第3話

「あ、爺ちゃんおはよー!」


朝日と朝食の匂いに釣られ目を覚ましてみれば、いつものように朝食を作っていたリリアがいつにもまして元気に挨拶をしてくる


「あぁ、おはよう」


そう返事を返せばとても嬉しそうに顔を緩ませ、トントンと足で軽くリズムを刻み始める、毎朝のことだがこんな爺の言葉一つでここまで上機嫌になるのを見ると少々複雑な気持ちになるものだ

なにせ行商人の気の利いた世辞にも、村一番の男前の告白にも少しも表情を変えない娘だ、不思議に思って聞いてみても「爺ちゃんが好きだから!」しか返ってこないので最近は質問するのもやめてしまったほどだ


「今日はねー、朝ごはんに爺ちゃんが好きなケルビの肉を焼いて、付け合わせにリークル草と野草のサラダでしょー」


「あ、あとお昼に外で食べるように肉の方は味濃いめにしてサンドイッチにしようと思うんだけど、爺ちゃんなんか他に食べたいものあるー?」


「いや、それで十分すぎるくらいじゃよ」


「そっか、ならもう少し待っててねー!」


トントンというリズムを刻む音に「~♪」機嫌の良さそうな鼻歌が混ざり始める


「(ふむ、この調子ならあと10分もすれば出来上がるか)」


それを見ながら聞きながら昨日の夜のことを思い出す、正確にはリリアが眠ったあとのことを


『一緒に旅に出る』最終的に思いついたソレについて考える


あの子のことだ、一人旅は嫌がるだろうが二人旅ならきっと笑顔で頷く、問題はこれだといつまでもあの子が親離れもとい爺離れできないことか

だが、まぁそれも問題あるまい外の世界には魅力的で素晴らしいものがたくさんあるきっと旅をしていれば自然と儂より夢中になれることが見つかるだろう

それが一体なんなのかまでは思いつかないが見つかるまで一緒に旅をすれば問題はあるまい、老い先短いこの命の最後の仕事というわけじゃ


「・・・うむ、我ながら名案じゃな」


「んー爺ちゃんなにか言った?」


「あぁいや、なに少し考え事をしていただけじゃよ、それより儂のことは良いから手元から目を離さんようにな嫁入り前の体に傷がついてしまうぞ」


「爺ちゃんは心配性だなー、もうできたから大丈夫だよ!」


そう言いながらくるりと体を回しこちらを向いて歩いてくる、両手には器用なことに料理が乗った皿が何枚も乗せられており、そのまま少しもふらつくことなくテーブルに料理が並べられていく、あいも変わらず素晴らしいバランス感覚じゃ

並べられた料理は数日前に狩ったばかりのケルビの一番うまい尻の部分を手製のタレでじっくり焼いたものに、昨日採ってきたばかりの新鮮な野草を作ったサラダしかも薬草としても知られるがそのままでは独特の匂いを放つはずのリークル草も入れられどうしてかほのかに甘い良い香りを放っている


「今日も朝から良い出来じゃなぁ、リリアは嫁の貰い手に困ることもないじゃろう」


「もぉ爺ちゃん毎朝同じこと言ってるよ、嬉しいけどさ!」


「ほっほっほ、そうかのぅ」


「そうだよ、ほら爺ちゃん精霊様にご挨拶して早く食べよう、せっかくのご飯が冷めちゃう前にさ」








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