第3話衝撃

 廊下で野次馬と化した生徒らを掻き分け、三年生のフロアに足早に逃げる俺と篠坂。

 はぁはぁ、と息を切らしながら階段を駆け上がりきった俺らは我に返ったように繋いでいた手を離す。

「ごめん、篠坂さん……動揺してて、その……」

「ううん、いいんです。私こそ、汐野名くんに迷惑かけてしまってごめんなさい。そのぅ、汐野名くんから手を握って貰えて……嬉し、かったですぅ……」

 篠坂が俯きながら謝り、聞き取れない声で言葉を続けた。

 両手のひとさし指の先をつけたり離したりを繰り返し、もじもじと身体を捩らせる彼女。

「……えっと、空き教室に行こうか」

「は、はい……」

 俯いたままに緊張した声で返事をする彼女に視線を送りながら歩き出す俺。

 階段を上がりきった地点から数歩進んで、右に曲がり空き教室を目指す俺と篠坂。

「……」

「……」

 二人して黙り込み、歩み続ける廊下は二人の足音と階下からの騒々しい物音くらいが聞こえるだけだった。

 三年生の姿は見かけず、好奇の視線にさらされずに空き教室の前に辿り着く。

 当然、扉は開いておらず、物音も聞こえない。

 扉をスライドさせ、空き教室に足を踏み入れる。

 俺につづいて篠坂が教室内に足を踏み入れ、教卓と机を挟んだ通路に向かい合うように立ち止まった俺に気付き、表情を強張らせた彼女だった。

「えっと、汐野名くんって……あの、そのっ、噂って、ほん、とう……ですか?」

 彼女が両手でチェックのプリーツスカートの裾より僅かに上の辺りを握りしめ、訊いた。

「まあ、別れたって噂は……嘘、じゃないよ。振られたぼくを笑うために、声を掛けたの」

 強がる余裕は無く、同級生の女子の質問に肯定する俺。

「そんな……ち、違いますよ。そんなつもりでは……ない、です」

「じゃ、じゃあ……」

「汐野名くんと、つっつつ付き合いたくてっ……!」

「えっ!?は、はあーッ!?えっと……?」


 正面に立つ篠坂という女子から衝撃的な告白を告げられ、思考が停止した感覚に陥った汐野名透おれだった。

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別れたら恋人になりたいと言ってきた彼女 闇野ゆかい @kouyann

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