第5話日常に1つの変化が訪れる

俺の朝の行事に一つ加わった事がある。

「起きろ〜我が妹〜。学校に行く時間だぞ〜。」

「ん〜〜〜〜〜!!!おっはよー!!にぃーにー!!」

「はいはいおはようさん。ちゃちゃっと朝飯食べてくれ。兄ちゃんは少し用事があるから朝ごはん先に食べててくれ」

「え〜!」

抱きついて来ようとする妹を置き去りにする...すまない我が妹よ。兄ちゃんはこれから一仕事してくるのさ。俺は玄関を開け向かいの家の扉の鍵を開け2階に登り、ドアをノックする。

「おはようございます吉澤さん。起きてください。朝ですよ」

...返事がない。ただの屍のようだ...じゃなくて!俺は仕方なくドアを開けることにする。

「ドア開けますよー?...失礼します。吉澤さん起きてください。また夜中までゲームしてたんですか?ダメですよ女の子なのに。ウチの妹を見習って早寝早起きの習慣をつけましょう!」

「う〜ん...師匠おはよう...今何時〜?」

「おはようございます。今は7時ちょうどぐらいですよ」

師匠と言うのは俺のあだ名らしい。ゲームで負けたかららしいのだが、そんな大層な名前を背負う人間では無いので個人的にはやめて欲しい。

「朝ごはんまだですよね?軽く作ってしまいますね」

「お〜...頼むよ師匠〜...」

...師匠と呼ぶなら吉澤さんは弟子なのですよね?師匠を顎で使うのは如何なものかと。まぁ俺が朝弱いなら起こすと約束したので大丈夫ですが。

さっそく1階に降りてトースターにパンを入れ、冷蔵庫からジャムを出す。それから昨日家で作った味噌汁も温め直しておく。パンが焼き上がり終えた所で吉澤さんがリビングに入ってくる。

「今日はパンに味噌汁か!...洋風と和風入れるって師匠アホなの?」

「アホとは失礼ですね。朝起こすのは約束しましだがご飯はサービスなのです。暖かい食事が直ぐに食べれるのは幸福なのですよ?もし嫌なら俺が食べます。朝食まだなので」

「嫌とは言ってねぇよ!食べんな!!それはあたしんのだ!!」

そういって勢い良く平らげる。食べ方が妹そっくりである。

「慌てて食べなくてもご飯は逃げませんよ」

そう言いながら頭を撫でる。朝妹に構えなかった分を自分なりに無意識に補ったつもりだが彼女は...

「子供扱いすんなや!!!」

と、パンを持っていた逆の手で腹パンを決めてくる。

「な、中々いいパンチですね...」

「あ。ご、ごめん!悪気は無くて...つい条件反射で手が出ちまうんだよ」

「気にしてません。むしろ俺こそすみません。さ、食べたら歯を磨いて制服に着替えてください。俺は1度家に帰ってご飯食べてきますね」

「ありがとな師匠!」

そう言って俺は吉澤家を後にする。家に帰ると頬を膨らませた妹が玄関に立っていた。

「どうした我が妹よ。何故にそんな可愛い顔で兄ちゃんを睨んでいるんだい?せっかくの美人が台無しだぞ?」

頬の膨らんでいる部分を指で押してしぼませる。シューっと音を立てながら空気が抜けていく。...何だこの可愛い生命体は!いやほっぺ柔らか!!いつも触っているけど今日は顔の可愛さも相まって可愛さが増している!

「にぃにが私を置いてお向かいさんのお家に行ったー!浮気だ浮気だー!!」

「おー!浮気は行けないよな〜?w」

そう言って後ろからぬっと俺よりも少しデカい人が顔を覗かせる。

「...おはよう父さん...笑ってないで助けてよ」

「いいや。これはお前が招いた結末だ。自分で経緯を説明、誤解を解きなさい」

この人は俺の父。名前は鬼島誠真(きじませいしん)。身長205で筋肉モリモリな筋肉お化け。額に母さんが犯罪者に襲われそうになっていたのを助けた際に負った傷があり強面もプラスされて警察の服装をしても通報されそうになっている。その時に負った傷が母さんは自分のせいと思い精神を病んでしまい今は実家に帰省している。俺はこの父を尊敬している。警察官とまでは言わなくても人を助ける仕事に就きたいと思ったのも父の影響である。

「わかったよ。...あのな麻由。兄ちゃんはお向かいさんに住んでる吉澤さんってクラスメイトを起こしに行ったんだよ。暫く学校に行けてなかったから身体が環境に馴染めてないんだ。だから兄ちゃんが仲介役をやっているのさ。分かってくれ我が妹よ。これも大事な事なんだ。吉澤さんが馴染めたらまたいつものようにおんぶしながら階段を降りて一緒にご飯食べよう?な?」

「わかった...暫くその吉澤さんって人に、にぃに貸してあげる」

「フフ偉いぞ。それでこそ我が妹だ!」

髪をクシャクシャと撫でてやる。髪もサラサラだな!!

「えへへ〜」

満更でもなさそうである。我が妹はチョロいのか?これが男の毒牙にかからないよう注意せねば。

「さ、俺は朝飯食うから麻由は学校に行きな」

「うん!行ってきまーす!!」

「父さんも朝飯食って仕事に行ってくれ」

「まだ7時半だよー?早くなーい?」

「早く行って街の安全を守ってくれよ。交番勤務でしょ?」

「わかったよ。ったく、お前には頭が上がらないよ」


そして俺は朝飯を食べ終え再度吉澤家に訪問する。

「吉澤さーん?準備出来ましたかー?」

玄関から声を掛ける。しばらくして2階からドタドタと降りてくる。

「しーしょー!!!」

声と同時に顔に柔らかな感触が伝わる。

「あの...顔から離れてくれませんか?」

どうやら顔面にあの小さい体で抱きつかれたらしい。

「ん〜...やだ!!それより俺今日体力無いから肩車で学校行ってくれよ師匠!」

「何故肩車なのですか!?普通はおんぶでは?」

「おんぶだと景色が見れねぇじゃねぇかよ!でも肩車なら師匠の身長プラス私の視点で色んな景色が見れて楽しいかなって...ダメか?...」

う、そんな視線を向けられると...昔の妹そっくりの上目遣い...

「は〜...今日だけですよ?」

「やったー!!師匠のそゆとこ好きだ!」

この視線に抗えるわけも無く、渋々吉澤さんを肩に乗せて学校に向かうのだった。

歩いてる時にふと思い、吉澤さんに話しかける。

「あのー?今思えばこれは子供扱いなのでは?」

「は?自分で決めた事が子供扱いなわけないだろ?殴るぞ??」

「直ぐに暴力に訴えるのはどうかと思いますよ?」

「うぐ...直そうとは思ってんだけどそう簡単には直んなそうだわ...でも!師匠が協力してくれんだよな?(圧)」

「...はい」

「なら問題ねぇわな!ほれ、キビキビ歩け〜w」

逆らっても意味が無いのかもしれない...今は従っておこう。

そんな押し問答のような事を繰り返して居たら学校に着いた。どうやら今日は生徒会が校門前で挨拶運動をしている。入ってくる生徒に生徒会メンバーがおはようと挨拶している。そのメンバーの中に当然ながら真城先輩も居たので挨拶に向かう。

「おはようございます真城先輩。朝から立派ですね。」

「あら?おはよう犯罪者予備軍さん。昨日は協力ありがとうごさいまし...た??」

先輩が俺の方に向き直り挨拶するために目線を合わせたらしい。が、何故固まるのかわからない?

「先輩?」

「貴方は肩に何を乗せてるのですか?ニコッ」

先輩の笑顔がいつもより若干引きつっている。

「?吉澤さんですが?吉澤さん、昨日会った真城先輩ですよ。あいさつしてください。」

「よ!先輩!」

「違いますよ吉澤さん!先輩にはおはようございます、ですよ」

「おはざーす」

「違うわ!!今は挨拶なんてどうだっていいのよ!そうじゃなくて!!何故貴方は彼女を肩車しているの!」

「これには訳がありまして...」

「言い訳は結構よ!ついに本性を表したわねこのロリコン!!待ってなさい、今度こそ通報してやるわ!!」

「や、やめてください!しかも校門前でなんて事叫ぶんですか!誤解が生まれるじゃないですか!!」

「誤解もクソも無いわ!何で彼女は肩車されてるのー!うらやまし...こほん危ないでしょ!」

今羨ましいって言った?

「先輩も肩車しますか?」

「?変わってやろーか?」

「〜〜〜!結構です!!!!」

顔を真っ赤にして怒る先輩。大丈夫だろうか?

「ではこの話は一旦保留で、昼休み私の所に来て説明なさい。」

「は、はい...」

よくわからないままこの話は一度幕を閉じた。

「あのー?流石に玄関では降りてくれませんか?」

「あぁ悪い悪いw」

俺は一度吉澤さんを下ろす。流石に女子を肩車するのは肩がこる。

「私の下足入れどこだー??あ」

「...どうやら1番上ですね...」

この学校の下足入れの順番は背の順でも名前順でも番号順でもない。好きな人が好きな所に入れる仕様になっている。彼女は学校に一度も来ていないので勝手に決まったのだろう。

「どうしてくれんだ!!届かねぇよ!」

「あのー...良ければ俺と変わってくれませんか?俺の所1番下なんで腰が痛いんです。むしろ変わってくれると助かります」

「お?いいんか?」

「はい。こちらからお願います」

「そー言われたらしゃーねーなー!!」

上機嫌にロッカーに靴を入れ上履きを履く。クラスも分からないらしいのでまた肩車を強制されてクラスまでの道案内をする。

「おぉ!ここが私のクラスかー!...今更だけど吐き気がしてきた...久しぶりに大勢の人間と会うとか拷問かよ...ウプッ」

「!?お、落ち着いてください吉澤さん!ここは深呼吸です!一度降ろしますね」

「!お、おう...はぁー!フー!よし!!」

深呼吸を終え一気にドアを開く。皆が吉澤さんを見るかと思ったが俺に視線が行く。

「え〜!?怪物くんが幼女連れて来てるー!!」

口火を切って近づいて来たのは朔夜陽菜さん。俺が幼女を学校に連れてくるわけないのに...またこの人は目立とうと俺を引き立て話題作りをしようとしているに違いない。

「語弊のある言い方はしないでください。彼女は吉澤澄子さんです。今日から復学しますので皆さん仲良くしてあげてください」

「よ、吉澤澄子...です。よろしく...」

その言葉を言った途端俺の後ろに隠れてしまった。

「よろしくね!澄子ちゃん!あだ名は何がいいかな〜?すみちゃんで!よろしく〜」

朔夜さんが挨拶をしてクラスの皆は遠巻きによろしく〜と、挨拶を交わしてこの話題は終わった。どうか吉澤さんが馴染めるようになるといいなと思う。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る