第4話不登校児を先輩と俺で攻略する

先生が飛び出して行って数分。部屋は静寂に包まれる。

「おい!で、誰がゲームの相手してくれんだよ!って、消去法であんたしか居ないよね?先輩?」

「...2人いるけどあなたの中ではそうなるのね?わかったわ。群青高校生徒会長兼奉仕部部長であるこの私、真城琴音が相手してやるわ!」

おぉ!先輩が凄く頼もしく、かっこよく見える!でも一つ疑問に思いこっそり耳打ちする。

「ちなみに先輩?ゲームはやった事あるんですか?」

「もちろん...無いわ!」

「無ぇのかよ!!」

タメ口でツッコンでしまう程にビックリした。嘘でしょこの人!そんなかっこいいセリフで堂々と宣言しておいて未経験!?...先が危ういし展開が見える。

「じゃ、まずは"バックロードファイトで勝負だ!」

バックロードファイトとは舞台は裏道の狭い通路で戦うヤクザや不良のキャラを操作しコマンドで敵を倒すゲームで4年ほど前に流行ったゲームだが今でも国内外問わず人気のゲームである。

「じゃ、コントローラー2つあるけどどっちがいい?コマンド技の説明が書かれているボタンだけで技が出る初心者向けゲーム機か、己のコマンド入力だけで技を出すレバーとボタン、2つ必要な上級者向けコントローラー。初心者向けは技が出やすいが回避や防御がしにくい所。上級者向けは技は出にくいが回避と防御がしやすい所だな。好きなの選べよ」

「では、初心者向けでお願いするわ」

「ん」

そう言ってゲーム機を手渡してくる。ちゃんとゲーム機の説明をするあたりやはり根は優しいのでは?

「んじゃ、次はキャラ選択だな!俺はお気に入りの烈怒(れっど)で行くぜ!」

烈怒の設定は高校生で地域の高校全て〆た男で小柄ながらキレると手がつけられなくなる暴れん坊。このキャラはものすごく上級者向けで、このキャラを使いこなせたらこのゲームのランキング対戦でも渡り合えると言われるほどである。その分、技を出すコマンドが複雑で極めるのに2年はかかると言われる。

「初心者コン選ぶって事は初めてやるんか?ならおすすめは白猫(はくびょう)だな」

白猫は女番長で、返り血を浴びずに敵を瞬殺すると言われる喧嘩負け無しのこのゲーム唯一の女性である。

「ならそうするわ。でも申し訳ないわね。初心者がいかにもイキっている上級者をボコボコにしてしまうんですもの。懺悔の準備は出来ているかしら?」

「は?懺悔すんのはそっちでしょ?こんな失礼な奴先鋒にしやがって!目にもの見せてやるわ!勝負!!」



結果は見えていたが...これはひどい。最初は技が当たっていたもののそれが演技である事は俺は分かっていたが先輩は、「ねぇ!今当たったわよ!」とキャッキャして、敵を体力バー1割を切ったところで高笑い、した瞬間見事なコマンド技を受け大逆転。最初の1Rは様子見だったらしく、その後は先輩に何もさせずにボッコボコにして3R終了で終わった。

「うぇーい!ざーこざーこ!!あれ?なんだっけ?ボコボコにする??懺悔の準備は出来てるかしら〜だっけ?w3タテされて恥ずかしくないんですかー????w」

「グスッ...グスッ...」

先輩ガチ泣きじゃないっすか。見栄っ張りで負けず嫌いなのになんでこの人はこんな事をしてしまうのだろうか。

「...先輩。ドンマイです」

精一杯の励ましだった。

「...帰ります。グスッ」

そう言って先輩がスっと立って扉を出て、先生を後を追うように走り去って行った。

「で、残ったのお前だけど初対面から失礼な奴とはやらん!帰れ!!」

「...一つ...聞いてもいいですか?何故、不登校になったのですか?」

「...」

「応えてくれるまで帰れません!」

力強く宣言したらコントローラーが手渡される。

「勝ったら教えてやるよ...ごちゃごちゃ言わずにかかってこい」

「...わかりました。その勝負受けて立ちます!」

こうして俺と吉澤さんとでゲームが始まる。吉澤さんは先程使った烈怒。対して俺が使うキャラは。

「おいお前。私を舐めてんのか?そんなキャラで私に勝てると思ってんなら今すぐ帰れ」

俺が選んだキャラは警察官である。名前は無く、警察官と言う名前だ。このキャラは癖があるというレベルでは無い。このキャラ、技のダメージが1しか無いのだ。もちろんコマンド入力すればいいのだがそのコマンドの複雑さも烈怒の5倍はムズいと言われ、運営のお遊びキャラ認定されている。

「いえ、このキャラであなたに勝ちます。勝ったらしっかりとお話聞かせてください」

「いいぜ。そのキャラを選んだ事を公開しながら死に腐れ!」




「は?何が起きたんだ?」

俺は少し大人気ないか一撃必殺技コマンドを入力し3タテした。

「警察官の援軍という技で全ての技を相手に当てた後0.03秒以内に全部のボタンを押す技です。このキャラ使える人って俺ぐらいだからネットに対策とかも無いんでよね」

このゲームは昔から俺がゲームセンターに行き、台で必死こいて練習したのでこのゲームでランキング一位を取っている。最近はやっていなかったがランキングが変動してなくて良かったと思う。

「私が負けた?烈怒で?ズル...はしてねぇな。私の選んだゲームだし、あんたから感じる雰囲気が真面目って感じだ。わかったよ。全部話す」

半ば諦めで話を始める。

「私さ、昔っからゲームだけは上手くてさよくゲーセンに行ってたんだけどね。流石に金の使いすぎで自分で反省してゲームから離れてた時期があったんだけど4年前、このバックロードファイトに出会ったんだよ」

「そんな時期は誰にでもありますよね」

「黙って聞いてろ!ギロッ」

「...」

「そこからこのゲームにハマって口調も真似たんよね。それで、小学6年の時に喧嘩売ってきた奴をゲームでボコボコにして煽り散らかしてたのね?」

おぉ...すげぇな。昔からこんなだったのか。

「そんである日、女子に呼び出しくらって行ったら引っぱたかれたんよ。どうやら私が前に煽った男の子に惚れてたらしくてさ。その子の敵討ち的な?あんたなんかすみっこでゲームしてればいいんだよ!って。そこからあだ名がすみっこちゃんになったんだよ。そこから女子達によるイジメが始まった。親は2人とも忙しいから私の相手をしてくれない。先生も素行不良が目に付いてたのかイジメの現場を見ても何食わぬ顔して横を通る。中学もその女子と一緒だったから中学も学校には行かずにゲームばっかしてたな〜。高校は流石に引越しをお願いして今に至るって訳。どう?つまんなかったでしょ?」

なんと言ってあげるべきだろうかとも思ったが、言うことは決まっていた。

「...吉澤さん。明日から学校に来ませんか?俺が何時でもゲームの相手になりますから。それに勝ち越しされるのはゲーマーとしては嫌でしょう?」

「そうやって!私を学校に連れて行って前の女子見たいに私をイジメるんだろ!もうウンザリなんだよ!そういうの!だから私は!」

「吉澤澄子!!!」

「!!」

だいぶデカい声が出て自分でも驚くし初対面の人をフルネームで呼んでしまった。

「俺があなたを馬鹿にするような人に見えましたか!少なくともあなたはイジメられませんしむしろ同情されます。俺は学校では不気味がられて"怪物"なんて呼ばれてます。そんな人と一緒に居たらあなたは不良に目をつけられた可哀想な子として扱われます。同情はされても、イジメられることは無いと保証します。俺はただ、青鬼に憧れただけなのに...」

「青鬼?」

「知りませんか?泣いた赤鬼です。俺はその青鬼役に惚れてその通りの生き様で今まで過ごしてきたつもりですが世間の目は冷たいものです。ですからあなたは大丈夫ですよ」

そう言うと彼女は顔を下に向けぽつぽつと話始める。

「でも私口悪いし」

彼女は多分自分が一番気にしている、けどやめるつもりも直すつもりもない、言ってしまえば一番のコンプレックスを口にする。

「大丈夫です。俺はそんな事で傷つきませんし周りの人と話すのが怖いなら最初は俺で話す練習をしましょう」

本当だ。俺は過去に何度も他人に当たられた。小中は嫌に思えていたけれど、高校生となった今では何とも思わない。

「わ、私は朝起きるのもダメなんだぞ?身体が夜行性になってきているから」

「大丈夫です。朝が弱いなら俺が毎日起こしに行きます」

「べ、勉強だってついていけねぇぞ!中学からまともに勉強してねぇんだ」

「心配いりません。俺とさっきの先輩と先生があなたを導きます。先輩は2年で学年一位だし、先生は相談室をやってるシスターの様な方なので。疲れたらあの先生を頼るといいです」

勝手に二人の名前を出して申し訳ない反面、自分の交友関係の狭さに驚きつつも、スッと二人の名前が出たのはその二人を信用しているんだなと一人納得する。

「私は1度負けた奴をずっと粘着して勝つまで勝負を挑むぞ?」

「望むところです。何時でも受けて立ちます」

赤はあまりゲームをしないし、妹には当然手を抜くので本気でやれる相手を探していたので俺としても助かる。

「いいのかな...私が学校に行っても」

「むしろ、ダメな理由を知りたいですね。大丈夫です。俺や先輩、先生が待ってますよ」

それを最後に彼女は泣きながら抱きついてきた。

「その言葉忘れんなよ!私をほったからかしたら承知しねぇからな!」

「はい。しっかり面倒見ますよ」

「だ・か・ら!!子供扱いすんなー!!!」

そういって泣きながら俺の顎に頭突きをし、それを見事に食らうのだった。


泣いている彼女を慰めているとチャイムが鳴る。出ない訳にも行かないので彼女を抱えたまま玄関を開ける。その先には先生と先輩が居た。

「ご、ごめんなさい!生徒を置いて帰るなんて!気づいて直ぐに引き返して来た所で真城さんに会ったの」

「そういうことよ...貴方それは何?」

「何って?」

「貴方が胸に抱いている人よ!」

「あぁ。彼女、明日から学校に通うらしいです」

「わぁ!それは本当ですか鬼島君!やはり先生の目に狂いは無かったのね!鬼島君を頼って正解だわ!」

「そんな事はどうでもいいのよ!何で貴方が彼女を胸に抱き、玄関に出てきてるの!」

「それは話を聞いていたら泣き出して離れないし、でもチャイムが鳴ったので出ない訳にも行かず...それが今の状況です」

「よく分かったわ...待っていなさい今110番通報して貴方をロリコンとして豚箱にぶち込んでやるわ」

「ま、待ってください!俺が何したって言うんですか!」

「間違った行動はしていないわ。むしろ褒めるべきよ。でも私の一存で貴方を有罪で裁くわ。私が法よ!法廷で会うのが楽しみね」

「勘弁してください。先輩」

こうして吉澤さんが明日から学校に来る事が確定したのである。

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