第13話 重力1

 ミサイルとレールガンの弾幕が飛び交う戦場。

 僕の後方、三千の位置に宇宙太陽光発電システム――通称、SSPS・2がある。

 これは気候変動に左右されずに太陽光を受ける事のできる太陽光発電だ。それをマイクロウェーブで地上に送電しているのだ。

 これ三基で原子力発電と同等のエネルギーを生み出せる。つまり、地球にとっては重要な発電設備だ。そこにテロリストが攻撃をしてきたのだ。

「内藤! 五時方向! ミサイル!」

「了解」

 僕は月詠つくよみを五時方向、およそ後方、バーニアを噴かしその場で向きのみを変える。

 ビービー。井本教官の言う通りに多くのミサイルの接近警報が鳴る。

 僕は機銃のトリガーを引く。ダダダッという効果音と共に発射される弾丸。その弾丸がミサイルを悉くを打ち落とす。AnD自体のバーニアを小刻みに噴かし機銃によって起こる反動を抑える。これはシステムによって自動で行われるものだ。

 このシステムのお陰でその場で照準を定める事ができる。

「火月! 九時方向! 敵機!」

 井本教官は先程から僕達の行動を見つつ戦闘をしている。

「おうよ!」

 火月の天照あまてらすは隕石にアンカーを刺し、固定している。その状態で遠くからの砲撃支援を行っていた。

 そのため接近する敵機に気づきにくい。

 火月はスナイパーライフルタイプのレールガンの構えを解く。左脚部のアンカーを外す。飛んでくレールガンの弾を左マニピュレータの保持したシールドで防ぐ。そして触れ合える程に敵機が接近した。その瞬間、天照の左脚部が持ち上がり、敵AnDを蹴る。そしてアンカーを射出する。電磁的に射出されたアンカーは、パイルバンカーの如く敵AnDのシールドを、本体をも貫く。

 支援に向かっていた井本教官は即座に反転し防衛ラインに戻る。

 本来、天照は遠距離用にチューンナップされた機体だ。それが意図も容易く接近戦に対応しているのだ。これが火月の対応力だろう。

 僕は右後方に向けハンドガンタイプのレールガンを撃ち放つ。連射し敵機の退路を断つ。逃げ場を失った敵機に向かいバーニアを噴かす。通常のAnDのおよそ二倍の加速がかかる。それに伴い十二Gもの負荷が身体にかかる。

「ぐうぅぅ」

 僕は唸りながらも操縦桿を動かす。シールドで防御の姿勢を行う敵機。僕はそのシールドを自分のシールドで弾く。そして胴体に搭載された無反動砲とミサイルを撃ち放つ。敵機は機械としての機能を失う。

 ピーー。無反動砲が弾切れになった事を告げる。

 戦闘開始から三十分。弾切れを起こしたものは左脚部に携行したレールガンと無反動砲。そろそろ弾切れになりそうなのが右マニピュレータに携行したレールガンと、機銃だ。

 にしてもまだ、増援は来ないのか? 内心愚痴りながら、次の敵機に向けて飛翔する。宇宙という暗い海を泳ぐ。青白い尾を引きながら。

 右マニピュレータに携行しているレールガンを右脚部のハードポイントに納める。そして背中の推進装置に設置された巨大な日本刀、南山を右マニピュレータに持たせる。その巨大な刀は未だ扱いが分からないものだ。しかし今はそれにすがるしかない。

 敵機のAnDを捕捉。敵はレールガンを放ちながら後退して行く。しかしこちらも負けじとペダルを踏みこむ。急加速が月詠を、僕を襲う。

 レールガンの弾幕が襲うが、それをシールドで防ぐ。シールドに着弾。何発かが爆発する。どうやら通常弾丸の中に徹甲榴弾が交じっていたようだ。

 徹甲弾は元々、装甲を貫くための特殊な弾丸だ。しかし、軍用シールドはその直撃を受けても耐えうる構造をしている。ちなみに徹甲榴弾は徹甲弾の一種で、装甲内で爆発するタイプの弾丸だ。

 徹甲榴弾の爆発がシールドを削っていく。弾丸がシールドに直撃するたび、シールドが軽くなっていく。それに伴い、月詠の速度は徐々に上昇する。

 敵AnDに肉薄する。僕は南山を振るい、敵機の携行武装レールガンを弾き飛ばす。

「なるほど! 刀とはこういうものか!」

 僕は関心したように呟くが、これが初の刀武装――南山の活躍だ。

 敵機は武装を失い慌てふためいているようだ。そこに蹴りを加える。

 バランスを崩した敵機。胴体にめがけ南山を突き刺す。半分くらいで刀身が折れたものの、切先きっさきは確実に相手のコクピットを捉えていた。

 僕は次の敵機に向け方向転換。そして一直線に加速する。それは遠目から見て青白い光を放つ流れ星のようになったようだ。

 僕は敵機に接近すると刃が半分になった南山を投げつける。それをシールドで弾く敵機。敵機は横合いからミサイルの直撃を浴びる。

「火月か……」

「おうよ!」

 僕の独り言に火月が答える。

 火月は今回、後方からの支援砲撃で重要拠点のSSPS・2のすぐそばの隕石にいる。

 僕はというと、三千キロ以上離れた前線での戦い。井本教官も前線での戦いだ。

 僕のシールドに徹甲榴弾が直撃する。一拍置いてその弾丸が爆発する。

「くっ! シールドも持たいぞ!」

 僕はぼやくが、そうしたくもなる。レールガンの残り弾数は十発程度、後はもう一本の南山、チャフそれから信号弾のみ。このまま戦闘を続行するのはきつい。同期リンクしたデータによると、井本教官や火月の天照も残弾がやばい。

 増援を要請してから二十分。まだ来ないのか……。

「救援を待て!」

 井本教官は苦々しく言う。

 現在こちらは三体、それに対し敵は十体程。

「おいおい! 弾薬がもたねーぞ!」

 火月の愚痴に我知らず頷いてしまう。

 ピロロッ。電子音が別動隊の動きを感知させる。

「火月!」

 井本教官は火月に任せるようだ。

「おうさ!」

 火月は天照の照準を別動隊へ向ける。

 これだけ時間が経った後の別動隊。一体どういうつもりだ? その疑問は月詠に走る衝撃によって遮られる。ミサイルの直撃だ。幸いな事に小型で威力の低いタイプのものだ。装甲が一部、破損しただけで済んだ。

 僕はクサンドラシステムのフィルターを一段階下げる。その事により各部センサーから得られたデータを五感を通じて感じ取れる。

 皮膚に少しの痛覚を感じる。その方向を見ると、ミサイルが接近している。

 僕は月詠を方向転換し機銃で迎撃する。撃ち放たれた弾丸の一部はミサイルに被弾しミサイルを火球へと変える。飛んでくる破片をシールドで防ぐ。

 頭上に痛み。その方向には敵AnDがいる。レールガンを構えこちらを狙っている。僕はそちらに向け、バーニアを出力する。その加速に驚く敵機。しかしすぐにレールガンを連射する。僕は月詠を小刻みに動かしその弾丸をかわす。かわしきれないものはシールドで受け止める。徹甲弾によりシールドに穴が空くが、貫通するまでには至らない。

 僕は二本目の南山を右マニピュレータに携行する。敵機は後退をしながらも撃ち続ける。僕はその敵機のふところに飛び込む。ガードが甘い!

 僕は南山を横に振るう。その切先が敵機の関節部にヒットする。丁度、腰の辺りだ。敵機の関節はひしゃげる。いかにもギギギという音を立て動けなくなったようだ。まあ真空なので音は聞こえないが。

「そうか。こうも使えるのか」

 僕はそう呟き、今度は胴体と肩を繋ぐ関節を狙い南山を振るう。きっとガキンという音でも鳴っているだろう。そう思いながら関節部を執拗に狙う。

 関節部はその構造上、強度が低くなる。そのため関節を攻撃するとすぐに拉げるのだ。また拉げる事により、本来の動作が不能になる。要は間接はロボットの一番の弱点なのだ。しかしその隙間を狙うのは至難の業であり、刀という特殊な武装を保持しているが故に可能なのだ。

 南山により各部関節をやられたAnDが漂流する。時間はかかるが敵を無力化できる。しかも弾丸の消費もない。

「しかし、これは」

 僕はモニター端を見やる。別動隊が火月との攻防戦に入っている。火月一人でSSPS・2を守っているのだ。いずれ火月も押し切られそうだ。

 額に汗が伝う。

 次の瞬間、背面に違和感を感じる。そちらのモニターを確認すると、ミサイルの大群だ。僕は方向転換をかけ、チャフを散布しつつ、後退。

 このチャフは特殊でフレアとしての機能も持っている。いや、電波攪乱や熱量だけでなく光学カメラすらも誤魔化せるものだ。

 ミサイル群がチャフの網にかかると、敵機と誤認し次々と爆発する。

 そのミサイルを放ったであろうAnDに向け、接近する。南山を推進装置のハードポイントに納め、レールガンを保持する。

 圧倒的な加速で敵AnDを追い詰める。そしてレールガンを撃ちこむが、全てかわされる。

「ちっ」

 僕はレールガンを脚部ハードポイントに納め、南山を構える。

 敵のレールガンが火を噴く。というよりも弾丸を噴く。それが僕のシールドに被弾する。

 そのまま肉薄する。今の月詠には南山と信号弾しかない。

 触れ合える。その距離まで詰めると南山を振るう。それをシールドで受け止める敵機。敵機のレールガンがこちらに向く。

 僕は急ぎ、ボタンを押す。月詠の胴体から発射された信号弾は敵機にぶつかり強い光を放つ。多くの光量を放つ弾頭が目暗ましとなる。

 その瞬間を狙い、南山を敵コクピットに向け突き刺す。刀身は折れ、残った柄は投げ捨てる。

 これで武装を使い切った。その上、敵AnDは未だに五機もいる。

 別動隊も十機近くいる。

「火月は?」

 僕はそう独り言を呟く。そして天照の残弾数を見る。ミサイルは弾切れ。残りはレールガンと、機銃、無反動砲のみ。

 井本教官はまだ戦えるようだ。

 僕はもう武器がない。どうしようもないのだ。そんな僕に一機のAnDが接近してくる。機銃を撃ちながら。

 僕はシールドを掲げ、弾丸の雨を防ぐ。もうこちらには反撃の方法がない。

 ……逃げるのみ!

 僕はバーニアを噴かし、敵機との距離をとる。逃げ回るが、すぐに敵機に囲まれる。

 これでは逃げ場が!

 そう思っていると、レールガンが撃ち込まれる。シールドや装甲に穴が空く。なんとか弾丸をかわすが、切り傷のように装甲が削られていく。

 よく見ると、火月の残弾がゼロになっている。

 まずい。防衛ラインが突破される!

 内心、焦るがどうしようもない。四機のAnDに取り囲まれている。井本教官は残りの一機と戦闘中。

 直後、僕の後ろにいたAnDが破裂したように爆発する。

 なんだ!?

 続いて残りの三機にも閃光が走る。恐らく、レールガンの弾丸が電磁力を帯びた結果だろう。

 その閃光が敵AnDを火球へと変える。

「助かった、のか?」

 ピピッ。接近警報。

 輸送艇MS-205Sソタ、一隻。輸送艇MS-203Sダイン、一隻。

 計二隻が接近中。ソタはレールガンやミサイル、機銃を装備している。ダインは機銃とミサイルを装備し、AnDを六機も収容可能だ。

 そのダインからAnDが飛び出す。計三機。その三機は火月の方に向かう。

「随分と腕がなまってるでしょ?」

 通信から女性らしい高音の声が響く。この声はすみれ

 味方の三機が連携をとりつつ、敵機を一機づつ落としていく。

 ピー。ダインからの帰還命令。

 僕は月詠の進路をダインに向ける。どうやら井本教官も同様の命令を受けたようで同じコース上を通る。火月は未だSSPS・2の防衛に回っている。

「俺はまだ戦える!」

 火月はそう意気込み、レールガンを撃ち続ける。


 月詠はダインに収容される。それと同時に弾薬や推進剤、冷却剤の補給が開始される。僕はその合間を縫ってドリンクを飲み、タオルで汗を拭う。

「第二陣が来るとも限らない。交代要員が来るまで待機せよ」

「了解」

 ダインの艦長からの待機命令を快く承諾する。

 数分後、火月の天照も収容される。それにより、一旦の終結を意味した。

「すいません。南山の補給は不可能です」

 整備兵が申し訳なさそうに僕に頭を下げる。しかし元々、南山は実験的な武装だ。共通武装ではない。こんなところに特殊武装が配備してあるはずもない。

「了解」

 僕は機体のシステムチェックに入る。

こう、久しぶりだな!」

「兄さんも元気そうで」

 井本教官と考が言葉のキャッチボールを行う。聞いた事があると思ったら、まさかの兄弟だったか。

 ちなみに考は救援に来た部隊AnDのパイロットだ。

「母さんは元気か?」

「元気だよ。たまには帰って来いって」

 井本教官と考のやりとりは僕の耳には痛い。僕の過去を、家族の事を思い出すからだ。

 井本教官は苦笑しながら、まいったな、と答える。

「おいおい! 私用で無線を使うな!」

 ダインの艦長は柔らかい声色で言う。顔を見ずとも柔和な笑みを浮かべているのだろう。

「「すいません」」

 井本教官と考はほぼ同時に謝る。さすがは兄弟といったところか。



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