すぐ家に帰りなさい。

 中学生の夏。


 おばあちゃんが入院した。じいちゃんっ子の私はあまりおばあちゃんと接点がなかったので、同じ敷地の隣におばあちゃんたちが暮らしていたけど、挨拶程度で病気のことも、ボケちゃってたこともまったく気にかけていなかった。


 家族と上手に付き合うことができなくなっていた時期だったから。思春期のせいにして、お見舞いにも行ったことがなかった。それは父もそうだった。仕事を理由にしておばあちゃんの世話を全て母が行っていた。


 そんなある日、私は夢を見た。


* * *


 いつもの学校。教室で授業をうけていた私に連絡が入ったのだ。


「桔梗、ご自宅から連絡が入って…おばあ様が亡くなったらしい。すぐ家に帰りなさい。」

「えっ?」


 私は慌てて帰り支度をする。


「大丈夫?かいり?」


 私の心はドキドキしている。だっておばあちゃんに何もしてあげなかったから。自分を責めたし後悔した。どうしよう。どうしよう。死んじゃうなんて…。さよならも、ありがとうも言えてない。


 どうしよう。


* * *


 目覚ましが鳴る前に目が覚めた。


「夢か…。よかった。」


 なんだか鮮明すぎて、心臓がドキドキしている。


 階段を下りると、トーストと卵のいい匂いがしてくる。母が朝食を作っているのだ。


「おはよ~。」

「おはよ。あら、今日は早いわね。」

「うん。目が覚めちゃって。」


 私は朝のルーティーンをこなして朝食を食べる。なんだか心が落ち着かない。


「ねぇ~お母さん。今度の休みに、あーちゃんに会いに行かない?お父さんも一緒に。」

「あら、珍しいわね。どうしたの?」

「なんとなく…。」


 そう何となくそう思ったのだ。


 あーちゃんとは、おばあちゃんのこと。おばあちゃんって呼ばないでって言われていたから、先頭の”おば”という言葉をとった呼び方をしていたのだ。


 私はガキんちょのころからじいちゃんっ子だった。おばあちゃんにも「嫌な子だね~。」って言われていたから、嫌われていると思ってた。


 覚えてないことだけど、よくおばあちゃんはこんな話をしていた。


『あんたはね~。ここへ遊びにくるとおじいちゃんの膝にちょこんと座って、絶対にあーちゃんのところには来ないの。かいりちゃんブドウ食べる?って言うと、その時だけあーちゃんの膝の上に乗って大人しく食べてるんだけどね~。食べ終わるとすーぐおじいちゃんのところに戻ってしまって…。本当に可愛くない子だよ。』


 そんなことを親戚が集まるところで何度も聞かされていたから、好きになれるはずもなく、今にいたっているのだ。


 でもこの時ばかりは、後悔するんじゃないかって気持ちがいっぱいで、私から病院に行くことを誘ったのだ。


 病院にいるおばあちゃんは、ずーっと眠ってた。お父さんが呼びかけても、お母さんが呼びかけても気づくことはなかった。私はなぜか怖くて、そっと手を握っただけ。それだけでもお見舞いに来てよかった。と思ったんだ。


 それから翌週のことだったと思う。授業中に先生に呼び出された。


「桔梗、ご自宅から連絡が入って…おばあ様が亡くなったらしい。すぐ家に帰りなさい。」


 夢で見たシチュエーションが繰り返される。


 でも心臓はドキドキしていない。あ~やっぱり。って思えたから。最期に会えてよかったって、夢と違って後悔をしていない自分がいた。


 正夢って本当にあるんだ。


END


*おばあちゃんの夢物語には続きがあります。とっても不思議な夢。続きはNext storyで☆

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