第4話

 冒険者登録も無事に終わり、俺達は宿屋に向かう為に冒険者ギルドを後にしたのだが、帰り際に嫌な人物に遭遇してしまった。


「あらぁ~子猫ちゃん、あなたも今から帰るの。なんならぁ~私の家に遊びにこない。私が子猫ちゃんの為に援助しちゃってもいいのよ」


 マスター、一般冒険者に肩入れするのは禁止事項に当てはまる行為ですよ。ギルド規約にも書いてましたよ。


「あらぁ~、あなたって見掛けによらずに細目なのね。あんな項目までちゃんと読むなんって関心しちゃう。それとクリチャーってなに?私はマスターよ。間違わないでくれるかしら」


 おっと、これは失礼いたしました。私の母国では美しい人に使う言葉だったのですが、ギルドマスターが忌避するならば以後は使わない様にします。


「美しいなんって、お世辞を言っても何も出ないわよ。ミルクしか出ないわ。いやん。何言わせるの、この子ったら、食べちゃいたいわ」


 あはははは。(よし、殺すか)


「それじゃねぇ~子猫ちゃん。メスガキ共に暴力を振るわれたら私が助けてあげるから、何かあったら何時でも訪ねてきてちょうだいね」


 そう言い残すとクリチャーはスタスタと町の中央に向かって歩き出し、意外に歩く速度が速かったので、俺から既に100mは離れてしまっていた。


 俺はキッチンカーの屋根に乗せていたオニギリの看板の留め金を外すと、車に乗り込み急発進させてクリチャーの傍まで走らせていた。クリチャーとの距離が10mを切る直前に急ブレーキを踏むと、屋根の看板のオニギリが前方に向かってミサイルの様にクリチャー目掛けて発射されていた。


 ふぅ~、日本のお家芸のプリぅ・・・・ミサイルが異世界で火を噴いた。 


 過去、この攻撃を受けて無傷で済んだ者はいない。





*

「ランマル、急に一人で飛び出して行くから驚いてしまったよ。何しに行ってたんだよ。レベッカが不安そうにしてたぞ。まだレベッカの傍から離れない方がいいかもな」


 俺は皆の下に戻ると、アネットさんから苦言を呈されてしまい、少し自分の軽率な行動を恥じたが、後悔はしていない。レベッカを心配させぬ様に今度からは、レベッカに一言言ってから行動する事にするよ。


「よし、そんじゃ、私達が泊ってる宿屋に向かうよ。あんたも一緒の部屋でいいかい」


「ちょっとアネット、何で男と一緒の部屋で寝泊まりしないといけないのよ」


「そうだよ。ロザリーの言う通りだよ。ボク今日は体を拭きたいから相部屋は遠慮して貰いたいんだけど」


「私も体が汗でベトベトだから拭きたいの」


「すまんなランマル、ロザリーとシルヴィが嫌がってるから、相部屋は駄目そうだ。一人部屋でもいいかい」


 俺はアネットに頷くと、アネットも一安心したのか顔が少しだけ温和になっていた。パーティーのリーダーもメンバーとの調整が大変そうだ。


 一人で宿屋に泊まるならば、車の中で車中泊しても同じだと思った俺は、四人を宿屋まで送ると、その足で歓楽街に繰り出していた。今日はクリチャー討伐記念日である。細やか乍らぼっち呑みをしていた。





*

 俺が何故この世界に来たか聞きたいかい?


 良いだろう、今の俺は酒が入って口が軽いから教えてやるよ。


 医者から余命幾ばくかと聞かされた時まで、時は遡るがいいか?


 そうか、良いなら話を続けるな。


 俺の余命が後、短くても半年、長くても一年ちょっと、そう聞かされた時は頭の中が真っ白になったね。


 でもな、死ぬまで俺の国では金が要るんだよ。働かないと食べて行けないんだわ。


 そうだろ、ひでぇー国だよな。


 だから、死んだら金の心配もしなくて済むんだ。ならば好きに生きたいじゃないか、だからだよ独立して商売を始めたのは、それで、最初は順調だったんだよ。


 お客さんも、そこそこ来てくれる店になっててな。


 でもな、何でか俺は不運が付きまとってくるんだわ。


 ある日の仕事帰りにな、居眠りした大型トラックに後ろから追突されたんだわ。


 大型トラックって何って言われても、大型トラックとしか言えないぞ。


 意味が分らない?


 そうだな……


 そうそう、大型の幌馬車に追突されたんだよ。


 おっ、やっと理解してくれたのか、よかった。


 それでな、話の続きをするとだな。


 そうなんだよ。その事故で死んだと思ったら、知らない場所に来ていたって事なんだよ。おかしな話だろ?


 昔にも、そんな変な話があったって?


 へぇー、同じ境遇の人間がいたのか?


 そんな昔の話だったのかよ。


 その人は最後はどうなったんだい?


 えっ、この国の初代国王になったの?まじで?


 なら、俺も国王様になれるかな?


 なんで馬鹿笑いするんだよ。


 もしかしたら、お姫様と結婚して伴侶として暮らせるかもしれないよ。


 ないないって、全否定はよしてくれ。


 あははははって、へこんじゃうよ。


 まぁ~、そんなこんなでだな。俺はこの国で半月程いるわけさ。


 半月も町に出なくて何をしてたかって、そりゃな……


 唾を飲み込む程のことではないぞ。


 あれだ。あれ、もしかしたら元の場所に戻れるかもって、同じ場所に留まってたんだわ。


 魔術で飛ばされたなら無理ってわかるだろうって、そんな事を言われてもな、俺は魔術なんって使えないからわかんねぇーんだわ。


 あんたは魔術使いって見た目でわかるが、俺が魔術使いって言って、あんたは信じるかい?


 なぁーそうだろ。信じないだろ。


 だから、待てども暮らせど、元の世界に戻れないからな、俺は仕方なくだな……ウィ、ヒック。


 よう、お姉さん、寝ちゃうの?


 寝てないって、ねてるじゃんか。


 うるさあいって、俺の話をもっと聞いてくれよ。


 分かってもらえて嬉しいよ。そんじゃー話の続きをするよ。


 あれ……どこまで話したかな?


 あっ、そうそう、お姉さん有難う。


 そんで、元の場所に戻れないから、俺はね移動したのよ。移動するって決めてから、何故か緑のおっさんが一匹俺の目の前に出たんだわ。


 そうそう。そのゴブリンね。


 緑のおっさんはね。木の槍をもっててな、俺は死ぬかと思ったね。


 死ぬわけないって言われてもな、俺は緑のおっさんと戦った経験なんってなかったんだわ。


 どこの御曹司って言われてもな。俺は只の商家の奉公人だったんだわ。


 そこで納得しないでよ。


 商家の奉公人なら、戦いとかした事ないから仕方ないって……そうだね……仕方ないね。


 若い時から奉公人をしてたのかって?


 おうよ、俺は十代で成人前から奉公人をしてたんだわ。


 納得しちゃうんだ。


 奉公人なら、それが当たり前なのね。


 えっ、早い子なら10歳とか12歳で奉公人として働いてるの?


 えっ、……俺もそのくらいかな……あはははは。


 そんでね。ひょんな事で、人助けをしてしまって、今はこの町に居るってことなのよ。わかったかなお姉さん。


 理解してくれたみたいだね。


 そうそう。


 そして、冒険者ギルドで登録もしちゃってね。


 それね。町の入場料が安くなるって俺は知らなかったんだよね。


 お恥ずかしい限りです。


 そんで、冒険者になって初めて化け物を討伐した記念で吞んでたのよ。


 お姉さんから祝って貰えるとか嬉しいよ。ありがとう。


 えっ、お姉さんが俺に褒美をくれるんですか?


 嫌じゃないけど、何をくれるんですか?


 此処ではあげれないもの?なにそれ?


 外に出て宿に行きたいの?


 俺の魔道具の乗り物でもいい?


 よかった。断られたら何処にも行く場所がなかったよ。


 えっ、お姉さんの家って、それは悪いよ。


 なに、その怪しい笑みは……それじゃ行こうかお姉さん。


 お会計?俺の驕りだよ驕り。


 そんなに嬉しがらなくてもいいのに。




 お姉さん、いきなりしゃがみ込んで何してるの、えっ、ベルト外すの早すぎでしょ。もうズボンも降ろしちゃった。


 あっ、お姉さん。


 そんな汚いからダメだよ。


 うっ、お姉さんの舌が気持ちいいです。


 あいたぁ、お姉さん押し倒さないでよ。


 えっ、スカートの下に何も穿いてないって……


((ギシギシ、ギシギシ、ガン、ギシギシ、パン))



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異世界でスキルを覚えたのですが、乗り物召喚ってなに? ~ラッキースケベの珍道中~ 和蔵(わくら) @nuezou

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