躊躇なく side松村
「蜂山さ」
俺は勢い良く教室のドアを開ける。油断していたのか、鍵は掛かっておらず難なく開ける事が出来た。そして、蜂山ミチカは何処だと探す暇もなく、俺の目はまっすぐそれを捉えた。
「ぁッ…助けて松村君」
震える声と足と、滲んだ眼。そして覆い被さる委員長。ああ、気がするでは無く本当に危なかったな。
俺は次の行動をどうするかなど考えず、ただ振り返る寸前の委員長を後ろから服を掴み、壁に投げた。
骨と壁とコンクリートのぶつかる鈍い音がする。
委員長は、咳き込んだ。酸素があまり入らないのだろうか、薄い呼吸を繰り返していた。壁にもたれかかっている委員長の方へ向かう。俺が足音を響かせるたび、委員長は慌て逃げようとする、それがまた面憎い。
ふつふつと腹の奥から湧き上がるこの感情。
こんな奴、別に居なくなったとしても誰も何とも思わないのではないか。
「…ヒュッ、」
俺は委員長の上にしゃがむように乗っかり、襟を掴む。そして右腕を上げた。
父に教わった様に息を整え、筋肉を意識して、彼の顔面に拳を振り下ろす。するとまるで誰かが外で縄を使って飛んだかと思えるほどの風の音が鳴った。俺の拳は委員長の頬と鼻に命中し、委員長は、右鼻からブシュッと血を出した。
赤い血が襟を掴んでいた手につく。穢らわしい。
あと二発委員長の顔に向かって、打つように殴る。そして腹へ、下から拳を入れる。
「おごァッ…!」
意識こそあるものの、抵抗する力が無いのか、虚な目で委員長はガクリと脱力し俯く。どうしてコイツはこんなに精神が弱いのだろう。どうしてこんな弱い癖に、下衆な事を考えつくのだろう。コヒュー…と息を吸う委員長を前に俺は、酷く冷静で居た。人間というのは憎い相手に同情など全く抱かないのだな。寧ろ清々しく思った。
_アドレナリンが出ているのか、ビリビリと手が震える。
蜂山ミチカの事を思うと殴り足りないのでは無いか、と考える自分と、その考えは後々後悔することになると知っている自分がいる。
「…松村君、私ね今日の事静谷君やクラスの皆に言うよ。だから、大丈夫」
蜂山ミチカは、委員長にて開けられたであろう制服のボタンを閉じた後、俺に手を伸ばし、抱きしめた。
「来てくれたんだね、嬉しい。死ぬかと思ったの」
「一人にして、すまなかった。蜂山さんが襲われたのも全部俺のせいだ」
俺はいまだに震える手を蜂山ミチカに回す。すると彼女の俺を抱擁する手は強くなった。
彼女は怖かっただろう。手が俺よりも震えているではないか。
「そんな事ないよ。委員長は多分松村君と関わる前から気持ち悪かったんだから。…松村君、あのね本当にありがとう。委員長、私ではどうにもならなくて。やっぱり、強いんだね」
今にも泣きそうな声をしながら彼女は俺の頬と自分の頬を擦り合わせる。
「はち……や、うう、ううう!!」
虚な目は元に戻り、委員長は目を大きく見開き此方を見た。委員長は蜂山ミチカの事が好きだった。
抱き合っている俺たちは彼の目にはどう映るだろう。
「松村君、帰ろう。もうここに居たくない」
蜂山ミチカは俺から少し離れて、手を繋いだ。
頬をほんのり赤く染めながら。
「ああ、そうだな…」
俺も握り返す。自分は今どんな顔をしているだろうか。もしかしたら引き攣っているのかもしれない。
教室を出て、俺は田中がいたところを通らないよう学校も出る。
「送るぞ」
「えっ、良いのに!」
「危ないだろ」
「んふ、心配してくれてるんだ?ありがとね」
俺は蜂山ミチカを周囲を警戒しながら家に送る。大丈夫だろうか。
家に帰って今日の出来事がフラッシュバックしたりしないだろうか。
今日は、連絡しよう。
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