箸休め(その伍)サンタさんの苦い思い出
※サンタさんがまだお家に来てくれる人は、閲覧注意。
「ねえ。今日、学校でサンタの話が出たんだけどさ……」
きた。ついに、きた。
とうとう、我が家でもこの話が出てきてしまった。
さて、どう切り返すべきか……。
今から五年前の、十二月某日金曜日。
我が家では、金曜日の夕飯の献立は、ほとんどがカレーライスと決まっている。
何故なら、週末前の最後の平日であり、仕事でヘトヘトになっているため、献立を考える気力も湧かないからだ。
カレーを作る時は何も考えずに準備できるため、本当にありがたい。
とにかく無心になって材料を刻み、煮込み、市販の甘口ルーをポイッとお鍋に入れて完成させる。
自分としては、ジャガイモや人参を大きめにカットしたゴロゴロの具材が好みなのだが、我が家のジジババの歯の状況を考えるとそうも言っていられない。
なので、我が家では野菜をさいの目切りにし、ひき肉をたっぷり入れたキーマカレー風を作ることが多くなっている。
ちなみに、使用するカレールーは一箱全て投入する。
家族が大量に食べるからという理由だけではなく、翌日のお昼ご飯用にしたり、カレーうどんやカレードリアにリメイクできたりするなど、カレーは余り物が出ても重宝できるからだ。
連れ合いは平日帰りが遅いため、先にカレーを食べながら我が家の寝ぼすけ坊主と学校であった出来事について話をしていると、冒頭の、十二月の大きなイベントについての質問が出てきたのだった。
「あのさ、クラスの半分くらいは『親がサンタだ』って言ってたんだ。あとの半分くらいは『サンタは本当にいる』って意見だった。ねえ、どっちが本当なの?」
「え、えっと…………」
「僕は、だいたいわかってるんだけどさ。でも、本当のところはどうなの?」
「………………」
どうする?
本当のことを言うべきか、隠し通すべきか。
我が家の寝ぼすけ坊主は、昔から物欲がほとんど無い子だった。
誕生日でも、クリスマスでも、欲しい物のリクエストは、『何でもいいよ』という子どもだったのだ。
そのため、クリスマスに『サンタさんにお願いするプレゼント』を探り出すのに毎回苦労することに。
しかし、その割には、毎年クリスマスイブの夜には嬉しそうな表情を浮かべ、夜中の二時まで窓の外をずっと眺めていたり、朝方四時に起きて玄関に飾ってあるクリスマスツリーの根本を何度も確認しに行ったりする行動も見せていた。
なので、プレゼントは何でもいいが、『サンタさんから貰える』というイベント自体は非常に楽しみにしている子どもだったのだ。
そんな寝ぼすけ坊主から突きつけられた、『言うか・言わざるべきか』の運命の選択肢。
【選択肢:その一】
本人は『だいたいわかってる』と言っていたのだから、もうネタばらしをしてもすんなり受け止められる時期に来ているのではないだろうか。
こちらとしても、プレゼントを何にするかで悩んだり、バレないように隠し通したりすることにも限界を感じてきているため、ここは本人にネタばらしをして、『やっぱりね~! そうだと思ったよ! アハハッ』と笑い話にするのでも良いのではないだろうか。
【選択肢:その二】
いやいや。サンタクロースは、子どもたちの夢が詰まっているものなのだから、大人自らそれを打ち壊してしまうのはいかがなものか。
ここは、適当に誤魔化して、もう少し年齢が経って自然とフェードアウトしていくのを待つべきではないだろうか。
寝ぼすけ坊主への返答までの僅かな時間で、二つの選択肢に揺れ動く自分。
どうする?
どうしたらいい?
でも確かに、毎年必死に隠しながらプレゼントの準備をする苦しさから、そろそろ楽になりたい気持ちは、ある。
ここは――――――――
「そ、そうだよ〜。実は親が用意してたんだよねぇ。毎年、隠すの大変だったよ〜」
ついに観念し、努めて明るくネタばらし。
すると、
「やっぱ、そうだったか。だと思った」
と、アッサリと返答してくれる我が家の寝ぼすけ坊主。
良かった。こっちの選択肢で間違いなかったようだ。
と、思った瞬間。
「……………………でも、やっぱり言わないでほしかったな」
あああああァァァ〜〜〜〜〜〜!
そっちだったかーーーーーーーー!
普段、クールに見える様子でも、心の中には夢見るファンタジーの世界が広がっていた我が息子。
運命の選択、大失敗。
『どうなの?』と言う言葉には、薄々感づき大人の階段を登りつつある実態と、それでもまだ“信じたい”という相反する気持ちが含まれていたのだった。
そんな、十二月になるとふと思い出す苦い思い出。
小学校中学年くらいのお子様がいらっしゃる皆様。
どうか、運命の選択肢が出てきた時は、『夢見る気持ち』の方を大事にしていただけると良いかと思われます。
甘い甘いホットチョコレートを飲んでいても、ビターな記憶は消えること無く。
『じっくり。しみじみ。いただきます』
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