ロングロンググッバイ

荒川 麻衣

永い言い訳

 こんにちは。 

 

 何。何なの。


 今更、こんなおばさんに何の用なの。


 何を聞きたいの。


 あなたは、何の目的で、私の前に現れたの。


 知りたいって?


 ああ、沙布くんの、熱心なファンなんだ。


 それで、沙布くんの霊が現れた、って私がつぶやいたから、わざわざ、沖城(むなしろ)まで来ていただいて。


 田舎からわざわざご苦労さまです。


 田舎でしょ、東京なんか。


 貝塚の頃は、縄文時代は、青森が最先端だし、風土記なんて、ほとんど残っていない、ど田舎の人に言われても。


 は。


 それでも聞きたいの。


 物好きにもほどがあるでしょ。

 

 え。


 ああ、沙布くんは、確かに、向いてなかったって言うか。


 共演したことも、会ったこともないけど、なんで、わたしのところに来たのかな、沙布くんの幽霊は。


 で。


 沙布くんと違って、私が子役やめた後、役者にならなかった理由について、知りたいと。


 ただの熱心な沙布くんファンか。


 いい加減、宗田さんにつっかかるのやめなよ、沙布くんファンは。


 あれ、よくないよ。


 宗田さんがもし沙布くんの悩みに気づいていたら、と言っても、出自の関係で彼、常に不安定みたいだし、ほら、この前、昭和くんが海外に移住したから、余計に不安定なんじゃないかな。


 ああ、それから、麻衣美さんが亡くなった件もそう。山雪くんに非難が集中して、山雪くん、芸能界引退したでしょ。


 責められるべきは、芸能界であって、山雪くん責めても、彼女は戻ってこないんだし。履き違えているよ。


 どんな地獄が、あるかなんて、父方も母方も一般人なご家庭じゃあ、想像するのも難しいでしょ。


 私の家は、父方も母方も芸能一家だけど、うまくいかなくて。


 過去の栄光にとりつかれていたわよ。昔は綺麗だった、昔は輝いていた、って。


 そんなに言うなら、ここだってしょっちゅう催しや祭りがあるんだし、自己顕示欲発散して欲しかったな。


 父方も母方も育児放棄したのかなんなのか、私、結局は、義理の父と、母の姉と、その息子二人から愛されないで育ったけど、子役として何回も舞台に立つごとに、劇団の演出家と母の姉が仲良くなったから、あ、この人も、私自身を見てくれない、愛してくれないんだな。そう思ったよ。


 前置きが長いから、もう、帰ったと思った。

 録音?個室取ったのは、そのため。はぁ。確かに、スーパー銭湯を指定した時点でおかしいと思ったんだけど、推しだけ出ないから、と言う理由で、譲渡交換にあなたは応じたけど、まさか、真の目的がこれとは。


 私も落ちたものだわ。


 いいよ。


 公表して。


 それが、東京の芸能界に対する、私の復讐、沙布くんと麻衣美さん、そして、また犠牲者が出た。


 子羊を何頭、何匹ささげれば、いけにえがまだ足りないのか、彼らは、死を欲しがっている。


 死神だ。


 本題に入るわよ。


 女性の場合、子役から大人の役者に

なるには、脱ぐ、キス、性的場面をこなす必要が出てくるのよ。


 男と違って、社会派だから脱ぎません、キスしません、性的場面お断り、ができないのよ。


 それ全部断ったら、女優の仕事、なくなっちゃうわ。


 それに、配役されるために製作陣に身体をささげよ、なんて、よくあることでしょ、手間がかかる男を世話して、なんて、男はいいよな、世話されてもなーんもおとがめなしかよ。


 それは。


 キスシーンとか、あるじゃない。


 大人の女優になると。


 それが嫌で。


 え。


 それだったら、声優になればいい。


 それもそうなんだけど、

 声優って、実はなれるのって、

 ほとんどいないのよ。


 声優養成所、あれ全部嘘だから。


 君も声優になれる、なんて嘘。


 アナウンススクールに入っても、

 アナウンサーになれない人、

 夢あきらめた人、いるから。


 後は。


 怖くなったのかも。


 私ひとりの言葉で世界が、

 変わっていくのが。


 とはいえ。


 言い訳にならないわ。


 結局のところ、男役からうまく、

 女に移行できなかった、

 って言うのが正解かしら。


 それって、通用するの14歳だし。


 後。


 演技さえうまければ、なんて時代は、

 コミュニケーション能力が

 求められるようになったのって、

 握手会商法、

 接触商法ができてからでしょ。


 どんなに言葉が不自由な人間のことも、理解しろ、って、それって、精神科医の領域じゃない。


 この国はいつから、児童人身売買と、児童ポルノが合法になったんだ。


 裁判官も検察官も警察官も、男女同権主義者も、一様に押し並べて、なんていうの。絵に描いた少女を守ることで必死で、生身の少女を守る気なんて、はなから、最初からないのよ。


 なぜかと言えば、彼らにとって、少女は魔女で、少女は母親。


 彼らにとって、母親を大人に求めるよりは、性欲や、庇護欲、少女なら叶えてくれるから、少女がそう言った対象からはずれるのは困るのよ。


 自分たちが通う楽園、少女たちが作り出す楽園に、男たちは入れなかったし、今でもそう。


 そろそろ、いい。


 仕事に戻るんで。

 

 大変なのよ。


 一般人のふりして、仕事するの。

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