第10話

ドラゴンそれは英雄譚で謡われる災厄の代名詞、何者よりも早く飛び、鱗は堅牢でどんな剣でも貫けず、その吐息はすべてを焼き尽くすと言われる存在


そんなモノがすぐそばに居る


「・・・・冗談ではあるまいな?」


自分の口から驚くほど冷たい声が漏れ出る、冗談で言っていいことではない、ドラゴンなど種類にもよるが下位の亜竜でも村を滅ぼすには十分だ


「・・・・冗談じゃないさ、俺も言っていい冗談と悪い冗談の区別くらいはつく、本当だ本当にドラゴンを見たんだ」


「ではなぜ、それを黙っておる・・・!、それが事実であれば村が滅ぶぞ!」


出来るだけ声を抑えながら、だが感情までは抑えきれず語気が強くなるのを感じながらノッジを問い詰める、森の異変までは予知していた、だがハグレの異種が迷い込んだ程度に考えていたがまさかドラゴンとは・・・!


「俺もそう思って、村長たちに相談したさ」


「ならば!」


「ドラゴンのことを報告したら、薬師のグレタ婆さんが言ったんだよ「詳しく見た目、大きさを説明しろ」ってな、それで見たまんま伝えたら「巣立ったばかりの幼竜、それも下位のモノ、都市部の狩人なら狩れる」って言われてなぁ」


「・・・・おい、まさか」


「ご明察、都市部の狩人にできるなら俺でも狩れるんじゃねぇかと言われた」


ほら、前に来た流しの狩人に言われてただろ、都市部でも俺ならやってけるってな


そう言いながら苦い顔を浮かべるノッジを見て、急激に自分の中の”ナニカ”が冷えていくのが分かる


「それで、なんじゃお前さんにドラゴン退治でもやらせる気なのか」


「いや、さすがにそこまでバカじゃないらしい、ドラゴンなんてそれこそ吟遊詩人が唄う物語でした聞いたことがないが、それが良かったんだろう、俺だけに任せるのはさすがに不安だから、都市部の狩人を呼んでくるからそれと協力して欲しいだとさ」


「・・・・・賢明じゃな」


そう言いながらほっと息を吐く、危なかったこれでノッジ坊一人に行かせるとでも聞いていたら、きっと儂は・・・・


「ん、待てよ」


だが安心して気を抜こうとした時、思い出す自分が何をしにここに来たのかを


「・・・・なぁノッジ坊」


「なんだい、爺さん」


「狩人たちが到着するのはいつごろになりそうじゃ」


「・・・一月くらいかかるだろうな、街の狩人なら1週間もせずに来るだろうが都市部はここから往復で2週間は掛かる、それに準備やら手続きやら考えるとな」


「・・・なるほど」


一月、一月かぁと頭を抱える


「・・・ドラゴンが気まぐれを起こして森の浅い場所に来ないことを祈りながら森の恵みを頂戴するか、このまま座して森に呑み込まれるかの二択というわけじゃな?」


それを聞いて、やけくそとばかりに口角を上げノッジ坊が笑う


「大正解!」


立つ鳥跡を濁さずどころか、飛び立つ前に鳥が喰われそうじゃなとため息を吐く、どうやら旅立つ前にとんでもない大仕事が残っていたらしい


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