第32話

 ボーイッシュ系の衣装に着替えて……というか俺は元から男だ。

 あと一年もすれば、筋肉ムキムキになって必殺技の一つも使えるようになるはずだ。

 だからボーイッシュなのではなく男、いやむしろ漢だ。

 髪をポニーテールにして帽子被ってサングラス装着!

 船を探検する。

 紫苑や清水も一緒だ。

 広いところに来ると探検したくなる。

 悲しき男子の宿命よ。

 大人は同じ船で行われているカジノの先行体験イベントに行っている。

 俺たちを描いたイラストが使われるんだって。

 パチンコと同じだろう。

 今回はお金をかけない。

 無償で配られたコインでゲームをするらしい。

 増えたコインは俺たちのキャラグッズと交換できるらしいよ。

 なんで「らしい」かと言うと、未成年は入場禁止だからだ!!!

 キッズはゲームコーナーのメダルゲームで遊んでろってことである。

 それにしても……ゲームコーナーを撤去してないあたり、わりと手抜き感あふれてるなあと。

 よく見ると古い区間と、作り直された区間が存在する。

 建築とか船に詳しくないから断言できないけど、コ○ンならすでに推理を展開してるに違いない。

 コナ○時空の犯罪発生率から考えて五人は死んでいるだろう。

 なお乗客の誰も俺がラーナであることがわからないのも、○ナン時空のゆらぎの影響だろう。


「けんちゃんが……また頭の悪い妄想してる……」


 お黙り!

 男子中学生の頭の中なんて、くだらない妄想とエロのことでいっぱいだ!!!

 うん……【世界のため!】とか言ってるやつをまったく理解できないサイドの人間だと自覚した。

 ゲームコーナーに到着。

 クレーンゲームの中を見ると知らんキャラばかり……。

 おそらく俺の生まれる前のキャラばかりだ。

 よく見ると繊維が日に焼けて変色している。


「けんちゃん……これお母さんが好きなキャラだ……」


 昔の少女漫画のキャラだ。

 漫画のタイトルは知っているがストーリーは知らない。


「蘭童くん。こっちは30年前の脱衣麻雀だって……」


 昔の絵柄の麻雀ゲームが置いてある。

 この船……おっさんの出張用の気がする。

 なぜ置きっぱなしにした?


「やっぱりこの船……中途半端にリニューアルしたんじゃ……」


 頭の中にコ○ンのテーマが流れた。

 俺の完全勝利である。


「真実は一つ!!!」


「けんちゃん……芥川龍之介の【藪の中】って小説があってね……」


「やめろ! 藪の中と森鴎外の高瀬舟の話はやめろ!!!」


 鬱小説嫌い!

 教科書掲載で回避不能とか鬼か!

 しかも両方とも深く考えると証言がボケるやつじゃん!

 特に高瀬舟!

 当時の制度だと、楽にしてやるはありえる話なわけで……。

 有罪にもならんやろと。

 つまり、有罪になるような憎悪が可能性とか、ほとんどが死ぬ島流しだから初犯じゃなかった可能性が……。

 やめろ!

 清水が俺にトドメを刺す。


「主観が入ると真実がボケる。科学的物証があっても証拠採用するのが裁判官だから、現行犯レベルの証拠があるかお金かけまくった事故調査でもない限り真実にたどり着くことなんてないの……ばあちゃん家の駐車場が取り壊されて、いきなりホテルが建ったときもそうだった。裁判官はひたすら和解を勧めてくる……裁判所に行くたびに不機嫌な両親。だんだん会話が減り……う、頭がッ!!!」


 清水!

 自爆でこちらにダメージ与えるのやめろ!!!


「やめろ清水。コ○ンくんになりきった中学生の妄想ゆめを壊すのはやめろ。少しくらい人生に明るい展開を期待させてくれ!!!」


 俺が指で耳を塞ぐと紫苑が追撃する。


「コナ○くんは小学生じゃん!」


「中身は高校生だもん!」


 浪漫を理解しないやつらめ!!!

 少しくらい人生に希望を持ってもいいだろが!


「でも、けんちゃん! けんちゃんちは仲良いじゃん!」


「う、うん、まあ、ほら、母親はストーカーバトルの勝利者だから」


「あー……うん、そうだったね」


 全員無言。

 よし話を変えよう。


「あ、ガチャがあるぞ」


 よし、七色に光るLEDウンコキーホルダーを狙うか。


「昭和ホテルキーボルダーコレクションだって」


「シークレットが【闇で光る昭和字体ホテルニュー羽村】……蘭童くん……いる?」


「いらね。こんなにテンション上がらねえのしか置いてねえのな!」


「けんちゃん、こっちはシリアルキラー骨細工コレクションだって」


「いらなすぎる!!!」


 マーケッティング担当仕事してないんか!?


「こっちは【AI作成、文豪からの手紙コレクション】だって。シークレットは夢野久作とバロウズ」


「やめてさしあげてくだストップ」


 なんだろう……全体的にいらない。


「蘭童くん。この会社。私たちが子どものころ潰れたはず……」


「買ったんかい!」


 すでに清水はガチャを回してやがった。

 清水が買ったのは、俺たちが子どものころ放送してたロボットアニメのフィギュアだった。

 いくらなんでも……。


「古すぎるだろ……」


「説明書が日焼けしてる……」


 なんだか俺、不安になってきたぞ。

 ○ナン時空なら7人は死んでいる。


「やぱりこの船、古い?」


「だな。古くても問題ないけどな」


「……」


 すると二人は黙り込む。


「不安になるから黙るのやめて」


 するとドンッと音がしてぐらりと揺れた。


「あん?」


 ベルが鳴る。


「……けんちゃん、セプテントリオンっていうレトロゲームがあってね……」


「やーめーてー!!!」


 思わずジョジョ立ちで反論。

 するともう一回、ドンッと音がした。

 当然バランスの悪い立ち方してた俺は壁に突っ込む。

 手で顔は守ったが、そのまま頭をぶつけた。

 これで気絶して気づいたら病院のベッドの上……だったら楽なのだが。

 中途半端に脳震盪を起こして膝が笑う。

 切ってなかったけど、あとで腫れそうだな。

 複数から【顔を傷つけるな】って言われてるんだけどなあ。

 すると紫苑が叫んだ。


「けんちゃん! 座って!」


 と紫苑に言われたのになぜか立ち上がってしまった。

 外が見えた。

 外に大きな船が見えた。

 え?

 衝突事故?

 さらにぐらっと揺れた。

 まずい!

 足が床から離れる。

 コケた!

 受け身!!!

 なるべく面で受けて転倒の衝撃を散らす。

 とっさの受け身で回避した。

 頭は打ってないな。

 あと少しで動けるはずだ。


「さすがけんちゃん……運動神経良すぎ……」


「ふははははー!」


 動けるようになったら紫苑たちを逃がさねば。

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