ピンクのローダンセ by須月







「は、なしって」


「いや、別に責めに来た訳じゃないの。ほらこっち来て」





手招きをされて断れないままミチカに近づく。責める訳じゃないって、ならなんで来たんや。だってうちに会っても、あんたに良い意味なんて何もないやないか。逆に、不快な思いしかしないって事もあり得る…。じりじりとうちは近づくいて行き、ミチカのもとへと着く。



ミチカがずっと無言で自分を見てくるという状況が気まずく、ミチカの顔を見ては逸らす事を繰り返す。

ぼやけているからこそ、妙に視線を感じているような感覚があって居心地が悪い。今すぐ逃げたいぐらいに。




_ふと、ミチカの手元を見ると、彼女が持っている“それ“はダンボールでは無い事に気づいた。今まではぼやけて見えてはいなかったけど、それ。







「何持ってるんや」








「やっと気づいた?なんでしょー!」





ふふ、と柔らかな顔でほほえむミチカ。どうしてそんな顔をうちに向けれるんや、きっとまだ許してはいないはずのなのに。__ああ、怒って欲しいと思うのは甘えなんやろうか。…でも、それでもいっそ“謝れ!“ッて、強く怒って欲しい。だってうちはあんたの話をちゃんと聞きもせず勝手に守ってる気になって良え気持ちしてたんやから。…うちはあんたの親友、いや友達すら失格なんや。



うちが自分の服の裾を手で握っていると、そんな様子を不安に思ったのかミチカが顔を覗こうとしてきた。不安、不安に思わせちゃだめだ。…うちはふるふると頭を振っていろんな考えを捨てて、もう一度彼女の持っているものを良く凝らして見た。だんだん目が覚めてきたのかはっきりと見える。




「…お花?」





「うん。このお花、見覚えない?」




ミチカはほら、と言ってお花を植えられた植木鉢をうちに見やすい様に近づけた。そういえば、見覚えがある。なんやったかな…昔の昔に…。








『須月ちゃん!おはなうえよー!一緒に育てようよ!』







確か、あの花もピンク色で。




『いいで!名前もつけようや!』




『それいーねぇ、なんにする?すずはちの木?とか?』









____あ。












「…………すずはちの木?」









二人で幼稚園の時に育てようと約束したあの花。最初こそ丁寧に、丁寧に育てていたけれど、いつの間にか誰も様子を見なくなり枯れてしまったあの花。綺麗なピンクの美しいローダンセ。






「…良くわかったね、」


「なん、で…、」









「…結局すずはち枯れちゃったけど、今度こそはさ二人で育てようよ」








植木鉢を愛でる様に摩り、花を愛おしそうに彼女は見つめる。

胸が締め付けられるように痛い。どうして、うちを突き放そうとせんの。もっと、問い詰めて激しい罵倒を言われたって足りない立場なんや。







「ミチカは、花の事なんて忘れたんやと思って」






「忘れる訳ないでしょ?大事な親友との約束の花だもん」




うちの言葉を遮るように早く答える。


そのあと、いつもは女の子らしい笑い方しかしないミチカが少年らしく“に“と笑った

…親友なんてやめてや、うちなんかがあんたの親友になれる訳がないんや。戻れないんや。







「なんで、こんなうちにこんな事を言うん…ッ」







_なんで、こんなに優しく接しようとしてくれるんや…!




こんな子をうちは裏切ったのかと思うと胸の苦しさが限界になり、視界が潤う。つー、と一つの涙が頬に流れると、大量の涙が流れ出す。泣いてる場合じゃないやろ、早く、謝らなきゃ、。そう思っていても意識だけでは止まれない、あふれてはこぼれる大粒の涙を服の裾で拭く。





ミチカは植木鉢をこと、と下に置き、うちを抱きしめた。

彼女の髪からふわ、と甘い落ち着く香りがする。






「…大事だからだよ!そりゃ、私も須月ちゃんの事なんて親友じゃない!とか思ったときもあったけど、やっぱりずっと心の何処かでは心配に思ってた。今日会った時なんか心配すぎて追いかけちゃったんだよ」




うちを追いかけたのは、心配してくれたから?





…それが、本心でも本心でなくとも、ただ嬉しい……。ミチカに背中をギュッと、掴まれて落ち着きかけていた呼吸がまた乱れる。泣きたい気持ちが込み上げてくる。









「…__ごめんッ。ふ、ごめんね、ミチカぁ、ッ、うッ、うちミチカの話信じれんくて」



「うん、確かに…信じてくれなかったね」







今度はミチカの背中をギュッと、抱きしめる。何故か、体が力んでしまう。







「ミチカの事守る、とか、言ってッ、逆に傷つけてごめ、ひゅッ、本当に、ごめん…!」


「…うん、寂しかった」






息がちゃんとできなくて、言葉が途切れ途切れになる。

ミチカが今どんな顔してるのか見えないけど、受け止めて聞いてくれている、そんな気がする。





「二度と、あんな事しないッ…御免、なさい…!ミチカ」



許しをこおうと謝っている訳じゃなくて、ただこの言葉が止まらないんや。

ミチカに対する後悔が沢山詰まったこの言葉が止まらない。多分、彼女もそれを理解しているんやろう、ミチカは決して“良いよ“とは言わなかった。






「昔みたいな関係に戻ってくれる?エマ」





_懐かしい呼び名。1番仲の良かった小学生の頃はそう言われてたっけ。




ハグをやめてミチカはうちの顔を見た。すると、目と目がパチリと合う。…ミチカの顔をちゃんと見るとは随分久しぶりかもしれない。







「…うん、もちろんや…ッ、うちなんかでよければ、」


「なんかじゃなくて、須月ちゃんが良いの。ねぇねぇ、今回もここで植えるのは流石にダメだよね…?」


「_ありがとう…。良えでッ、賑やかになるし…」



「本当に?!」



「うん、ッ」



「やった、ありがと須月ちゃん!」









__うちは、もう絶対ミチカを裏切ったりしないし傷つけない。今度は人の話をちゃんと聞いて、ミチカの話を聞いて親友として守るんや。二度と辛い思いをさせない。


花も、親友も大切にするんだ。



「スコップ、持ってくるわ」



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