漢は辛いよ

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※注:彼は嘘をついてはいません


「ジェニファー!」

「……ようやく来たわね、タケル」


 ぜーぜーと荒い呼吸をしながら、急いで待ち合わせ場所の駅前に到着した冴えない男・タケル。しかしそこで待っていたのは完全にお冠な恋人・金髪美人のジェニファーだった。


「いま何時かわかる? そう、17時よ。あたしをこんなに待たせるんだからさぞご立派な言い訳があるんでしょうね?」

「ジェニファー、愛してるよ。約束の時間は7時だったのに、10時間も待ってくれたキミに伝えるべき言葉はそれしか思いつかない」


 普通の人なら10時間も待たされれば、普通はこの場にはいない。

 だからタケルは本心で感謝と愛の言葉を伝えたが、それでジェニファーが納得するはずもなく頭の怒りマークはまったく減る気配はなかった。


「それだけ? ……さよならタケル、せめてもっと上手い言い訳なら考える余地があったのに」

「ま、待ってくれ! わかった、本当のことを言うよ!」

「聞きましょう」


「実は……ココに来る途中、保育園児を狙って襲撃する卑劣な怪人スパイダー男と闘っていたんだ。子供達が危ないのを見過ごすことはできないからね」


「そう、それは大変だったわね……。きっとスパイダー男とかいう変人は、クーモクモクモ笑いながら子供達を糸でグルグル巻きにしたんでしょう」

「まるで見てきたかのようにわかってくれて嬉しいよ!」

「さよならタケル。つまらない別れになってとても残念だわ」


「全然わかってくれてないね!?」

「いきなりそんな妄言吐かれて信じる方がおかしいでしょ!? あなたが咄嗟に天才的発想で言い訳製造するマーンなのは知ってるけどッッ」


「ひどい言われようだな!?」

「大好きなニチアサ的ネタでこられてもどうしようもないわ! せめてバット男だったら違ったのに……」


「ジェニファーの中でスパイダー男とバット男はそんなに違うのかい? コウモリマンだったらセーフだった?」

「……ギリギリね」

「いいんだ!? キミとの付き合いも長いけど、またひとつ分かり合えた気がするよ」


 ◇◇◇


「お願いよタケル。本当のことを言って? 私、あなたの本当の言葉ならなんでも信じてみせるわ」

「……わかったよジェニファー。実は、ココに来る途中、武装てんこもりのパワードスーツを着たどっかの危ない社長が――」

「さよなら」

「ステイステイ! 全然信じてないじゃないか!?」


「ごめんなさい。続きを教えて」

「――で、暴走してたんだ。本人は止めようとしてたんだけど、AIの誤作動とかで。それを必死に止めようとしたら――」


「やっぱりあなた嘘つきよ!!」

「ほんとなんだって!?」


「赤いパワードスーツ(武装いっぱい)を着たアイアーンな社長が、ゴオオオォォって飛び回りながらミサイルやビームでビル群を破壊してたなんて信じられると思う?」

「まるで見てきたかのようだね。そのとおりだよ」


「どうやって止めたの?」

「そりゃあもちろん、この肉体に秘めたスーパーなパゥワァーを使ってがっぷりよっつに組み合った後にウルトラ背負い投げを――」


「……そう。有効の後に抑え込みまでしたのね?」

「理解が早くて助かるよ」


「さよなら」

「ワッツ!? 待ってくれジェニファー、じぇにふぁーーーーーーーー!!?」


 愛しい王子様に捨てられたお姫様のように手を伸ばしながら、タケルはその場で絶叫するしかなかった。ジェニファーは既にスタスタとその場から立ち去ってしまっている。関係修復は困難だろう。


「うぅ、ジェニファー……どうして信じてくれないんだ」


 嘆くタケル。

 その時、ジェニファーの悲鳴が聞こえた。彼の超感覚はしっかりバッチリそれをキャッチできるので聞き間違いではない。


「愛する人が、オレを呼んでいる! いま行くぞ!!」


 ゼロゼロ9な加速装置もびっくりな超スピードで、タケルは飛び立った。文字通り、空を飛んでである。



 ――彼が言い訳妄想マーンではなく、何一つ嘘をついていなかった漢だと証明されるのは、きっともうすぐだろう。


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