第12話 初陣2

 パイロットスーツに身を包んだ僕達はそれぞれの機体に乗り込む。

 火月は天照あまてらす、僕は月詠つくよみ、井本教官はMR-122Sアイクに乗り込む。アイクは井本教官用にカスタムされたAnDだ。しかし目だった特徴はなく、各種ハードポイントに多数のセンサーを取り付けているだけのようだ。携行武装は中型のレールガンが一丁だ。

「出撃するぞ!」

 井本教官が発進を促す。

「あいよ」

「了解」

 僕と火月は返事をし、AnDを固定するアームを切り離す。

 三機ともバーニアを噴かし、宇宙へ飛翔する。

「今回の任務は先程、説明したように哨戒任務だ。場合によっては会敵、即、戦闘もありうる」

 井本教官のそんな言葉を無線越しに聞く。

「それまでに機体に慣れとけ」

「了解」

「うーっす」

 井本教官に対し軽い返事をする火月。初めの内は怒られていたが今となってはもう慣れたらしい。


 まずはスペースコロニー外周の哨戒だ。

「これが普段のコロニーの様子だ。違う点があったら調査をするからな。しっかり覚えておけ」

「了解」

「へいへい」

 どうやら、違和感があった場合の対処も行うらしい。

 スペースコロニーの外周を一周すると今度は次のコロニーの外壁を一周する。

 スペースコロニーは全部で十四基ある。建設中のも含めると二十二基にも及ぶ。

 その各コロニーを一つ一つ、見て回るのだ。



 コロニー、テミス。政治の中心地だ。刑務所などを完備し、デモ行進などもよく行われるコロニーだ。

 僕達は今、その哨戒に向かう途中にいる。

「ん?」

 井本教官がAnDの、アイクの速度を緩め、停止する。

「どうした?」

 火月が同級生に尋ねるような態度をとる。

 僕と火月もアイクの後方で停止する。

 僕と火月、井本教官のAnDはデータを同期した状態にある。センサーに長けたアイクが信じられないものをモニターに映す。

 コロニー外壁にAnD、数機が取り付いている。この時間に外壁補修などの予定は入っていないはずだ。

 ピピピッという電子音が鳴り響き、敵機を特定していく。

 コンピュータが自動でNo1からNo12まで表示していく。全部で十二機。

 コンピュータが敵機と判断したのだ。

「火月、狙えるか?」

「可能だ! コロニーの後ろに回り込まれない限りは!」

 井本教官に火月は返す。コロニーは回転している。故にいずれ、コロニーに取り付くAnDも裏側に隠れるだろう。

 井本教官は上層部に打電し指示を仰ぐ。司令塔から指示がくる。この間、約八分。

「やれ!」

「おうよ!」

 井本教官の声に反応した火月が大声を上げる。

 火月のAnD――天照がその背面に背負った大型ミサイルランチャーをもたげる。

「内藤は俺達の護衛だ!」

「了解」

 僕は井本教官に答える。その間に天照のミサイルランチャーがミサイルを吐き出す。途切れる事なく、降り注ぐミサイル。絶え間ないミサイルが敵機に向かっていく。

 直撃までの時間にスナイパータイプのレールガンが弾丸を撃ちだす。その弾がNo3のコクピットを貫き、爆炎へと変わる。それを契機に他のAnDが散る。

 逃げ出したAnDはミサイルの襲撃を受ける。ミサイルの方がレールガンよりも遅いのだ。故に波状攻撃となる。

 未だ吐き出されるミサイルは青い尾を引き、敵機との間にいくつもの線を作る。ミサイルが餌を求める魚のように宇宙を泳ぎ、敵機に食らいつく。

 No2、撃破。No5、撃破。No6、撃破。次々と届く撃破、報告。レールガンやミサイルの餌食になったのだ。

 火月と井本教官はレールガンをミサイルの間に織り交ぜる。

 No7、No8、撃破。逃げずにコロニーにしがみつくNo11。それを庇うNo4とNo10、No12。大型のシールドで庇っているように見える。何をしているんだ?

 No1とNo9がこちらに向かい進路をとる。No1、No9は共に機銃を放ちながら向かってくる。向こう見ずな行動だ。こっちは三機、相手は二機だ。そうまでして何を守る?

「内藤!」

「了解」

 井本教官は僕の出番だと判断した。ならそれに答えるのが今の僕の役割だ。それで仕事になるなら。

 僕はバーニアを思いっきり噴かす。が、思っていた以上の加速。体に強烈なGがかかる。

「グッ!」

 思わず声が漏れる。ピーキー過ぎる。遊びが殆どない。少し踏み込んだだけでこの加速か!

 天照火月アイク井本教官の前に出る。

 No1とNo9の行く手を阻む。


(内藤さん! 早く!)


 !! なんだ! 今の声は。井本教官でも、火月の声でもない。僕はモニターを見渡す。サブモニターも見る。と、サブモニターにクサンドラシステムの起動履歴が残る。どうやらクサンドラの機能らしいが、何をしたのかが分からない。

 ピーピー。電子音が響く。敵機の接近を教える。ここを通す訳にはいかない!

 僕はハンドガンタイプのレールガンを連射する。その弾丸はNo1とNo9の足を止める。

「こんだけ近けりゃ!」

 火月の怒号がコクピット内に響く。うるさい奴!

 そう思っている間にレールガンの弾丸がNo9を貫く。続いてNo1も撃ち抜かれる。こっちは井本教官の攻撃か。

 No11がコロニーから離れる。それを囲むようにNo4、No10、No12が追尾する。追尾している三機はシールドを携行している。このままでは逃がしてしまう。

「先行します」

 僕はそう言い残すと、月詠AnDを徐々に加速させる。

「待て! 内藤!」

「いいだろ。別に」

 井本教官の声を阻むように火月が割り込む。

 僕はすぐにNo12に追いつく。シールドを構えるNo12。そのシールドをこちらのシールドで弾く。そして無反動砲を撃つ。加えてレールガンを連射する。

 No12は文字通り、ハチの巣になり、爆発へと変わる。その爆炎を突っ切り、今度はNo10に向かう。

「何故、法律を守れない!」

 僕は何故かそんな事を口走っていた。

「人が人を嫌いになるのに理由なんていらねーんだよ!」

 火月が僕の質問ともいえない質問に答える。

 僕はレールガンを撃ちながらNo10に突っ込む。No10はシールドを構え弾丸を防ぐ。

 そうかもしれない。人が人を嫌うのに理由はいらないのかもしれない。僕は学校で嫌われ続けてきた。逆に人が人を好きになるのには理由がいるのに!

 何故か、全身の血管が広がる感覚に陥る。流れる血が増したような感覚。


(内藤さん! 行ってください!)


 また声!? No10がミサイルを放つ。続いてNo4もミサイルを発射する。

 爆発が起こりモニターを覆う。金属反応や赤外線センサーなどに異常が生じる。そのためのミサイル! しまった!

 モニターが回復した瞬間にNo10が目の前でレールガンを構えている。


 終わった。


 そう思った瞬間、No10が横合いからミサイルのシャワーを浴びる。爆発の光。

 No10は金属片へ変わる。

「俺らがいるのを忘れるな」

 井本教官が言う。その言葉に安堵する。

 僕は今、その人生に終わりを告げるところだった。助かった。それが率直な感想だ。一拍、置いて今の状況を確認する。敵機が見当たらない。

「No11とNo4は?」

 僕は少し焦り、問う。

「あいつら、逃げやがった」

 火月が悔しそうに答える。

「コロニーの影に隠れたんだ。無理もない」

 井本教官はなぐさめるように言う。それが慰めだと分かるから余計に辛い。

「取り敢えず、上層部に報告だ」

「おう」

「……了解」

 井本教官に倣うようにAnDをコロニー、トートへ向ける。

 さっきの声は一体、何だったのだろう。それに敵は何をしていたんだ?

 危うく死にかけた身としては少し休みたい。

 様々な思いが心を掻きむしる。

 操縦桿そうじゅうかんを握る手が震える。ついでに足もカタカタと震えている。いや全身が震えているのだ。それを自覚した瞬間、全身の毛穴から汗が噴き出す。パイロットスーツの下、皮膚の上が湿り気を帯び、不愉快な感覚。

 心臓が張り裂けんと、ドクドクと血液を押し流す。背中に冷たいものを感じるが、座席はその体温を吸い上げたように熱い。

 額から垂れる汗が目に入りそうになる。スイッチを押しヘルメットのバイザーを上げる。そして頭を左右に振る。それに伴い、汗が飛び散る。取り敢えず、額の汗は飛んで行った。

 側面の収納ケースを開き、飲料水とタオルを取り出す。飲料水のストローを口に咥え吸う。そしてタオルで顔を拭く。スポーツドリンクが口腔、食道を通り胃に流れ込む。少し落ち着いたようだ。




 AnDのコクピットは本来、一人用だ。故に今の状態は苦しい。なにせ二人も乗っているのだから。今回の作戦は計十二機のAnDを用いた大規模なものだった。囚人の脱走。それにどれほどの時間を費やした事か。

 その作戦は二年前から立案されたものだ。様々な人の協力を得て、警備状況、哨戒任務のルートなどを考慮したのだ。内通者からも情報を得たのだ。まさか、この時間に哨戒を行う部隊がいる、という情報は入っていない。恐らく、急な予定変更でもあったのだろう。

 迂闊だった。しかし、青墨色の機体は感情が乗っているような戦い方だった。まだ、経験が浅いのか? そんな相手に十人も、十機もの損失をだしたのか。

 俺は後ろを振り向く。

「内藤さん。ご無事ですか?」

 俺は座席の後ろに立っている男に話しかける。その男――内藤は両腕を伸ばしコクピットの壁面を押さえるとうに立っている。AnDの振動で倒れたりしないためだ。

「ああ。なんとかな! おい、隕石だぞ」

 内藤に言うように隕石がモニターに映る。それを告げるようにピピッという電子音が鳴る。

 俺は前方に向き直り、回避行動をとる。

「急な動きは辛いな」

 内藤は必至で堪えながら、顔を一瞬、しかめる。

「おいおい! 内藤さん、乗せてんだから無理するな!」

 通信が入る。浅倉あさくらからだ。

「そうだな。 内藤さん、すいません」

 俺は今度は振り向きもせずに告げる。

「シヴァまでどのくらいだ」

 内藤は正面を見据える。

「……後、一時間程です」

 俺は今の速度と現時点からの距離を試算し、答える。

「追手は?」

「今のところ、いません」

 さすが内藤さんだ。必要な情報を聞きだしてくる。こんなにも被害を出し、計画としては失敗したも同然なのに。それなのに動じてない。

 今後、我々のリーダーになるのに相応しいお方だ。

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