第8話 異世界人はとても積極的です
体も洗い終えた所で、さっそくと温泉へ浸かる事にした。
それでまずは目の前にある湯舟へと身を沈めてみる。
「ふぅ~……丁度いい温度だ。染みわたるゥ~」
水質は至って普通だ。
透明質でそれほど匂いも無く、おまけに言えばとても綺麗。
このまま飲んでもいいのでは、とさえ思えるくらいだ。
そんな湯船に肩まで浸かり、さらには奥のガラス窓まで身を寄せる。
どこかもわからない紅葉の広がる壮大な景色、それをバックにして温泉を堪能する……なんて解放感のあるシチュエーションなのだろうか。
まるで大自然の中を全裸でいるような気分にさせてくれるかのようだ。
そんな気分が堪らず僕の目を瞑らせ、頭をガラス窓に預けさせた。
思わず「ああ~~~」って溜息を漏らしながら。
それだけ温泉も気持ち良かったし。
それと不思議と、体の芯まで熱が伝わっても嫌気が一切無い。
ずっとこのまま浸かり続けてもいいって思うくらいに心地いいんだ。
これが異世界の温泉かぁって思わず零しちゃうほどに。
けど、そんな時だった。
途端、僕の右太ももに妙な感覚が走ったのだ。
まるで何かが触れて蠢いているような感触が。
それでふとまぶたを開いてみてみたのだけど。
よく見たらなんか誰かの手が載せられていた。
それどころか僕の太ももに触れ、腰へと向けてなぞっていたんだ。
それでその手に沿って右へ向いてみれば――なんとさっきのウサギの人の姿が。
「えッ!?」
だから思わず驚いてしまった。
いつの間に隣へ来ていたのかって。
温泉に集中していて近寄っていた事に気付かなかったのか!?
ってもう近いんですけど!? もう肩と肩が当たりそうなくらいに!
い、いやもう遅い! 彼女の肩や頭が僕に寄り掛かって来た!
大きな耳が、僕の頭に乗って……!?
「アナタ、さっき見てた」
「は、はい、ごめんなさい……」
「名前、教えて?」
「あ、ゆ、夢路です……秋月夢路」
だからもう言われるがままだ。
罪悪感と緊張で動く事も叶わない。
そんな彼女は少し片言。
それだけで意思疎通ができる世界出身なのか、あるいは未発達な文化なのかはわからないけれど。
ただその手つきはなんだかこう……とても前衛的だ。
太ももに触れていた手はすでに腰へと移り、思うがままに僕を撫で回していて。
「ユメジ。とっても元気……アタシ、レミフィてゆうの」
「あ、その……よろしくお願いします」
「ん、よろしくねぇ」
僕が抵抗できないのを良い事に、何だかもうやりたい放題。
今では愛撫が僕の胸まで達し、もう我慢するのでやっとだ。
それでも危ない所だけは過ぎ去ったからまだ耐えられそうだけど。
けどレミフィさんの行動はそれだけでは済まされなかった。
なんと何を思ったのか、僕の股へと乗り掛かって来たのだ。
またぐらに入るように、体にもたれるようにして。
そしてそんな彼女の後頭部が僕の肩へと寄りかかり、さらには柔らかな頬が僕の顔へと触れる事に。と、とても近いです……!
「ユメジ、女の子、スキ?」
「え、まぁ、ハイ」
「アタシ、スキ?」
「か、可愛いと思います!」
「ん、ありがと、うれし」
そんなレミフィさんの吐息からはとても甘い香りがした。
それに湯面から出た肩からも良い匂いが漂っているし、首元の体毛も水を吸いながらもしっとりとしていて僕の肌を刺激する。
おまけに言えば股間同士がピッタリと当たっているし、もう何も隠しようがない状態だ。
まるで全身で僕を誘っているかのような感じ。
これじゃあもう理性を保たせるのに必死で何もしようがないじゃないか!
突き放すのも失礼極まりないし、どうしよう!?
そんな状況だからもうレミフィさんもやりたい放題だ。
今度は僕の腕を自身に寄せ、体を抱かせるように回す。
まるで「抱きしめて」と言わんばかりに。
だからもう、僕は我慢できなかった。
気付けば彼女の望むがままに、その柔らかな身体をキュッと抱き締めさせられていたんだ。
「あっ……そのまま、いて?」
「えっと、抱き締め続ければいいですか?」
「ん、ありがと……あり、がと……んん……」
とはいえ、別にそのまま行為に至る訳でもない。
それどころか、ふと目元を見たら彼女はなぜか涙を流しているようにも見える。
それが湿気からなのか、本物の涙かどうかはわからない。
けど今は「彼女を抱き締め続けてあげたい」と――そんな情動がなんとなく沸き上がっていたんだ。
彼女が純粋にそうされる事を望んでいるなら、と。
そう思っていたおかげで、僕は冷静さを取り戻し始めていた。
彼女がいかがわしい行為を目的としていた訳じゃないってわかったからかな。
きっとこれも彼女流のスキンシップの一種なんだって。
この異世界旅館は憩いや癒しを求める者が集う場所。
ならもしかしたらレミフィさんは心の癒しを求めてここへと訪れたのかもしれないな。
それもこうして、僕のような男に純粋に慰めてもらう事を目的として。
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