第2話 異世界斡旋センターで世界の理を知る、僕は絶望する

「エンジェル3課…」


 おうむ返しに口にしてみるとなんとも間抜けな響きだと思った。


 だがしかし、僕の身の上はおおかた把握している様子であることから、どう考えたって、僕は死んで、これから転生するのだと思わざるを得ない。


「あなたは転生3回目ですね、なかなかの不運だ。」


 金色の髪、薄いグリーンの瞳、長いまつ毛、目の前にいる人物は確かにエンジェル3課の所属に相応しい天使に見える。


「ただ、転生時の記憶は残ってないでしょうから、一応ご説明させていただきますね。」


 そういって、彼、いや彼女か?は、僕の目の前に薄っぺらいiPadみたいな物を差し出す。


 □


 曰く、転生とは生を受けた世界に上手く馴染めなかった魂が、別の世界で魂の役割を果たせるように調整することだ。


「要は、魂の転職、と言っても差し支えないでしょう。」


 はみ出してしまった魂をエンジェル3課が拾い集め、よりカルチャーフィットする異世界に転生させるのだという。


 そして、その世界に転生すると、その世界での役割を全うするための人生を送らなければならない。


「あなたは、随分と仕事には熱心だったようですが…、その、世界にとっては無益と判断されたようで。」


「…いや、無益って。それならウチの社長の方がよっぽどじゃないですか。」


 何せ、社長のとばっちりで命を落としたのだ。


 至極真っ当な反論をしたつもりだったが、金髪天使は苦笑いを浮かべて説明を続ける。


「魂の役割、というのはですね、たとえばあなた方の世界で悪とされる事に手を染めるよう、定められた人もいるわけです。」


 すなわちそれが、その世界の秩序を保ち、ひいては魂の役割を達成するということらしい。


「私どもにとって、善か悪か、ということはさしたる問題ではありません。要するにその世界にフィットするかどうか、これが重要なんです。」


 それから天使はにっこり微笑む。


「人事職をやっていたら分かるでしょう?職場が合わなければ転職するじゃあないですか。」


 □


 僕の最初の魂は、魔術が使える世界で、そこそこ生活に苦しまない程度のスキルを備えた魔法使いになった。しかし、30代手前で猛毒の蛇に噛まれて命を落としたのだという。

 実のところ、その世界での僕の役割は、魔術師ではなく冒険家であり、老後は城下町で宿屋を経営するとだったので、役割未達のため、めでたく3課行きとなった。


 そして次の転生では、銀河を渡り歩くスカベンジャーになり、宇宙ゴミを拾い集める仕事に就いた。しかしこれも早い段階で隕石に衝突し死んだ。

 この世界で課せられていたのは、帝国軍に入隊し、将軍に心酔しながら反乱軍を殺しまくることだった。そして、2度目の3課行きとなる。


 さすがに3課連中は可哀想だと思ったらしく、特例でいくつか世界を提示してくれたらしい。

 その中から僕自身の強い希望のもと、サラリーマンルートを選んだ。

 当時の僕曰く「これなら絶対ルートをはずしようがない」とのことだったのだが。


「ええと、そうですね。あなたは本来、あのベンチャー企業を早々に退職し大手食品メーカーの管理部に就職することが魂の役割だったようですよ。」


 結局、今回で3回目のエンジェル3課である。


「魂が、本来想定していた役割からはずれると、早死にするんですか?」


「一概にそうとはいえませんが、あなたの場合はその通りです。まあ、稀にあるんですよ。はみ出しちゃうこと。」


 落ち込まないでくださいね、と天使は付け加えたが、気持ちは沈む一方だ。


 僕の魂は一度たりとも、その役割を全うしたことがないなんて。


「採用やっていたので覚えがありますよ。職場が合わず点々としている人。…つまり僕がそういう魂だ、ってことですよね。」


「まあまあ、大丈夫です。世界というのは山程ありますから。今回もいくつかご紹介しますよ、私も一緒に選びますから、頑張りましょうね!」


「エンジェル3課、異世界斡旋センターが全力でバックアップしますから!」


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