第13話 ダイヤモンドの秘密取引

 子供時代は誰しも可愛くて傲慢

当然だが、私も子供だったことがある

 子供の中でも、小学校2年生位までなど特に、見ている世界が狭くて、変な存在だ


 私が小学校1年の頃、入学当初は皆で登校する集団登校をしていたが、数ヶ月後にはばらばらとなり、1人で登校した

通学路は基本的には住宅街だが、途中に鉄を型で打ち抜く工場、いわゆる鉄工場や、製材所もあった

 鉄工場の道路に面するところにドラム缶が置いてあって、リサイクルのためであろうか、今でいうトレーディングカードほどの大きさに打ち抜かれたステンレス板なんかが入っていた。外にもこぼれていたりして、朝に私はそれを拾って学校へ行ったことをよく覚えている

 

 他にも変なものを学校に持ってくる奴がいた

 不思議なのだが、ダイヤモンド風の定番カットを施したガラスダイヤを教室に持ってくるクラスメートがいた。大きさは栗より1回りぐらい小さい位で、今考えても用途がわからない。

 その友達のダイヤモンドと私のステンレスの板と交換する合意ができたりしていた

秘密の取引だ

闇の取引とも言っていい

レートがよくわからない

そしてダイヤモンドを手にした私は密かに思っていた。

ひょっとして、このダイヤモンドは本物なのでは・・・

そんな訳がない。小学校1年の同級生が、ぱっと見で何十カラット位のダイヤを小学校の教室に持ってくる道理も、現実性も無い。

 今、考えれば、そんなバカな話だが。当時は少しだけ本物かもと思っていた。

 歳をとると子供に帰ると言われている。死に行く手前の年代になれば、同じような感じになるのではないか。だから、まさかというサギに引っかかってしまうのだろう


 中学生になったらもう大人かと言えば、いやいやそうでもない。

 中学3年の頃、体育館のワックスに滑って腕を骨折したクラスメイトがいた

 その "悲劇" の直近、暇だったので体育館の入り口の床にチョークで人が倒れているような形を描いた。刑事ドラマで鑑識が描くような人型だ。

 しばらくして下級生が通りかかると口々に言った「ここで倒れて、骨折したんだね」「そうなんだね」「ここなんだね」


 そんなわけはない。殺人事件じゃあるまいし、何故こけた奴の体の位置をチョークで示すのだ

 きっと全校的に、体育館のワックスには気を付けろと言う注意喚起がいったのであろう

 中学生にしてこの程度である。私も中学生ながら、「それを信じるのか・・・」と思っていた

 そもそも、何故、チョークでそんなことをしたのか。自分自身への疑問はなかった。それこそが子供なのだ


 私は小学校低学年の時代に、世界の知識のかなりの部分を知っていると自負していた。

傲慢そのものだ

 その気持ちがどこから生まれてきたかと言えば、従兄弟からもらった学習漫画一式を読破していたからだ。

 動物の知識、植物の知識、人の体の知識、科学の知識、産業の知識。歴史の知識等、30巻近くあったと思う。

 特筆すべき事は、私の学校の成績だ。それほど良いとも言えず普通だった。どこから知識レベルに対する自信が備わったのかは不思議でしょうがない


 少し前、知り合いの子供にあの当時の自分を投影するような出来事があった

 100年間解けなかったポアンカレ予想を解いたペレルマン教授について特集したテレビ番組を一緒に見ていた時のことだ。

たいしてわからないのに、難しいことの上っ面だけを掬い取る事が私は好きなのである

 ペレルマン教授以外の数学者は '"位相幾何学" を使ってこの問題を解こうとしたが失敗したと言う説明だった。

 その話を聞いた小学2年生が'「位相幾何学は俺知ってる」と言う。なんで掛け算も教わっていない奴が位相幾何学を知っているんだ・・・

どういうことだよ

種明かしとしては、私の幼少期と一緒。

学習漫画でほんのさわりだけ知っているということだ

確かにその本には図入りで説明されていた。恐るべし

 しかし、知っていることと使える事は違うのだ


でも、子供なりに我に返る時もある。

少し傲慢だった私が8歳の時だ

世の中のことをおおよそ網羅していると思っていた私

ふと気がついた

「俺は8回しか夏を経験していない」


 夏の事だって何から何までわかってた私が、それっぽっちの経験しかないということに愕然とした・・・


 あの傲慢なまま成長したら、それはそれで面白い人間になっていたのだろう

 今の私は常識人が過ぎるかな

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