第21話
女性のみのBランクパーティに俺の『癒善草』ポーションが好評だということで、同じく女性であるギルマスの審査の元、俺の作った作品のサンプルを試す事にした。
色白で美形のギルマスは、よく見ると薄く化粧を施しているようだ。
そう、この世界にも化粧品はある。
だが、どれも品質は悪く、高級と言われる物も、日本の市販品と同じ程度だった。
まあ、魔物が跋扈し、魔法なんて奇跡の産物がある世界で、娯楽品に使われる技術も時間も最低限になってしまうのは必然だろう。
それに、俺の理念『ゲームに他作品の要素を求めるのは厳禁』には触れていないと思うし、化粧品で起こる改革なんてそう大きな物ではないだろう。
ということで、
「てれれてっててーん、『希粧水』」
「き、きしょうすい?」
そう、この『希粧水』、普通の化粧水の効果や内容物を知らない俺がどうにかこうにか再現をしようと思った訳だ。
そこで、必要な効果を絞ったところ、『肌に傷をつけず潤いを与える』『化粧を綺麗に落す』という二つに絞る事に成功。
そして、近所に生えている薬草の中で繁殖に成功させた物の中から更にこの二つに丁度良い様な物を探した。
その結果『研磨草』と『吸着草』を『癒善草』ポーションに混ぜる事でこの『希粧水』を作りだす事に成功した。
というのも、差はあるものの基本的に表面がざらざらな『研磨草』で顔を研磨して、そこで付いた傷を『癒善草』の効果でカバー、そこから削りだされた細かな垢や角質を『吸着草』が取り除いてくれるというかなり強引な効能を持っている。
「では早速」
「え、ええ」
日曜大工で作って『ボックス』へと収納していた木製の洗面器を取り出して中にドパドパと溜める。
一本が1.5Lのペットボトルほどの大きさの瓶に入れているため、それなりの量がある。
これを手で掬って顔に掛けて使う。
使い方を説明すると、ギルマスは意を決したように水に手を突っ込む。
「っ!?」
「あ、ちょっとピリッとしますけど気にしないでください。」
「あ、ああ」
「目や口や鼻に入らないように気を付けてくださいね。」
肩を僅かに震わせながら、ゆっくりと顔に『希粧水』を付ける。
顔が研磨されて痛いのだろう。
だが大丈夫、研磨と同時に治癒されているから、問題無く顔が綺麗になっているはずだ。
「尋常じゃ無く痛いのだけど、これは我慢するべきか?」
「あー、はい、そうですねー。」
声にだけ耳を傾けてそう答える。
女性はすっぴんを見られるのが嫌だという事なので、部屋の隅で目を瞑って壁に顔を向けている。
「あー、配慮は有り難い。とは言え、私の素顔を見なかったのは良い判断だろう。」
「と言うと?」
「昔の名残でな、顔に大きな傷があるんだ。治癒が間に合わずかなり汚い傷痕だから、きっと君のトラウマになるかもしれない。」
「その為に化粧を?」
「そう言う事だな。」
「それなら多分大丈夫ですよ。」
そう、表面の皮膚を研磨して修復する。
つまり、古傷や苺鼻、蕁麻疹を削り取る事ができるのだ!
ちなみにこれを作った本来の理由はハクの顔や身体に傷が残るのを防ぐ為だ。
「こちらが鏡です。」
「結構高価なものを......ッ!?」
「ついでにいうと、あまり額の方には使わない方が良いですよ。無駄毛の処理にはもってこいですが、毛穴自体は消えないのですが、一時的に禿げますよ。」
軽口程度に注意事項を後出しするが、ギルマスからの反応は薄い。
まさかとは思うが、本当に前髪が消失したという様なことがあったのだろうか?
い、いや、その場合は育毛剤の方も売り込むチャンスだ。
「え......っと、後ろ見ますね?」
俺は恐る恐るギルマスの方を見ると、
そこには、煌めき輝く美女がいた。
白とはとても呼べない純銀の髪。
しかし、小麦色の肌は健康的でムラが無く、全体的にバランスのとれたプロポーション。
肉感あふれる肢体にはうっすらと筋肉の張力がその姿勢を保ち、身体の大きさと顔の小ささは完璧な比率となり、
『ちょっとー!!そんなに鼻の下伸ばしちゃってー!!私の時はすぐに振った癖に!』
それとこれとは話が別だ。
パルエラはなんか人間離れし過ぎて良く分からないから。
とりあえず、ピーチク言ってるパルエラを無視しながら、俺は『ボックス』から色々なサンプルを取り出した。
「へっへ、次はこちらを試させていただきやす。」
「変な喋り方をするな。」
「うっす」
よくみると、ギルマスはうっすらと目に涙を浮かべている。
やっべ、なんかやったか?
「ああ、大丈夫だ。すこし嬉しくてな。」
「顔の傷の事で?」
「お前は気付かなかったようだが、私の顔の傷はかなり有名なんだ。畏怖の象徴として、ギルマスを見分ける特徴としてな。」
「......」
つまるところ、ギルマスは顔の傷を消したかったんだろうか?
まあ、女性ならそうだろう。
じゃあ例えば、顔に大きな傷があって、それのせいで無条件で怖がられるとしたら。
たとえギルドマスターであろうと、メンタルは無尽蔵じゃない筈だ。
「わかりました。元々は商売のつもりでしたが、そこまで言うのなら、ギルドマスター。アナタを10人中100人が美人だという程の完璧に仕上げてやりましょう。」
「お、おう?」
こうして、俺とギルマスによる、恐怖の化粧改革がはじまった。
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