第4話

 学校に行く。

 校門ではなぜか紗綾がいた。


「おっすおっす」


「なによ」


 よし今日は失敗しないぞ。


『友だち待ってるんか?』だな。よし。


「俺を待っててくれたんか」


 ピーッとやかんみたいな叫び声がした。

 あ、間違えた。


「あ、あ、あ、あ、あ、あんたなんて待ってないからね!!!」


 そのまま紗綾はズドドドと音を立てて逃げてしまった。

 オレ間違エタ。悲シイ。ウホッ。

 すると男子が歩いてくる。


「おっす姫。あんま真田いじりすぎんなよ」


 このすでに美大生感があるツーブロック野郎は美術部の新條だ。


「いや、わざとじゃねえっての。毎回単語のチョイス間違えて頭で考えてるのと違うこと言っちゃうだけだって。つか姫って言うのやめろ。てっぺんの毛抜いてザビエルにすんぞ」


「あーやだやだ。男女関係なくモテまくる男は違うってことッスね」


「モテたことねえっての」


「そりゃ去年は紫苑パイセンが予防線張ってたし。今年は真田がガードしてるからな。つうかさっさと彼女いるって真田に言えよ。紫苑パイセンとつき合ってるんだろ?」


「いねえっての! 二人とも友だちだっての!」


「あーあー、まだ言ってるよこのモテ野郎。あーやだやだ。まあいいや、おまえこれ知ってる?」


 新條がスマホの画面を見せる。

 そこには水沢・エカテリーナ・鏡花が。


「エカちゃんか」


「そっちじゃなくてゲスト」


 スマホから俺の声が聞こえてくる。


「ぶっ殺すぞてめえら! 投げ銭やめろバカ!!!」


 ついキレてしまったときのだ。


「かわいいよな晶ちゃん」


「ぶッ!!!」


 勘弁してくれよ。

 男にかわいい呼ばわりされても困るだけだろ。


「こ、声だけじゃん。イラストもペラ紙一枚だし」


 しかもその絵描いたの紫苑。

 動揺のあまり声が裏返っていた。


「ふっふっふ。この良さがわからんとは貴様もお子さまだな。俺は新しい扉を開けそうになったぜ」


「お、おう、そうか」


 バレちゃダメだバレちゃダメだバレちゃダメだバレちゃダメだバレちゃダメだ。


「また今日も出るらしいぞ」


 紫苑、聞いてねえぞ!


「あ、ああ、ソウナンダ」


「なんかお前おかしいぞ。どうした?」


 ダチにかわいいとか言われる中学3年生男子。

 おかしくもなるわ!!!


「あ、ああ、高校どこ行こうかなと」


「お前だったらよりどりみどりだろ? 女子校だって行けるんじゃね」


「ぶっ殺すぞてめえ」


 デュクシと脇腹を突いておく。


「ぐへへへへへ!」


 新條は余裕でゲス笑いしてた。

 そのまま俺たちは教室に入る。

 で、授業受けて給食食って授業受けて放課後。

 家に帰って着替えてから紫苑の家に突撃。


「けんちゃんなに食べる?」


 とピザをおもむろに出す。


「いや、塾ない日は家で食わんと母親がうるさい」


 うちの母親は元ヤンキーのくせにそういうのだけはうるさいのだ。


「えー! 今日は泊まろうよー!」


「俺がよくてもお前の親が許さんわ」


 高校生の女子とお泊まり会なんて親の立場からしたらあり得ないだろ。

 常識で考えろ。


「ぶー。じゃあ配信! 晶ちゃんは門限あるから夕方しか配信できないって設定になってるから」


「なんだその生々しい設定」


「社長と打ち合わせて5時になったらお迎えが来て強制終了ってことになった」


 なにそのリアル小学生時間。


「お、おう……」


 何も言えねえ。

 部屋に直行して配信タイム。

 引き続き紫苑の描いた絵でお送りしてます。


「大さいたま帝国貴族のお嬢さま。晶ちゃんだよ」


「こん十万石饅頭! じゃ、ねえよ! 大さいたま帝国ってなんだよ!!!」


『開幕ブチ切れ助かる』

『十万石饅頭万歳!』

『風が語りかける……』


「うまいうますぎ……って言わせんな! ですわー!!!」


 もうやけくそだ。

 ふと横を見ると紫苑が見ている。

 あ、そうだ。お嬢様キャラ忘れてた。


「大さいたま帝国貴族、菅原晶ですわー」


「エカちゃんですわー」


 挨拶省略しやがった……。


「今日は二人でブロッククラフトを……と思ったのですが内容を変更しておグロハザードに」


「聞いてねえですわ!」


 ふざけんな。という叫びをなんとか我慢した。

 グロハザード。

 ゾンビがぐっちゃぐちゃなホラーゲームだ。

 なお当方はホラーゲーム無理勢である。


「無理無理無理無理無理無理無理無理無理ィッ!」


 俺のデュクシの連打が紫苑を襲う。

 だが紫苑も負けてない。


「ヤルヤルヤルヤルヤルヤルヤルヤルヤルゥッ!」


 デュクシ! デュクシ! デュクシ!

 脇腹を中心に弱いところに連打してくる。


「無理ィッ!!!」


「ヤルゥッ!!!」


 このように不毛なデュクシの応酬がされたわけだ。

 あ、やべ。いつものノリで。と思った瞬間、コメントが『草』で埋め尽くされた。


『やってることが小学生で草』

『てえてえ』

『草草草』


 ウケたようだ。

 紫苑が話を戻す。


「みんな期待してるからやろうよー」


「ふええええええん!」


 そのままゲームスタート。

 どこかの製薬企業がどうたらからのヘリ墜落。王道である。

 ヘリが落ちたのになぜか無傷のケツアゴ主人公。

 ゾンビが襲ってきたのでビルに避難。

 ここからプレイ。

 歩いて奥に行くと角待ちゾンビのドアップ。

 もう無理。


「ひみゃあああああああああッ!!!」


 銃連射。

 だがすべての弾が外れる。からの食われて死亡。

 この間、数十秒。

 ぽくぽくぽくちーん。

 俺の口から魂が抜けた。


「弱ッ!!! 晶ちゃん弱すぎるよ! 最初のチュートリアルゾンビで死んだよ!」


「むりー!!! ホラーゲーム無理ぃだよぉ……」


 俺は昔からお化けだけは無理……。

 お化け屋敷もホラー映画も無理勢なのだ。


『ヘタすぎ草』

『ヘタレてぇてぇ』

『草草草ァッ!!!』


「はい続行」


「ふえぇ」


 二回目は角待ちゾンビがいるのでなんとか撃ち殺す。

 そして間髪入れずにゾンビが襲いかかってくる。


「よく見て。奥のドラム缶を撃つんだよ」


「ふにゃあああああ!」


 一回、ゾンビを避けてから、ドラム缶を、撃つ!


「そこだあああああああああああああああッ!!!」


 ちゅどーん!

 なぜかキャラがふっ飛んだ。

 荒ぶる物理エンジン。炎上する俺のキャラ。


「あつ! あつい! あついよー!!!」


 火だるまになった俺のキャラがもがきまくる。

 で、そのままゲームオーバー。

 ぽくぽくぽくちーん。

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