止められなかった。

 いや、止めようとしたけど「近づくな!」と逆にレミフィさんに怒られてしまって。


「あの男、アタシの心を癒した! 紛れも無いイイ男だ! それをオマエは知らないで罵倒! 許せる訳ない!」

「うああああっ!?」


 というより途中からレミフィさんが圧倒し始めた。

 自慢の体格と体技で女性を縛り付け、まるで卍固めのごとく体を締め付ける。

 これには女性もたまらずうめき声を漏らすほどだ。


 その二人の女性が絡み合う姿はもう色々とすさまじい。

 けど僕にはもうこれがイヤラシイだとか思う事もできやしなかった。


「ああああッ! いったたた! わ、わかった、わかったからぁ!」

「ちゃんと約束する! ここは争いよくない場所! 何があろうと手をあげる事、悪い事だッ!」

「や、約束、するうっ! しますからあっ!」


 ただただ、レミフィさんがすごい。

 その体術もだけど、この旅館に対する意識の強さも。

 僕の為に怒ってくれた事もだけど、すべてで圧倒されてしまった。


 綺麗だとか可愛いだとかいうよりも、憧れるといった感情が出てしまうほどに。


 きっとそれは周囲も同じように思っているのだろう。

 見回せばギャラリーも揃って「ウンウン」と頷いている。

 どうやらアウェーなのはあの気丈な女性の方だったようだ。


 それでレミフィさんが女性を解放し、仁王立ちする。

 そうそそり立つ姿は実に頼もしくもあるし、ボディラインが整っていてこれまたとても綺麗だ。

 まさにパーフェクトレディの名が相応しい人と言えるだろう。


「くっ……」

「謝罪、早く」

「そ、それは……」


 でも一方の女性はこの期に及んでまだ謝ろうともしない。

 ここまで行くと、さすがに僕でもわかってしまった。

 あの人は僕と同等か以上に精神が未熟なんだって。


「アリム! 何があった!」

「ッ!? ジニス!?」


 だが場が纏まりそうだったその時、誰かの声が場に響く。


 その中に現れたのは、女性と似たような姿の男。

 それもレミフィさんにも負けないほどの強そうな体付きの。


 もう、せっかく落ち着きそうだったのに!

 このままじゃあもっと大変な事になっちゃうぞ……!?

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