第20話 本日の謎

 会社への通勤路の傍らに神社がある

ある時、大規模な木の伐採が行われていた。神社の敷地内にたくさんの木が置かれ、車からも見えた

 ご神木を切ってしまって大丈夫なのかと心配になったが、さすがに樹齢が何百年という様な古い木は切ってはいなかった

 休日、その神社の前を通り掛かると傍の看板に目がいった

「神社の薪はご自由にお持ち帰りください」


それならば、庭に降りるための台にいいなぁ。直径30センチ程度の木で、持てる重さの物を3つ程頂いて、持ち帰った

1週間、そんなことは忘れてほっておいた

 次の休日

神社にもらった木を直接に土の上に置いたままでは、腐ってしまうなぁと思った

石の上にでも置いておけば大丈夫なのだ。そうだな、川に石を拾いに行こう

私は川に向かった

川といっても川幅が1km位ある大きな川。日本の中では大河と言われている

野球・サッカー・陸上競技等、スポーツのグランドが並んでる。その一番東の端、ひなびた駐車場に車を止めた

 先客が2・3台あったが、ひと気がない

私は水辺に降り、平べったい石を探した

2つ重ねても90%位の力で持てる石

運んでいるときに人に会っても、余裕を示せる位のものを選んだ

運んでるうちに腕はパンパンとなり、ヨチヨチ歩きになった

車に石を入れ込むと、寝転んで本を読む体勢に移行。それは昼寝の体勢とも言えた

しかしその時、駐車枠で3台隣の古い軽自動車のバンから男が降りてきた

俺は首を上げた

その男は黒人だった

私はチラチラその男を後部座席のガラス越しに見た。ガラスには薄いスモークが貼ってある。外からは見難いはずだ

 黒人といっても、アメリカの黒人のようではなく、例えばバングラディッシュの色の黒い男のような奴だった。ニッカボッカを履いている

なぜか、外から車の中の俺の方をずっと見ている

威圧していた

こいつ、来るのかと、少しだけ戦闘モードに入った。他人の車の中の人間に目を合わせてじっと見るなんて必要はないはずだ

 それでも、そういうことで日々暮らしている国から来た奴なのだろうか?

ほどなく、遠くからレクサスの高級SUVが走って来るのが見えた。黒い車だ。それがなぜかその黒人のバンの隣にぴったりくっついて止まった。黒い男が、レクサスSUVの運転席に近寄って行った。

おいおい、これじゃまるで何かの薬の取引みたいじゃないか

そんな馬鹿な。いくらなんでもこんなわかりやすい取引なんかするかな・・・

俺が大きな石をヨチヨチ運んでいるのをひっそりと見ていたはずだから、自分たちにとって害のない人間と認識したと。俺を脅威とは思わないが、居てもらいたくはないのかもしれない

はっきりは分からない


運転席で話していたのは女だった。二言三言話すと、運転席から降りてきた。30代後半。ジーパンを履いているが、こ綺麗だ。マダムというところか。なんでこんな汚い系の黒人のところに来るんだ

女は、レクサスの運転席からぐるっと歩くと、白いバンの後部座席のスライドドアから乗り込んだ


何はともあれ、何かがおかしい

この場を離れたほうがいい

俺の野生のカン

今まで何十人かのヤンキーに囲まれたり、ダブルデートの女の子を奪って自転車の後ろに乗っけて逃げたり、いろいろなことがあったけど、これといってひどいトラブルにはならなかった。それはこういうカンが効いていたのだろう


俺は帰った

 マダムがニッカポッカの黒人と、ひと気のないところで会わなければならない理由って何だったのだろう


レクサスから古い軽のバンに乗り換えた女

あの黒人の顔は真顔だった。スモーク越しに俺に向けた視線は厳しかった

一戦交えるかと、ほんの少し思った

何だったんだろう


色恋か?

そんなビジネス?

あのバングラディッシュがか?

そういう雰囲気の男じゃなかったなぁ

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誰にも言ったことのない記憶が今となってはファンタジーだった話 Guppy of The Zroos @Guppy_of_The_Zroos

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