第29話

 指定の席に着く。

俺はハクの後ろと、近い位置にあったが、ハクはどうやら隣同士が良かったらしい。

 しかし、俺としてはこの席順が一番良いのだ。

ほぼ確実に居眠りをするであろうハクを叩き起こすのに丁度良い場所だからな。


 さて、この教室に入って時間もそれなりに経過し、全部の席に生徒が座った辺りで、一人の教師が入って来る。昨日会った女教師だ。

 あまり見たくない顔だったのだが、まあ気にしないでおこう。


「こんにちは、これからアナタ達の担任を務めるマリナ・フィリオルよ。知っての通り、この学園では全ての生徒が平等に、適切な教育を受けられるわ。そこに家柄による貴賎は無く、貴族でも叱り、平民でも褒める。そういった辺りの事を勘違いしないようにしてね。では、自己紹介をしましょう。じゃあ名前順で」


 ......信用できないな。


「俺はアレクサンダー・コロン・マグナイト。特技は剣術。いずれ皆を導く皇帝候補だ。よろしく。」


 ほう、アレクサンダー君は皇子だったのか。

ぜひハクの遊び相手になってほしいところだ。


「ボクはカイル・コルト。特技は【水】属性魔法」

「オレはトレバー・ガリバー。特技は盾」

「私はニコル・パリス。特技は、特に...」


 順番が周り、俺の番。


「俺はノア・オドトン。特技は【無】属性魔法。剣術もある程度はできる。」

「貴様ッ!!」


 自己紹介を終え、席に座ろうとすると、左方向から声を掛けられた。

すると同時に首元に剣を添えられた。

 薄皮が切れたのか、じんわりと血が滲んでいる。


「一体いつからこの学園は【無能】等を入れる様になった。まして、ここはSクラスだぞ。百歩譲って仮にこの学園に入学したとしても、貴様程度ならEクラスが妥当だ愚か者!!」


 見ると、燃える様な紅い髪に同じ様な赤い目をした少女が、細身の剣を抜いて俺の首に宛がい、怒りの形相でこちらを睨んでいた。


 ふむ、まだ自己紹介をしていないということは、『は行』以降か?


「せっかく新調した服が汚れたじゃないか。これから制服が配られたとしても、使う事はあるんだぞ。」

「ふんっ、服がどうした。私など貴様の薄汚れた血に愛剣を汚された。妥協してやる、これで『あいこ』だ。そして、お前に制服が配られる事は無い。とっとと失せろ!!」


 こういう手合いは見覚えがある。

それに、そちらが俺を斬ったから服も剣も汚れたのに、『あいこ』を主張するとは。


「ちょ、ちょっと!レオナさん。突然何をするの!ノア君はあくまで正式に試験を受けてちゃんと規定された分の成果を出したからここにいるのよ。」

「オレそいつ知ってるけど、魔力量測定の時に1000とかアホみたいな数字だして嗤われてたヤツじゃん。不正野郎を庇うっておかしくない?」


 未だに突き付けられている剣がさらに押し付けられる。

出血量が酷くなり、自然治癒が間に合わなくなってきたな。


「なんでも良いが、自己紹介がまだ途中だ。ハクの自己紹介が聞けないだろうが。」


 険悪な雰囲気を醸し出した教室内の空気を一旦リセットする為に、俺は首元にあった女の剣を素手で掴み、へし折った。


「は?な、なにをっ」

「ハクが自己紹介する。黙って聞いてろ。」

「え、えっと、では、ハクさん。」

「......はい!」


 俺は至極穏便に事を収め、ハクに目配せをすると、ハクは元気よく返事をして立ち上がった。


「私はハクビ・デイジーだ!特技は剣術で、好きなものはノァだ!」


 元気満点で大胆な告白ありがとう。

ハクの言葉で教室内はそれなりに空気をとりもどし、自己紹介は無事に再開した。


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