言い訳代理人

今福シノ

依頼人File No.376

 俺は言い訳代理人。依頼人の代わりに言い訳を考えてあげたり、言い訳をする手伝いをすることを生業なりわいとしている。

 つまりは、言い訳のプロフェッショナル。言い訳させたら俺の右に出る者はいない。

 そんな俺を求めて、今日も誰かが事務所のドアをたたいてくるのだ。



「……なるほど。浮気してしまった言い訳を俺に手伝ってほしい、と」

「そうなんですぅ。私、彼ピのことは好きなんですけど、あの時はちょーっとさびしかってぇ。ってゆーかあの人は好きピだしぃ」


 依頼人の若い女性は困った表情で、しかし大して困っているようには思えない口調で話す。


「でもぉ、最近好きピのことが彼ピにバレちゃってぇ。すんごく怒ってるんですよぉ。殺してやるとか言ってて怖くてぇ。なんとか言い訳できないかなぁって」


 浮気しておいて言い訳しようなんてなかなか性根の腐ったやつだな。というか彼ピと好きピの違いって何だ? なんて感想しか出てこなかったが、俺はプロだ。私情を挟むわけにはいかない。


「わかりました。ではまずは言い訳の内容から」

「あっそれはもう考えてきてるんですぅ」

「はい?」

「あなたにぃ、好きピの役で一緒に彼ピのところに来てほしいんですぅ。それでぇ『あなたが私を強引に誘った』って話してくれませんかぁ? それなら私も被害者っていうかぁ、彼ピも私に怒らないかなかってぇ」

「……」


 なるほど、俺自身を言い訳の理由にして浮気相手役を演じて彼氏の怒りの矛先ほこさきをそらしたい、ということか。

 であれば、俺の答えはひとつ。


「申し訳ありませんが、今回の依頼はご遠慮させていただきます」

「えぇっ、なんでなんですかぁ!?」


 頭を下げる俺に、依頼人はようやく困った表情になる。


「あなた、言い訳のプロじゃないんですかぁ?」

「はい。でも殺されたらもう二度と言い訳ができなくなるじゃないですか」


 俺は言い訳代理人。

 依頼を断る時の言い訳だって、超一流なのだ。

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言い訳代理人 今福シノ @Shinoimafuku

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