第3話

「はあはあはあ……」


 終了後。

 肩で息をする俺。

 ツッコミが追いつかない。


「けんちゃんけんちゃん! 最高額だよ! ひゃっほー!!!」


 紫苑は無邪気に喜んでる。


「貴様は悪魔か!!!」


「でもけんちゃん。お金にできない楽しさがあったでしょ?」


 たしかに……楽しい。だが……。


「ロリキャラだけは容認できん」


「ぶーっ、かわいいのに。それで投げ銭の配分どうする? 給料振り込まれてから半分でいい?」


「いらねえよ。紫苑が助けていったから手伝っただけだ」


 女が助けを求めたから手伝った。

 ま、それが男の美学ってヤツよ。

 だからトータルいくらとか知りたくない。

 最後までカッコイイままでいさせてくれ。

 絶対心が揺れるから。


「じゃあ帰るわ。仕事がんばってな。応援してるからよ」


「あ、ちょっと待って!」


 引き留める紫苑を引き剥がして俺は家に帰る。

 やばい。俺、いま最高にかっこよくね?

 気持ち悪い笑いをしながら家に帰る。

 俺の家は紫苑とこの隣のオートロックのマンション。

 11階建ての5階。

 小学校3年のときに引っ越した。

 そういや紫苑、そのとき泣いて嫌がったな。

 家に帰ると家族は全員帰宅していた。

 俺より背が高い母百合子。

 そしてジャージ姿の背の低い美少女、ただし目が死んでる……にしか見えないなにか。

 真之介40歳。職業、観光協会職員。

 俺の父親だ。

 ああ、なんという地獄だろうか。

 うちの家系は、父方の家系は……美少女ぞろいなのだ。

 いや正確に言おう。

 男ばかりなのに全員美少女顔なのだ。しかもロリ系。髪の色はカラフル。そしてみんな目が死んでる。

 意味わかんねえだろ。

 一族の男たちはどいつもこいつも、


「ほら、ひいひい爺さんは宇宙人なんだ。戦時中に日本上空をUFOで飛んでたらぉ。アメリカ軍の戦闘機に落とされて帰れなくなったんだってよ。そのまま終戦までひいひい婆さんのとこに転がり込んで、戦後のどさくさに戸籍を手に入れたってさ」


 とかいう妄想を語りやがる。

 世迷い言もいいかげんにしろや。

 宇宙人とかねえよバカ!

 どう見てもお前ら日本人やろが!!!

 パン食じゃダメだ、米のご飯じゃないと物足りねえとか言い出すくせに。

 歌のレパートリーが演歌と昔のヒットソングしかないおっさんどもめ!


「賢太郎。紫苑ちゃんのとこ行ってたのか」


「ああ。手伝い終わったから帰ってきた」


「手は出してないだろうな」


「ねえよバカ!」


「何度も言ってるが……うちの家系は異常にモテる。父さんもな、母さんに出会うまで男女関係なく10人以上のストーカーに何度も監禁されそうになってだな」


 男女関係なくかよ。


「母さんどうやってストーカー蹴散らしたんだよ」


 と、どう見ても埼玉ヤンキーが大人になったかのような派手なジャージに汚い金髪の母親に話を振る。

 すると一言。


「物理」


 あー、物理か。そうか、うん。

 埼玉の元ヤンキーはひと味違うな。


「ストーカーバトルを制したのがお母さんってわけよ!」


 と言って力こぶを見せる母親氏。

 急に聞きたくなくなったぞ。

 なによストーカーバトルって?

 お前もストーカーだったんかい!


「そうっすか。あ、俺、塾あるんで」


「逃げた!!! お母さん悲しい!!!」


 で、塾用のバッグを取って出かける。

 駅前の商業地区にある全国チェーンの塾に向かう。

 ビルの入り口には猫系顔の女子がいた。

 茶色い髪をツインテールにした勝ち気な顔。

 たぬき系の紫苑と比べると差が歴然である。真っ平らな胸囲もな。

 同級生の真田紗綾だ。


「遅いわね」


 と胸を張る。うん、ぺったんこ。

 待ち合わせなどしてないのに勝手なことを口走りやがった。


「お、おう。待っててくれたのか?」


 いかん、単語のチョイス間違えた。

「誰か待ってるのか?」にしときゃよかった。

 これはキレるな。


「だ、誰がアンタのことなんて待つのよ!!! バカじゃないの!!!」


 ほらな、いつもブチ切れんのよ。

 耳まで真っ赤にせんでも。


「ほら行くよ! もう、アンタぼうっとしてるんだから! 希望校に受からないよ!」


「その希望がねえのよ」


 県内のそこそこ治安の良い学校だったらどこでもいい。

 できれば謎部活が大量にある胡散臭い学校がいいのだが。

 ねえな。


「あんたねえ。もう、講義遅れるよ!」


 と手を引っ張っていく。


「あたしがいないとダメなんだから!」


 プリプリ怒ってらっしゃる。

 もう意味わからん。

 で、講義などを受けて帰る。

 途中の飯は完全栄養食のパンだ。

 紗綾は自習室で勉強するらしい。


「もう夜遅いし一緒に帰るか?」


 と聞いたら、


「あ、あ、あ、あ、あ、あんたとなんて帰らない! 自習室で勉強する!!!」


 とめっちゃ拒否された。

 顔真っ赤でブチギレ。

 そこまで拒否せんでも。

 紗綾の家も駅前だし危ないことはねえな。

 帰るベ、帰るベ。

 で、スマホを見ると凄い勢いでメッセージが来てた。

 10件。すべて紫苑だ。

 なんだろう?


『けんちゃん! けんちゃん! たいへんだよ! 連絡して!』


 うむ。

 すぐと言われてるがギガを使いたくない。


『帰ったら連絡する』


 と、メッセージだけ送信しとく。

 近所のコンビニで肉まんとジュースを買って帰る。

 値上げしたバーガーは高いのだよ。

 家に帰って家のWi-Fiルーターにスマホを接続。

 SNSからビデオ通話っと。

 いねえかも。と一瞬思ったがすぐに紫苑が出た。


「おいっす」


「おいっすじゃないよ! たいへんなの!!! 鳥ッター見て」


 あん?

 鳥ッターを開く。


「いつもの鳥ッターじゃん……ほえ!?」


 トレンドに『#菅原晶』と『#罵倒系ロリ』がありやがった。

 あと紫苑の演じてる水沢・エカテリーナ・鏡花を意味する『#エカちゃん』も。


「嘘やん」


 ありえねえ。


「嘘じゃないよ!!! 大人気だよ!!!」


「いやいやいやいや、ねえわ。なにがあった!?」


「もっと下見て」


『#ロリの罵倒気持ちいいだろ』

 殺すぞ。


「あんのド変態どもめ……殴りてえ……」


「あのね、あのね! それでプロダクションのえらい人が会いたいって」


「無理だぞ」


「なんで!?」


「俺は男なの! わかる!? すぐに声変わりして髭が生えて身長180㎝になるの!」


「え? でもおじさんもおじいちゃんも声変わりしてないし。美少女にしか見えない」


「キシャアアアアアアアッ!!! 貴様ぁ! 言ってはならんこと言ったな!!!」


「かわいいからいいじゃない!」


「かわいいって言うなーッ! それに俺は受験生! わかる? 今年受験なの!」


「えー、一緒にやろうよー! ……一緒に?」


 なんか紫苑がぷるぷる震えてる。


「そうだ! 塾がないとき一緒にやろ! 高校生になったら事務所に所属すればいいよ!」


 なんか……紫苑の目が怖い。

 俺の本能が危険信号を奏でまくっていた。


「やめ」


「よしやろう! 3Dモデルは発注しておくから!!!」


「俺の意志ガン無視かよ!」


 抗議するため画面を見えると紫苑の目は完全にイっていた。

 なんか「はぁはぁ」言ってる。


「はぁはぁ。ぜ、ぜんぶ、お姉ちゃんにまかせて。完璧なロリにしてあげるよ」


「い、いやそれは断……」


「じゃあ切るね。絵師の先生に連絡しなきゃ! じゃあね!!!」


 回線が消れた。


「うそだろ……」


 このとき俺は罵倒系ロリが本当にウケてるなんて思わなかったんだ。

 あ、勉強しないと。

 寝っ転がって塾のサイト選択問題をやって解説動画を見ながら……なぜか俺の心臓はドキドキしていた。

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