Blood awakening

「君は……さっき、自分のことをドラゴンって言ってたよな? でも、そしたら翼とか尻尾とか、あるはずだよな? 実際に見たわけじゃないけど、竜人って一目でわかるような特徴だらけだったような……」

 俺の問いを受けてか、シエルちゃんは何か考えるような素振りを見せて、結果、俺の手を握った。

「ツユお兄さん、ちょっとついてきてください!」



 シエルちゃんに手を引かれるまま、街の名の由来となる場所、街の中心部からある程度離れた場所にある大滝にまでやってきた。

「あの階段、上った先でなら大丈夫そうです」

 そう言いながらに滝のすぐ近くにある階段を指さして彼女はこちらを向く。

 この辺はかなり人気の少ない場所だが、こんなところでなにをする気なのだろうか?

 仮にこの子が俺をPKでもしようとしているなら、金だけおいて逃げてしまうつもりだが、果たしてどうなのか……。

 正直、俺に勝てるだけのスキル熟練度やステータスをシエルちゃんは持っていないと思っている。

 小学生っぽい外見をしているし、きっと就寝時間だって早いだろう。それに対して俺は、正午から翌朝五時までぶっ通しでここ一週間プレイしているのだ。時間の差が圧倒的すぎるくらいだろう。

 それだけじゃなく、俺には彼女がまだ見たことのないであろう刀スキルがあるのだ。初見ならば、あの速さは相当の実力者でなければ反応できないだろう。

 そんなことを考えていると、階段を登り切っていた。

「みてください、お兄さん! ここからの景色、すごくきれいじゃないですか?」

 そんなシエルちゃんが指差す方向に視線を向けると、高いところから初めて見たこの街の風景はかなり良いものであった。噴水のある広場を中心に、洋風の家屋が連なっているのが、どこか懐かしい。

 いつか、NPCの仲間たちと見た、スターレス・レギオンの風景に似ているように感じる。

 この街──いや、このゲームは不思議だ。この辺りがあのゲームを元に作られているというのはサービス開始時点で分かってはいるのだが、果たして俺が何故このマップを開始地点とするレア種族を引き当てることができたのか……。

 それに、元に作られているという割には、大事な城や要塞という要素が欠けている。どこか、この周辺のまだ探索しきれていないところにそれらが眠っているとでも言うのだろうか?

「ツユキお兄さん。ここがきれいなのはわかりますけど、大事なことを忘れていませんか? シエルがほんとうにドラゴンだってところ、見せてあげます」

 最近、考えすぎるあまり現在の状況を忘れやすいというのは俺の悪い癖になってきているという自覚はある。だが、考えすぎるくらいが俺にはちょうどいい。大事な選択を誤らないために。咄嗟のことに対応できるようにするために。

「ごめん。忘れてたわけじゃないんだけど……ちょっと考え事をしててさ。じゃあ、見せてもらうよ」

「はい! ちゃんと見ててくださいね」

 シエルちゃんは大きく後ろに下がり、両手を前に突き出して深呼吸をした。

 続いて、何か魔法だろうか? 詠唱らしきものを始めた。

「今は眠りし氷龍の血よ、今ここに目覚め、総てを飲み込む吹雪を起こし、永遠に溶けぬ氷塊を創る力を──『サングィス・アギト』!」

 なんか今、総てを飲み込む吹雪とか、永遠に溶けぬ氷塊とか結構物騒なことが聞こえた気がするんですが……??

 一瞬、死すら予感させたその詠唱が終わったと同時に、辺りの空気が冷えたような気がした。

「シエル、ちゃんとドラゴンなんですよ! 見てくださいこの翼と尻尾!」

 その小さな身体に不釣り合いなくらいに大きな翼と、地面に着くくらいに長い尾。あまりにも存在感がありすぎるその姿に俺は目を奪われる。

 翼から何か雪だとか結晶だとかに似たエフェクトが舞っているのが幻想的で、装備も含め全体的に淡い色合いをした彼女の、触れてしまえば雪のように溶けていなくなってしまいそうな、そんな儚さを際立たせているように思える。

「どうです? 強そうでしょう?」

 両手を腰に当てて、「えっへん!」とでも言いそうな表情をして見せるシエルちゃん。

「可愛い……」

「か、可愛いっ!? かっこいい〜とか、強そう〜とかじゃなくてですか!? 可愛いなんですか!?」


「ああ、すごい可愛い……」

 多分、シエルちゃんは翼や尾への感想を求めているのだろうが、それじゃなく俺はシエルちゃんへの感想を述べてしまう。あまりに可愛いのだから仕方がない。

「ねえ、ツユお兄さん! ちゃんと見て? かっこいいでしょ? かっこいいよね!?」

「シエルちゃんは可愛いねえ……とても撫でたくなる……」

 と、シエルちゃんの頭に手を伸ばそうとすると、尾を器用に操って俺の手を撥ね退けた。

「触ろうとしないでください!!」

 そんな、罵声と軽蔑の視線と共に。

「えっと……ごめん、触られるのとか、可愛いって言われるの嫌だった?」

 なるべく申し訳ないと思う気持ちが伝わるような声色で訊ねる。

「いえ。お兄さんがシエルに嫌がらせをして楽しんでるのかと。それだったら気持ち悪いなと」

そっぽを向いたままだし、不機嫌そうな声であるものの、かなり普通に返事してくれている。

「俺は本心からシエルちゃんが可愛いって思ってるよ? 確かに翼とかはかっこいいけど、それがシエルちゃんの可愛さを際立てるように思えるというかなんというか……。」


 その後、俺からシエルちゃんに対しての熱意のこもった解説というかなんというかは数十分に渡り続いた。

 

だが、これだけは言わせてもらいたい。俺はロリコンじゃない。





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あとがき

なんか今回、投稿しなきゃの意思で出してるから駄文感強いなあ。次回から頑張ります。

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Crossing Worlds あまりーあ @amazono_riia

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