第2話

すぅすぅと規則正しい寝息を立てる家族を見ながら


「・・・・・はぁ」


今日も同じ結果になったと、胸の内で呟く


「・・・・・・・」

二人で寝るには少々大きなベッド、この子が、リリアが強請るものだからつい買ってしまった、大きなベッドの上で眠る少女を、大切な家族を見る


自分よりほんの少し小さな、女性としては大きな体躯、自分とは似ても似つかない真っ赤な髪に、つり目の少しキツイしかしとても美人に育った顔を見て、もう一度ため息をつく


「どうして、こうも甘えん坊に育ってしまったのやら・・・」


そう言いながらいつものように撫でてやれば、寝ているにも関わらず、にへらとだらしなく嬉しそうに顔が歪んでいく


「・・・・・お前さんにはたくさんの未来があるんじゃぞ、まったく」


こんな老いぼれと共にずっと生きていきたいと言う少女


才能に満ち溢れた大切な家族の頭を撫でる


かつて、殺した女の胎から転び出た、今やたった一人の家族の頭を丁寧に丁寧に撫でていく


「・・・・・どうしたものかのう」


ここで自分と共に生きる、確かにそれは平凡で退屈だろうが幸せになれるだろう


村の者たちは善性のものだ、中には捻くれたものもいるがこの子なら何の問題もないだろう、きっと自分が死ぬまで、いや自分が死んでもこの子はこの緩やかな日常を繰り返すことだろう


だが


「勿体ないのお」


呟く、口から出たそれは自分の内心を的確に表していた


「派手な髪に関わらず、どのような獲物にも気づかれぬほどの隠形」


真っ赤なまるで血のような髪を撫でながら呟く


「見かけによらぬ、化け物をも一撃で砕く力」


細い、しかし触ってみればすぐに分かる力を秘めた腕


「四足の獣ですら影を踏めぬ速さ」


しかりと引き締められた脚


「無より魔術を創造してみせた、優れた頭脳」


自らの手の下にある小さな頭を撫で


「そして、なにより」


最後に顔を覗き込む


「・・・うむ、やはり美しい、自慢の子じゃ」


自分が生きて来た中でもっとも美しく可憐で、目に入れても痛くない家族の顔を見る


「だからこそ、勿体ないのぉ」


鍛えれば万夫不当の英雄となるだろう、学べば歴史に名を残す賢人に、着飾れば傾城傾国の美女になりえるだろう


そんなどう足掻いても歴史に名を残すだろう子が、大切な家族がこんな凡夫の傍でその輝かしいはずの生を終えると宣う


「・・・・どうしたものかのぉ」


顔を上げ、月を見上げる


悩んだ時はいつもそうしてきた、夜空に浮かぶ美しい月それを眺めれば良い考えが浮かぶような気がした


「儂の傍にずっと居たいと言う、大切な家族」


「そんな家族に輝いて欲しいと願う儂」


そう、夜空に浮かぶ月のように、美しく暗闇を照らす月のように


自分はそれをこうやって、遠くで見上げて眺めることが出来ればそれで満足なのだ


「・・・・やはり、無理やりにでも旅に出すべきかのぉ?」


考えて、考えて


思考が一番最初に考え付いた方法を検討しようとして


「じいちゃん・・・・」


聞こえた声に思考が現実に引き戻される


「ずっと、ずっと、いっしょ・・・」


いつの間にか自分の服を掴んでいる手を見て、冷静になる


「・・・・はぁ」

旅に出す、良い考えかもしれない、きっとこの子はこのまま外に放り出しても大丈夫だろう


だが、泣くだろう悲しむだろうそれはどうにも嫌だった


「いっそ、一緒に旅にでるかのぉ?」


だからこそ、悲しませないように、泣かせないようにはどうすればと考えて


「・・・・ん?」


ふと、口から無意識に漏れた言葉が耳に入り


「一緒に旅に出る」


すとんと腑に落ちた


「そうじゃ、儂が連れて行けばいいのか、どこまでも」








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