Lesson8. JKに相談したい。

 JKに相談しようと思った。けど、なかなかいいタイミングが見つからない。JKは京都の有名な国立大学を出てるから、旧帝ぐらいの大学を目指す子にとっては頼りになるらしく、放課後はたいてい誰かが受験の相談をしてる。かといって朝早く登校するのもいかにもだし、それに僕は朝に弱い。となると、昼休みに声をかけるのが良さそうだった。

 昼休み、いつもなら僕たちはバスケをする。甘井ちゃんの体調が良くなく、来られないことが多いのだが、そうなると四人しか集まらないわけで、僕が抜けるのは悪い、というか怒られる。野間に怒られるのは慣れっこだし、高橋くんに怒られるのもまあ彼は優しいから大したことはないのだが、福井さんに怒られるのがけっこうキツイ。話が長いし、よく分からない人生訓を延々と聴かされる。福井さんはAVに詳しいだけでなく、どうでもいい雑学にも一家言あって、どこで覚えたのかいやに凝った故事を混ぜてちょっといい話をしてくるのがまたうざい。勉強はできないくせ、役立たないことにはやたら造詣がある、それが福井さんなのだ。じゃあ甘井ちゃんがバスケに来ている日に抜けるのが良いかといえば、そんなときはもちろん甘井ちゃんにいいプレイを見せたいに決まってるので、抜けられるはずがない。甘井ちゃんのいるときにかぎって、僕はうつくしいシュートを打てたりするのだ。角度のない真横からマイケル・ジョーダンも真っ青のフェイダウェイで。そのとき甘井ちゃんとおなじチームだと、彼女の見せてくれる笑顔がまたかわいい。

 そんなこんなで、いったい相談が大事なのか大事じゃないのか、大事なつもりだけどそれより大事なこともあったりして、優柔不断な日々を過ごしているうち、月に一度の給食の日があった。例によって、福井さんは食べきれなかった。また悪いことに、給食の担当教師というのがいて、うちのクラスはあの性悪なティーチャーなのだ。残さず食べるようティーチャーに迫られ、福井さんはよく泣いた。福井さんをなぐさめるのが僕と野間の役目だった。高橋くんは気のない素振りをしながらも、ティーチャーの目を盗んで福井さんの嫌いなにんじんなんかを手づかみでひょいと食べてあげたりした。甘井ちゃんは保健室で給食を食べることが多かった。月に一回、決まってバスケをしない、できない日だった。悪いと思ったけれど、僕はこの日、福井さんを野間に任せて、こっそりランチルームを離れた。

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