第6話 サークル活動

 サークルの活動が何度目かのとき、僕たちは部長を含めた男の先輩たちと近隣のお店について話しをしていた。


「おまえらみんな地元なんだろ? どっか安くてうまい飯屋、知らないか?」

「安くてうまい店ですか? う~ん……市場の中の……」

「あ~、〇〇屋だろ? もう行った行った」


 部長の問いに答えた和馬と准が、順々にあちこちの店をあげていくけれど、部長も先輩も既に訪問済みの店ばかりだった。


「なんなんですか先輩がた~! もうこの近辺、あらかた行きつくしちゃってるじゃないですか」


 慧一がそのやり取りを聞いて大笑いした。


「もう山の向こうまで行かないと、行ってない店なんて見つからないんじゃないですか?」


 釣られて僕も笑ってしまい、そう言ってみると、部長たちも笑いだした。

 みんなで急に笑い出したせいか、サークル内の女の子たちや同期のやつらが不思議そうな顔でこちらを見ていた。

 その中に彼女の顔も見えた。


「いや、実はもう行ってんの。山向こう」

「マジですか! そんじゃあもう、この辺は無理ですよ。っていうか、探してるのは飯屋だけなんですか?」

「まあね。俺ら、地域別で安くてうまい飯屋の地図を作ろうと思ってんの」

「へぇ~、それはいいですね」

「俺たちの持ってる情報は、悠斗のおかげで喫茶店ばっかりだから、部長たちにはあんまり役に立たないか~」


 部長の目が僕に向いた。


「深沢のおかげって、なんで?」

「ああ……僕のうち、喫茶店なんです。なのでつい……一種の職業病ですね」

「喫茶店なのか。それでこのサークル?」

「そんなところです。僕ら、みんな家が自営なんで、自炊が多いんです。その割にレパートリーが少なくて」

「そうそう。ここにきて、いろいろ覚えたいなって」

「なるほどな~。それじゃあ、おまえんち教えろよ。俺たち行くからさ」


 僕は駅名を部長に伝えた。商店街は駅前だから、駅を降りれば嫌でもわかる。

 そのあと、僕らは部長や先輩たちのおすすめの店を聞いたり雑談を交わして別れた。

 次の活動の日、僕は突然、彼女に声をかけられた。


「あ……えっと……広瀬さん、だったよね? どうかした?」

「うん。私、広瀬結菜ひろせゆな。よろしくね」


 そう自己紹介してくれたあと、僕の家が喫茶店なのは本当かと聞かれた。

 そうだと答えると、うちに来たいと言った。聞けば喫茶店めぐりが好きだという。


「ああ……それでか」


 広瀬さんは怪訝な顔で「なにが?」と聞いてきた。


「入学式の日、学校の近くの喫茶店にいたでしょ」

「そんなこと覚えてるの?」

「だいたいみんな、駅のほうのカフェに行くのに、変わってるなって思ったんだ」


 広瀬さんは不思議そうな顔で見つめてくる。


(ヤバい……変なやつだと思われちゃったかも……)


 友だちに呼ばれた広瀬さんは、そのままほかの調理台へ行ってしまい、お店の場所も伝えないままこの話しは立ち消えになるかと残念に思っていたら、活動が終わったあと、わざわざ聞きに来てくれて、僕は部長に伝えたのと同じように駅名と商店街のことを話した。

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