第19話 早春の門
長牙の
蚩尤が一斉に長牙の方を向く。ざわめきが蚩尤の中で広がる。
長牙の突風が蚩尤の上に岩を降らせる。
「完全に怒りを買ってますね。とんでもない圧を感じます」
「そうね。イイ感じ」
蚩尤たちは、恐ろしい勢いでこちらに向かってくる。
司令官である人物は今日は不在のようで助かった。何の考えもなしに怒りのままにこちらに突っ込んできてくれる。
長牙は、右へ左へと飛び、わざと蚩尤を翻弄させる。蚩尤の鼻先に現れて、一声吠えて、また走り出す。
蚩尤の怒りを、仕掛けのある場所まで持続させなければ。
そのためには、何もかもを忘れて私と長牙を追いかけてくれなければ!
長牙が、崖の壁を走り、空を飛んで、私が仙術で攻撃して。蚩尤を翻弄して駆け巡れば、目標点にまで蚩尤がたどり着く。
「蓮華! 今よ!」
私の合図で、蓮華が植物の根を動かす。狙いは、崖を崩すこと。
岩には、『目』というものがある。それを狙って崩せば、最小限の力で、大岩も崩れるのだ。職人が小さな
蓮華が仙術で伸ばした植物の根が、大きな崖を切り崩す。
ガガガーン
轟音と共に崖の出口は塞がれた。
飛べない蚩尤に出口はない。
「さっ! 行きましょう!」
私は、蓮華に促されて、一緒に早春の門を目指す。蚩尤は、岩を登って罠から逃れようとしている。うかうかしていられない。
長牙は、炎花のところへ走っていった。
すぐさま、恐ろしい業火が罠にかかった蚩尤達を襲う。
長牙と炎花の攻撃だ。風の力と炎の力を合わせるコツを掴んだのだろう。
前にも増して火の勢いは強い。
「急ぎましょう! 早春の門を開けさえすれば、後は仙術で蚩尤ごとき撃退できます!」
わかってる! そのための作戦!
蚩尤の大群を、この程度で抑えられるとは思っていない!
残っている蚩尤達を躱しながら私達は進む。植物の蔓につかまり、枝を渡り、やっとたどり着いた門の前。
扉に手をかけると、羽のように軽やかに門が開き始める。
中からは、春風のような暖かい風が吹き、甘い花の香りが鼻をくすぐる。
身体にまとわりつくのは、心地よいエネルギーの渦。身を包み込まれ、心が弾む。
「これが、早春の門の力……」
ごめんなさい
確かに耳の中で響く声。
「先代の桃華?」
目の前に現れた桃華の幻影。一瞬微笑んで、サッと消えてしまった。
何だったのだろう?
「桃華様! ボーッとしている暇はありませんよ!」
長牙に言われて、我に帰る。
そうだった。そんな暇はない。
ここは戦場だった!
長牙は、私を咥えて空を飛ぶ。
下を見れば、怒った蚩尤達が暴れている。
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