ホラー短編・ショートショート

ウニックス

第01話「生温かい傘」


毎晩、寝る前に娘に怖い話や不思議な話を読み聞かせていた。

娘はいつも目をキラキラさせて、お母さんに「いつもの話聞かせて!」とせがむ。お母さんは笑顔で答え、本棚から一冊の本を取り出した。


「今日は『生温かい傘』っていう話をしようかな」とお母さんが言うと、

娘は興味津々な表情を浮かべ、お母さんが物語を始めるのを待った。

お母さんはゆっくりと本を開き、読み始めた・・

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夜、雨の中をスーツをずぶ濡れにしながら走る、サラリーマンの男。


コンクリートを走る、革靴の音と

雨が叩きつける音だけが辺りに響いている。


雨量が強くなってきて、雨宿りできる場所を探そうと立ち止まり、周りを見渡した。

すると、小屋のようなバス停をみつける。

「雨宿りでもさせてもらうか…」

男は急いでそこに駆け込んだ。


木造の古びたバス停の中は椅子が4つほどしかなく狭い。

暗くジメジメとしている。

男は入口近くの椅子にゆっくりと腰掛け、

息を整えることにした。


バス停の中で目を瞑り、自分の息づかいだけに集中して体を休めようとしていたら、

背後から「シクシク」と

女の子の泣き声が聞こえてきた。


男はギョッとなり、ゆっくりと振り返った。

そこには椅子に前屈みで座ってる女の子がいた。


髪の毛をダラ〜んとたらし、顔は全く見えない。


男は心配して

「大丈夫?こんな時間にどうしたの?一人なの?」

できるだけ優しい口調を心がけて話しかけた。

しかし、女の子は泣いているだけで返事はない。


その子を観察してみると、

黄色のワンピースを着ていて、血液をすべて抜いたような白い腕。

そして足元に目線を移していくと、靴は片足しか履いていない。

両足は泥だらけになっていた。


きっと彼女も急いでバス停に入ってきたのだろう。靴を落としてきて泣いてるのかも?と思い、

バス停から少し顔をだして靴を探してあげようと辺りを見渡そうとするが、雨量が激しく遠くまで観ることができない。


バス停の屋根を激しく打ちつける雨、

一向に止む気配がない。


俯いたまま泣いてる女の子も何故泣いてるのか?わからない…


男も疲労からか、自然と目を瞑っていた。

少し時間が経ってから、目を開けると…


さっきまで座っていた女の子が姿を消していた。

女の子が座っていた椅子はずぶ濡れになっていて、足元まで水たまりができていた。

椅子には一本の傘がかけてあった。


「あれ!?さっきまでいたのに?どこいったんだ?もしかして…幽霊?」

少し不気味に思ったが、

「俺が心配したからそのお礼かな?笑」

ほっこりした気持ちが勝り、傘に手を伸ばした。


傘を手に持った瞬間、生暖かい感触を感じた。

傘の無機質な冷たい感触ではなく、さっきまで生きてたような生温かい感触だった。


「えっ…?」

と手に持った傘をゆっくりと見ると、

握っていたのは傘ではなく、女の腕だった…

身体から無理やり引きちぎられたような断面をしていた。


「さっきの女の子の腕だ…」

血液の抜けた真っ白な腕だった。


断面からは血がしたたり男の手を血に染める。

そして地面にも血溜まりができていた。


「うぁあああ〜!!」

男は悲鳴を上げ、腕を投げ捨てる。

それと同時に、血溜まりに足を滑らせて転んでしまった。

頭を強く打って、意識が朦朧になってしまう。


薄れゆく意識の中で、女の子の声が聞こえた。

「痛かった…すごく痛かったの…」

声が聞こえたと同時に男は意識を手放した…



豪雨が線路や天井に叩きつける中で、目が覚めた。

駅のホームだった。

椅子にもたれかかり眠ってしまっていた様だ。

「嫌な夢をみたな・・」とボソリとつぶやき、

身体をブルリと震わせた。


ふと手元を見ると、

見覚えのない傘を握りしめていることに気づいた。

長時間、握りしめていたため、傘は生暖かくなっていた。

あの女の子の腕のように…


雨がホームに叩きつけてる中、

恐怖と不安に包まれながら、傘を見つめることしかできなかった。

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娘はぞっとして、「すごく怖かった…」

お母さんは優しく微笑み、「でも、怖い話って楽しいでしょ?」と言った。

娘はうなずき、「うん!楽しかった!また聞かせてね」と言って、幸せそうな顔で眠りについた。




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