第5話 新たな出会い

 結局、僕は父とはあまり顔を合わせないまま、小学校を卒業し、中学、高校へと進んだ。

 高校は、和馬と同じ商業高に進み、慧一は農業高、准は工業高の機械科に進んだ。学校は別々になったけれど、僕たち四人は変わらず仲の良いままでいた。


 お互い、家を継ぐことを考えての選択だったんだと思う。僕自身も祖父のあとを継いで喫茶店を続けていきたかったから。

 高校生ともなると、だんだんと色気や洒落っ気が出てくるからか、いつの間にか僕以外の三人は、彼女持ちになっていた。


 和馬の彼女が天野冬子あまのとうこ、慧一が桐谷葵きりたにあおい、准は八島笑子やしまえみこと紹介された。六人は時々一緒に遊びに出かけたりもしているようだった。

 なんとなく疎外感を感じたけれど、僕は祖父を手伝って喫茶店の仕事を覚えていくことが面白かったし、彼女たち抜きで四人で遊ぶことも多かったから、寂しさは感じなかった。


 時にはこんな僕にも告白をしてくれる女の子もいたけれど、どうしても恋愛の感情が湧かず、すべて断った。

 人を好きになるという感覚もわからなかったし、なにより父の愛する人を奪っておきながら、自分が誰かを愛するということが想像できなかったからだ。


 高校の三年間はあっという間で、僕たちはそれぞれ大学まで進んだ。相変わらず和馬とは同じ学校の経済学部で、慧一は近隣の農大、准は私大の理工学部。

 入学式の朝、和馬が寝坊したとメールを寄越してきた。間に合わないと困るからと、先に行くようにうながされ、僕は一足先に学校へ行くと、近くの喫茶店で待つことにした。


 近くにお洒落なカフェもあったけれど、蔦で覆われた雰囲気のあるたたずまいに惹かれ、喫茶店のほうを選んだ。

 中は同じ入学式に参加するだろう人たちでにぎわっていた。

 僕はカウンターの一番奥に陣取り、暇つぶしに持ってきたコーヒーのおいしい立て方の本に目を通していた。


 しばらくするとドアが開き、一人の女の子が入ってきた。真新しい黒のパンツスーツに身を包んだ彼女は、僕の席から二つ空けた椅子に腰をおろした。


(一人だと大体あっちのカフェに行くと思うんだけど……混んでいたのかな。こっちに来るなんてちょっと変わってる)


 あまり見つめるのも失礼だと思い、また本に目を落としたけれど、つい気になって何度か目を向けてしまった。

 コートの中で携帯が震え、本を置いてポケットを探り、携帯を開いた。どうやら和馬は間に合ったようで、たった今、駅についたとメールが来た。


 ホッとしてすぐに会計を済ませると、喫茶店をあとにした。

 入学式も滞りなく終わり、会場を出るときに、また彼女を見かけた。一人でいるのが気になったけれど、門のあたりで友だちらしき女の子たちと楽しそうに笑っている姿が見え、ちょっとホッとした。


 そのあと、駅の近くで慧一と准と落ちあい、お互いの大学のことを話し合ったりした。

 僕と和馬の学校にある料理のサークルが、慧一と准の大学からも参加者があると聞き、僕たちは示し合わせてそのサークルに入った。


「料理のレパートリーが増えるのはありがたいかも」

「だよな。俺も親が仕事で出ちゃうと、自炊しなきゃなんないのに、作れるもんが少なくてさ~」


 慧一がそういうと、准も同意した。聞けば和馬も似たようなものだという。


「それに、俺らって学校終わったら家の手伝いもあるだろ? このサークル、飲み会とか少ないみたいだから」

「ああ、それは無理に参加する必要がなくていいかもな。いつも断るのもなんだし」


 サークルには入らない、という選択肢もあったけれど、やがて大人になるにつれ、一緒に遊ぶ時間は減っていくと思うと、今のうちに遊んでおこうと決めた。三人の彼女には、少し申し訳なく思ったけれど。


 そしてサークルに初めて参加した日、自己紹介をする中で、彼女がいることに気づいた。

 彼女は広瀬結菜ひろせゆなと名乗った。一緒にいる成瀬果歩なるせかほという子とは、学部は違うけれど仲の良い友だちらしい。

 いつも明るくてにこやかに笑い、同年代の男女も先輩も、分け隔てなくつき合っている彼女につい目を惹かれ、気づいたらその姿を追っていた。

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