転生者の俺は次期魔王になりました

平等望

プロローグ前編 俺が死ぬ日のいつもの朝

 「…ぶき!一颯!朝よ!起きなさい!」

「んっんんー」


カーテンから差し込む光と鳥の声、そして俺の体を揺らす母さんがいつも俺に朝を知らせてくれる。


 俺の肩を右手で揺らし、少し呆れたような声音で俺を起こす母さん。


眠い目を擦りながら俺は体を起こす。


「母さん…おはよう」


俺は母さんに腑抜けた声で朝の挨拶をし、まだ眠くてふわーっと大きな欠伸をする。


そんな間抜けな俺の姿を見て、母さんはやれやれと言わんばかりにため息をついた。


 なんだ?俺の姿がそんなにも滑稽か?


「何?母さん」

「何じゃないわよ。これで10日連続よ。あなたが勉強机の上で寝るの」

「ああ…確かに…」


そういや昨日も夜中の二時過ぎまで勉強してて、そのまま机の上に寝落ちしたんだった。


 どうやらノートと教科書が散乱している勉強机の上に俺は今晩も上半身を預けて寝てしまったみたいだった。


「ちゃんとベッドの上で寝なさい。もうすぐ試験なのは分かるけどそんなじゃ疲れは取れないわよ」

「へいへい」


母さんのおせっかいの通り、確かに腰が痛い。それに眠いし倦怠感はあるしで体は不調そのものだ。


けど、あと一週間で定期テスト。気を抜いてはいけない。


前回はベスト10に入れなかったけど今回こそは必ずベスト10に入らなければ。


それに昨日だってずっと勉強をしていたわけじゃない。


学校から帰宅した後、つい帰りに買ってしまった漫画の新刊を全て読破してしまい、そのつけを払う為にこうして夜中まで勉強しているのだ。


そしてそんな日々がたまたま10日連続してしまっただけだ。


…はあ。マジで漫画やアニメを我慢しないとな。


我慢して勉強しないと…


「それに前から言ってるでしょ。私が医者でお父さんが弁護士だからって別に勉強を頑張らなくていいって」

「…分かっているよ」


勉強しないと母さんや父さんみたいなエリート職には就けないからな。


母さんや父さんはいつも「普通でいいよ」と言ってくれるがやはり親戚や周囲はそれで許してはくれない。


きっと俺が普通の仕事に就いたところで「親は弁護士なのに…医者なのに」とか嘲笑されるに決まっている。


せめて何処かのIT企業や公務員にはならないと。


「じゃあお母さんは仕事に行ってくるね」

「うん。行ってらっしゃい」


そう言って母さんは俺の部屋を後にし、仕事へと向かった。


 さてと、学校へ行く準備しないとな。


 俺の家は両親がエリート職に就いている事もあって小金持ちと言って差し支えなく、そして俺浅野一颯(あさのいぶき)はこの家の一人息子だ。


甘くも厳しくもないうちの両親は昔から「普通でいい」が口癖で俺に勉強を強制させたことは無い。


けど、俺は周囲からの期待と重圧で日々勉強に励み、何とか今年に県内有数の高校に進学することができた。


まあけど、母さんと父さんの偏差値には及ばない程度の偏差値の学校ではあるんだが。


 俺には趣味という趣味はこれといってない。あるとすればネットとアニメと漫画とラノベという完全にオタク染みた事をプレッシャーやストレスから紛らわす為に嗜んでいるくらいのもの。


学校では完全にボッチだし、休日はいつも勉強とオタク趣味ばかり。


あまりにも青い春と無縁すぎる。


その証拠にもうすぐ行われる定期テストの後の夏休みの予定は青でも黒でも無く白で染まっている状態だ。


まあ友達なんて大人になったら疎遠になるし、恋人なんて将来金持ちになってから考えればいい。


幸いなことに俺の身長は175cmもあるし、顔もそれなりに良い気がする。


運動神経はまあお察しだが将来で運動能力を使うことはまず無い。


これは目を瞑っても問題はないだろう。


つまりは俺の未来は明るい。後は辛い学生生活を耐えるだけだ。


 重い体を動かして、俺は一階のリビングへと降りる。


小腹が空いているのでキッチンにおいてあるクロワッサンを適当にかじりながら俺は朝の支度をする。


自室へと戻り、制服であるブレザーへと着替えて、教材が詰まって重い鞄を持ち、再び一階へと降り玄関へと向かい、靴を履いてから家を出る。


「うっ!」


扉を開けると眠い目に直射日光が俺に突き刺さる。


 まっ眩しすぎる…


 もうすぐ夏を迎える日光はキツく、しかも梅雨であるため大変蒸し暑い。


昨日は大雨であったために道路には水たまりが散見され、水たまりが日光を反射しており眩しさをさらに際立たせていた。


 はあ。天気は快晴でも俺の心は大雨だな。むしろ台風まであるなこれ。


暑く輝く太陽に当てられて、完全に俺の気持ちは暗くなってしまった。


 でも、学校に着けば太陽よりも明るくて眩しくて疎ましい存在が俺に待ってるんだよなぁ。








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