自作自演の依頼料(あるいは正義の執行料)

 Amazonで買い物をする時、カスタマーレビューを参考にしてしまうという悪癖が治らない。買い物の際にレビューを参考にするのなんて当たり前だろうと思う人もいるかもしれないが、電子機器関連の小物(ワイヤレスイヤホンや充電用ケーブル、ゲーミング用でも何でもない有線マウスなど)を買うたびに、名刺くらいのサイズのカードが入っていて、「☆5レビューを書いてくれたら1000円分のギフトカードを進呈します(このカードの内容は秘密にしてください)」という旨が書かれているのだから、そろそろ懲りても良い頃だと思う。驚くべきことに、該当の商品の単価が1000円を割り込んでいたことさえある。商品が手に入った上にお金までもらえるなんて、現代の錬金術と言って差し支えない。道理で何百件も高評価が並んでいるわけだ。そのような高評価レビューを依頼する卑劣カードが入った商品が欠陥だらけの粗悪品なのだとしたら話はわかりやすいのだが、大抵の場合、某国製でお世辞にも良質とも言えないが、使えないことはない、むしろ値段の割には想像よりマシ、といった出来栄えであって、「こんな劣悪な製品で客を騙そうなんて到底許せない!」と憤りを覚えるほどではなく、何事もなかったように使用を続けるのが常である。一度、そのカードについて写真付きで言及し、辛辣な言葉で☆1をつけているレビューコメントを見かけたことがあり、私もそれくらいの正義漢でありたいものだと素直に思った。


 先日、LED電球を購入する機会があったのだが、私にしては珍しく、「値段は気にせず、むしろ有名なメーカーが出している高価なものを買おう」と意識して商品を選んだ。電気代が安く、何十年も長持ちするからコストパフォーマンスに優れているという触れ込みだったのに、どうやら粗悪品を掴まされたらしく、一年も持たずに交換を余儀なくされ、今度こそは失敗したくないという思いからだった。

 発送元がAmazonでなかったが、特に気にせず4個注文し、届いた段ボールを開梱したところ、一通の封書が入っていた。店からのお礼状か、「〇〇通信」みたいな店独自の広告かと思ったら、全く違った。びっしりと、日本のものでないメーカー名と思われる英単語(一部漢字のものもあり)が羅列されていて、「トラブルの報告が多いことから当店では当該メーカー品を一切取り扱わない」旨が宣言されており、くれぐれも他店からも購入しないよう、注意を呼び掛けていた。それだけならまだ理解できなくもなかったが、一連のメーカーについて、「顧客に金を払って自社製品について高評価レビューを書かせる」という行為が常態化している点を批判しており、「リストにないメーカーの製品で、万が一そのような行為が行われていたことを発見した場合、証拠と共にその旨を指摘するレビューを書く」ことを推奨していた。そのようなレビューを書いたことを然るべき方法で店側に伝えれば、5000円分のギフトカードを進呈するという。

 何がその店をそこまで駆り立てているのかわからず、正直、気味が悪かった。

 そして、5000円のためなら、本当は高評価レビューの依頼なんて無かったとしても、購入した製品が気に入らなかった際、低評価でこき下ろすついでに「こんなカードまで入ってました」などとイタズラ紛いで報告する者も現れてしまうのではないか、無差別な攻撃を誘導してしまうのでないか、という懸念も生じる。いや、もはや、それが本当の狙いなのでないかとさえ疑いたくなる。


 その店のしていることが正義の執行なのか、それとも自作自演の依頼なのか、私にはわからない。


 とりあえず、その店から買った4個のLED電球のうち、1個は一ヶ月持たずに切れました。☆1とさせていただきます。


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