プロローグ中編 コンビニに向かっていたら…

 「ねえこの服超やばくない?」

「やば!超おしゃれ!」

「学校だるい!帰りてぇー」

「それな」

「帰りボウリング行かね?」

「「「いいねー!」」」


朝から本当に騒がしい。こいつらには常識が通用しないのか?


両親に他人に迷惑をかけないようにしろって習わなかったのか?


 学校に着いて、自分の教室のドアを開けると騒音と言って差し支えないクラスメイトの話す声が俺の体に鞭を打つように襲ってきた。


 こうやって他人に憚らずに大きな声で話すのは全員陽キャだ。


 いくらうちの学校の校則がそれなりに緩いからって髪を金色に染めすぎだろ。


制服もだらしないし、口調もとても偏差値の高い学校とは思えないほどアホくさい。


…はあ。だから学校は嫌なんだ。


 騒音に包まれながら俺はただでさえ薄い影を更に薄くして教室に入り、自分の席へと向かう。


鞄を机の横にかけて着席し、俺は騒音をシャットダウンするためにイヤホンを耳に装着して、ヒーリング効果のあるBGMを流しながら勉強をする。


 一分一秒でも無駄にしないためにこんな空き時間でも勉強に励むほうがああやって雑談に興じるよりもよほど有意義だろう。



”キーンコーンカーンコーン”


 ようやく学校が終わった。


六限目終わりのチャイムが鳴り、先生とあいさつをするとすぐに教室内の雰囲気は緩んで朝と同じく雑談モードに入っていた。


勿論、素早く帰っていく者も居たが教室内に残っている者もかなり居る。


その大半が陽キャだ。早く帰りたいとかほざくくせになんで学校が終わったのに教室に残るのか分からない。


新手のツンデレなのか?


 心の中でぐちぐちと文句を流しながら俺は教室後にし、学校を出て帰路へとつく。


 今日も疲れたな学校。眠くて体がだるくて仕方がない。


帰ったら集中力向上のために一度仮眠をとったほうがよさそうだな。


 道中、休憩を訴える体と相談しながら仮眠しようか悩んでいるといつも立ち寄る本屋の前を通る。


昨日も一昨日も行ったにも関わらず俺は今日も無性に本屋に入りたくなり、無意識に本屋へと入店してしまう。


 自動ドアが開くとまず感じたのはクーラーによる涼しい空気と風。


夏の太陽に当てられ、熱くなっている体を丁度良く冷やしてくれる。


そのおかげか眠気が冴えて、体は不調を訴えるのを止め、気付けば漫画やラノベ本が陳列しているコーナーに足を運んでいた。


 ファンタジーにラブコメにホラー。本当に色んな作品があるな。


それにどれも思わず興味をそそられるようなタイトルと表紙。


あっこれ。最近オタク界隈で名を広めている人気のラブコメ作品だ。


つい先日に100万部を突破して、アニメ化も決定している甘々な純愛ラブコメ。


少し前まではハーレムなラブコメが流行っていたが最近は純愛で一途なのがトレンドなのかな?


えーっと、あらすじは『とある学校のマドンナである完璧留学生の命を助けたら溺愛されて、更に家も隣同士になってしまい、学校でもプライベートでも交際を迫られる糖度1000パーセント純愛ラブコメ!!』か。


ふへぇー。なんとも羨ましいなおい。


というかそんな可愛い子に交際を迫られたのであれば即刻首を縦に振れよ。


ついこの前、これのネットのコメントで『俺だったら告白された瞬間首を縦に振るどころか腰も振っちゃうデュフフデュフフ』とか気持ち悪いコメントもされてたし。


まあ、二次元の世界にツッコんでもしょうがないか。


俺はラブコメみたいな青春を味わえなくても将来小金持ちになって、時間と金に余裕を作って、その時にでもいっぱい恋が出来ればそれでいい。


あっこれも。今アニメ放送中の異世界転生作品じゃないか。


これもまだ読んでないんだよな。アニメも時間が無くて見れてないし。


『前世いじめられていた僕は異世界では勇者になりました』か。


異世界か…本当にあるのか?というか死んだら異世界に転生できるのか?


出来ないだろうな間違いなく。


勇者ねぇ。こっちの世界だと一体勇者は何の職業に近いのだろうか?


警察?自衛隊?うーん、なんか違うな。


どっちも俺とは無縁な職業ではあるんだけど。


勇者みたいに高名な存在になれなくても俺は将来小金持ちになって、家庭を持って、幸せになって死んでいくと決めている。


でも、勇者みたいに名は残ろないだろうなぁこの世界に。


多分、俺は世間から見たらただのしがない高給取りとして死んでいくんだろうな。


…はっ!いかんいかん!こんなことしてる場合じゃない。


何を悲観している俺!そもそも異世界なんて二次元の話だし、この世界の99パーセント以上が名を残さず死ぬものだ。


変なことに頭を抱えている暇があったらさっさと帰って勉強しよう。


 暗く沈んだ脳を復活させるために俺は何度か首を全力で横に振り、邪念が取れたところですかさず本屋を後にする。


 頭もそれなりにすっきりしたことだしやっぱり仮眠は取らずに勉強に励もう。



 時刻は夜の9時。夕飯も食べ終わり、シャワーも浴びた後、俺はすぐに勉強を再開した。


勉強机に体を向かせて残り一週間に迫ったテストの出題範囲を隈なく勉強する。


けど、人は満腹状態だと不思議と集中できないもので俺はあまり勉強に集中できていなかった。


「はあ」


俺は椅子の背もたれに重い体を預けながらため息をつく。


 どうにも勉強に集中できない。なんとかしないとな。


…気分転換に少しコンビニに行こうかな。


外の空気を吸えば多少なりとも集中力があがるはずだ。


 そう思い立った俺はパジャマ姿では少し恥ずかしいので薄い上着を羽織り、財布を持ち自室を出て、一階へと降りる。


「ちょっとコンビニ行ってくる」

「分かった」

「気を付けてね」


リビングでくつろぐ母さんと父さんに一声かけてから、俺はスリッパを履いて家を出る。


家を出て、空を見上げると夜空が明日の雨の準備と言わんばかりに雲で覆われているのが分かった。


月や一等星は隠れ、まだ夜の九時だが真夜中のような暗闇に道が包まれていた。


 でもまあ俺からしたら暗いけど昼よりかはマシだな。昼は太陽がまぶしくて日光が疎ましいが夜は少し心が落ち着く。


日中よりも暗くて静かで情報がほとんど入ってこないからだろうか。


考えなくてもいいようなどうでもいいことについ頭がふけてしまう。


とりあえずコンビニに行って、何か飲み物でも買って帰ろう。


 六月の夜はたいへん涼しく、クーラー無しでも余裕で過ごせるくらいの気温。


視界は完全に街灯だよりになっており、夜のほうが好きと言えど少し怖さを感じていた。


 三分ほど歩くと目線の先にコンビニが見えた。


明るく輝くコンビニはまるでオアシスのように感じて、少しだけ胸を俺は撫でおろしていた。


 さっさと買って家に帰ろう。


 目の前に見えるコンビニに向かって俺は小走りで向かう。


「…やめてください」


ん?なんだ?


 コンビニへと向かう途中、狭い路地裏から女性のか弱い忌憚する声音が聞こえてきた。


俺は思わず立ち止まり、路地裏に耳を澄ます。


「いいだろ別に」

「姉ちゃん。男三人に一人で勝てるとでも思ってるのか?」

「そんなエロい恰好しといて嫌がるのはダメでしょ」

「ほら!さっさと脱げよ」

「やめてください!」


うわあ…なんだろう嫌な予感がする。


 どこかの同人誌で聞き覚えしかないその台詞に俺は恐る恐る路地裏を覗く。


”ビリビリ!”


「きゃあ!」

「うひょ!胸でっけ!」

「これは特上ものだな」

「今日はついてるわ!」


俺の目に入ってきた光景は美人なお姉さんを取り囲む醜悪な男三人組。


そしてその男たちはお姉さんの着ている服を無理やり引っ張り、お姉さんの上半身を下着姿にしていた。

 

 うわあ…やっぱり…こんなことだろうと思ったよ!



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