5話 変化

01

 ヴェノリュシオンたちと共に寝る行為にも、すっかり慣れてしまい、もはや銃やナイフを携帯せず、眠れるようになってしまった。

 P03の言った通り、彼らに寝ぼけて襲われることはないが、最近は別件で時々目を覚ますことが増えた。


「…………」


 この中で最も小柄な少女の上に乗っているG45やT19を退かし、布団を掛け直す。

 無事、P03が4人と共に過ごせるようになったことは喜ばしいことではあったし、危惧されていたP03の身体的に劣ることに関しては、彼らも気遣っているらしく、今のところ問題は起きていない。

 夜の寝相以外は。


 G45の寝相の悪さは知っていたし、T19の本当に寝ているか怪しい寝相も度々見かけるが、O12も結構な頻度でP03に抱き着いている。

 どんだけ大好きなのかと、橋口の言っていた雌雄の話が頭をよぎるが、頭を振って違うと否定する。


(それにしても、Sの奴は動かないな……)


 寝方のひとつで、結構性格が出るものだ。

 S08は、元々寡黙な性格ではあるが、寝る時も変わらずP03の近くで眠り、そのままほとんど動かず、朝を迎える。

 耳が良い故に、物音を立てたくないからだろうか。


 起きていても、寝ていても一番活発なG45とは対照的だ。

 本当に、何の夢を見たら、アレほど眠ったまま動き回れるというのか。


 寝返りを打つG45の腕が、S03に鈍い音を立ててぶつかると、呻きと共に起き上がり、こちらもまた容赦なくG45に拳を振り下ろした。


「ぐぇっ……! なにすんだ――」

「あ゛?」

「ごめんなさい」


 起きたG45も、S08の顔を見ては、すぐに自分のせいだと理解し謝ると、すぐに起こしかけていた体を戻す。

 このふたりだと、案外喧嘩が起きないから助かると、胸を撫で下ろしていると、ふと目に入った開いた目に肩が震える。


「…………」


 いつからか目を開いていたT19は、薄ら笑いを浮かべながら、こちらに視線をやると、何も言わずまた目を閉じた。

 周りはヴェノリュシオンたちの扱いに長けているというが、わからないことばかりだ。


(…………雨、か)


 窓に叩きつける雨音は強く、遠くでは雷の音もする。

 やけに全員の眠りが浅いのは、天候が悪いからかもしれない。


 G45がすぐに投げ飛ばし、使っていない毛布をS08の頭にかけてやれば、中で少し動いた後、動きを止めた。

 他に起きていそうな人がいないのを確認すると、改めて横になり、目を閉じた。



「うわっ……」


 翌朝、欠伸を噛み殺しながら、楸が蛇口を回すと、そこから出てきたのは透明な水ではなく、茶色の泥水だった。


「どうした?」


 楸の声を聞いてやってきた川窪も、蛇口から出る水の色を確認すると、唸るように頭に手をやった。

 居住区のように性能の高い浄水器は、飲み水用の水道に使われており、洗濯などに使うものは、質を落としているため、水道を引いている川の状態に左右される。

 つまり、今頃川は、この水と同じ泥水色をしていることだろう。


「台風みたいでしたもんね……土砂崩れでも起きてるんじゃないですか?」


 いまだ、雨は降り続いており、建物の中にいても風の音が聞こえている。

 昨日の内に、畑の作物に支えをいれるなどの対策はしているが、収穫量は減るかもしれない。


「ダムで何も起きてなければいいが」


 川窪の言葉に、楸も思い出したとばかりに頬をひきつらせた。


 居住区は、出入り口こそあるが、閉鎖的な空間だ。その中で、生活を完結させなければいけない。

 だが、そこには大きな問題があった。

 それが、”水”と”電気”だ。


 水については、節水はもちろん、精製し再利用もしているが、結局外の川からの供給がなければ成り立たっていない。

 電気についても同じだ。居住区の屋根に太陽電池のパネルを敷き詰めているが、ウイルス除去のために導入されている設備の需要には全く足りていない。

 しかし、発電所を居住区に建てるという計画は、住人に拒否された。

 代わりに提案されたのが、水の供給源であるダムに水力発電を作り、ふたつとも一緒に警護してしまえばいいというものであった。

 人の人数を考えれば、それが妥当であることは理解できるが、結果として、居住区と同等かそれ以上に重要な拠点ができてしまったのである。


「だが、この天気では、無暗に動けんな」


 例え、ダムの方で、何か事故が起こっていても、天候が回復しないことには動けない。

 水も電気も生命線であるが故、なんとも歯がゆい状況だった。

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