第4話 辞めてしまいますか?


四つめがなかなかに見つかりませぬね


これで仕舞いなのでせうか?



……調子はどうですかって?



僕の頭のネジなんぞ2、3本欠けたとて


誰も気付く人もおらんのですよ。




……じゃあ何で、あんなに悲壮だったかって?




それがどうにも分からんのです。



失ったのでせうな、色んなものを。



書く事を辞めようと思った事なんて、あのお星さんぐらいあるのですよ。



……じゃあ、何故今も書いているかって?



それしか無いと言えば


言い訳にしか聞こえませぬか




実はね、僕には列記とした大切な人がおります


だから、恋から愛にはしない




揶揄った訳ではないのですよ



恋は何度落ちても恋



僕はその華の輝きが如何に美しいかを知っています





ーーーー…鞄から僕は手帳を取り出した



月明かりに向けて読み始める。



無言であったが、貴方がじーっとそれを覗き混んでいるのは

気配だけで分かるのです。



その気配に…思わず振り返って奪いたくなったのは


きっと気の迷いで御座いませう。




君は何時も僕の肘

僕は変わらずまるで傘を掛けるように

肘を曲げるだけ

それ以上に手を繋いだりは何も無い


当たり前に気付いたらそうで

無意識でもやっぱり変わらない


心地よい午後の風の中

君が黒い春先のトレンチコートを羽織るものだから

似過ぎやしないかと僕は笑った


見上げればまっさらな蒼に真っ黒な烏

案外似合うかと

僕は君と微笑み

空を見上げ風に迎えられた



……予定と言うよりは日記か詩ですねぇ



と、貴方は不思議そうに聞いた


えぇ、そうなんですよ。

昔から予定帳に予定を書かぬのです。



その日の日記を書いてしまうのです。



だって余白が勿体無いじゃあ、ありませぬか。



けれど、余白がない程忙しい時もありました。



それはそれで、ほら……



後ろに小さなメモ帳を挟むか、

リング式に態々買い替えて

罫線だけの頁を足してしまうのですよ


……では、ノートを持てば良い?



あはは、それがですよ。

持っているのです。



……えっ?



そんなに変ですかねぇ。



忘れそうになった漢字、読めなくて悔しかった漢字はスマホにメモして…

後、変換で一発で出ないものも。


ノートは資料と、いきなり物語が降って来た時用に。

一気に書き始めるものだから、手帳で足りんのです。



メモと言えばねぇ、


大切な人に良く叱られるのですよ。



喫茶店や飲食店によくある

口や手を拭く薄い紙切れに


急に店員を呼んで


「メモをしたいからボールペンを貸してくれ」


と、よく言うのです



それが、みっちりになる程書いたら


家で大騒ぎをするのですよ



紙が薄いものだから


帰った頃にはクシャクシャになり


鞄の何処かで隠れん坊をしているのです



また貴方、鞄をゴミ屑にしてと笑われるのですよ


ゴミ屑呼ばわりとは失礼でしょう?


けれども見つけた時はその姿に


確かにゴミ屑だと僕も思うのです



けれど、開くと精々僕には価値のある物なのです


さっきの日記の様な詩も


始めはゴミ屑だったのですから



……あれがゴミ屑?



…えぇ、元はゴミ屑で御座います



でも、ゴミ箱に捨てるには些か勿体無いと思いましてね


だから手帳に清書しただけ



そんな気紛れが、急に集まって大きなうねりとなる時がある



僕は僕自身で書いている自覚なんて


これっぽっちも無いのですよ


何かに書かされているのです



神様なら良いけれど


今夜見えない化け物かも知れません




……そんなに脅かさないでって?




ほんの肝試しですよ




僕の頭に


もし、もしも全てのばら撒いちまったネジを集めた時


薄ら夜明けが来て



貴方が口裂けの化け物か


はたまた光にすうーっと

消えちまうんじゃないかとそう思いましてね



…………そうだったらどうするって?



おや、今度は僕の肝を試しているんですね。


それでも礼の一つは言わせて下さいよ。


どんな姿だろうと


今夜にもこの出会いにも


意味は必ずあるのです。



何時か僕は、この貴方との不思議な出会いを


書く筈なのですから


この謎めいた恋に


どう決着を付けるのか


今の自分ですら分からんのですよ






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