第22話
ギルドマスターの私室へと繋がる扉には、ある異名があった。
それは、ギルマスの顔に大きく深々と刻まれた傷を由来とする『裂傷の扉』
曰く、その扉の先にはオーガをも射竦ませる程の眼力の者がいる。
曰く、単身で龍に挑み、顔に爪痕を残されて尚皮膚が削がれただけ。
曰く、万力の筋力と無限の魔力を持つ。
様々なうわさが飛び交い、誰も自らその扉の向こうへは入ることができない。
最近では小さな男の子が頻繁に出入りしているため、『実は幼児趣味で、幼い少年に高額を支払って身売りをさせている』といった噂まで立っている。
さて、そんな扉が、今は別の意味で注目を集めている。
普段ならあり得ない威圧感と凶悪な顔面を見せるギルマスが現れる筈なのだが、何故か今日は知らない女性が出てきた。
いや、知らないわけではない。
知っている。
観衆は明らかにその見覚えのある銀色の髪を知っている。
普段は色がぐちゃぐちゃで見るに堪えない化粧をしていた顔を知っている。
しかし、見違えるという言葉では明らかに足りない変化の量。
普段は簡素で色合いも変な服装である筈なのに、今日はその褐色の肌を際立たせる様な真っ白な服を着て。
身体中に広がる古傷を隠す様に伸ばしていたロングスカートや長そで、首まで締めた襟を開いている。
下品にはならない程度に開けた胸元や太もも、二の腕からは、歳相応の魅力を醸し出している。
身体にピッタリとサイズを合わせた服はそのスタイルを十分に引き立て、結んだポニーテールと赤縁の眼鏡は知性を引き出している。
◇◆◇
ということで、俺の持てる最高の技術と最高の素材を以て、ギルマスを最高の美女にした。
椿油に似た『翼油』を使いギルマスの髪に艶を持たせた。
全身を『希粧水』で洗い流して歴戦の古傷を消させてもらった。
そして『自作布』でギルマスの体格と全体的な相性に合わせた服を作った。
ちなみに、この場合の『自作』は『自分で作った』ではなく『自ずから作られる』という意味で、自動で採寸や調節を行って服を仕立ててくれる布のことである。
んで、割と素材から完璧だったギルマスにちょちょいっと細工をして、誰もが惹かれる美女を生み出したのだが......
「なんでギルマスの私室にまた来てるんですか?」
「い、いや、特に用事も無いし、人に見られ続けるのもあまり、な?」
「つまり注目されるのに慣れて無くて緊張したんですね。」
随分とわかりやすいことで。
とはいえ、これでギルマスが人と仲良くできれば良い。
「改めて、ありがとう。Bランクパーティへの商談の紹介のつもりが、思わぬ所で思わぬ恩を受けてしまった。」
「構わない。俺としても十分な成果を得られた。」
「そこでだが、Bランクだけではない。このギルドを中心に、各地へと宣伝するのはどうだろう?」
「金が手に入るのなら、商売の方はギルマスに任せるよ。」
俺の目的は学費を稼ぐ事。
化粧品ならこの世界の技術が進歩する事もなく、割と稼げる事だろう。
「そこで、なんだが、今度一緒に食事でもどうだ?」
「いえ、母がちゃんと料理を作ってくれていますので。それに、ここに来ている事については両親は知らないんです。」
「なに!?そうだったのか?」
折角のお誘いだが、あまり気取られる様な事をする訳にはいかない。
ということで、今日はこれくらいで帰る事にした。
◇◆◇
『あー、ノア君、新しい称号だよ。』
(何?)
何度目かになるこの帰り道。
唐突にパルエラからそう告げられた。
特別何かをやった覚えは無く、取得条件は基本的に諳んじているため、何の称号かは知らなかった。
◇ ◆ ◇
【美の伝道者】女性からの好感を得やすい。
【秀才】努力する限り成長度50%アップ
◇ ◆ ◇
「なんだこれ」
『タイミングを合わせて【美の女神の加護】も取得するんだって』
「なんで?希粧水とか翼油とかの影響?」
『まあそういう事だろうぜぇ』
この世界攻略に必要の無さそうな称号や加護だ。
チェックの必要はなさそうだな。
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