ラベルの塔

夏生 夕

第1話

違うから。

これはそういうんじゃなくて、自分へのご褒美だから。

お仕事がんばりました!だから!



「違うから」とか言っている時点で何も違くない。

人はこれを、衝動買いと呼ぶ。


ほんの隙間時間や仕事の行き帰りは、すぐ本屋へ立ち寄ってしまう。

なんせ歓楽街、少し歩けば書店に当たる。しかも最近は本屋では無いにも関わらず、本を扱っている店舗が増えすぎだ。


カレー屋にはスパイス本

喫茶店には旅行本

靴屋にはコーディネート本。


わたしだって用事だけ済ませて颯爽と立ち去りたい。

でも気付くと荷物が増えていることがしばしば。街中に誘惑が多すぎる。

嬉しい悲鳴ってやつか。


別にお金のかかる趣味がある訳で無し、出会ったときに手に入れない後悔を知っているため、ここぞという時に財布の口が緩む。


しかもこだわり抜かれた装丁や帯が容赦なく目に飛び込んでくる。

紙の本、の醍醐味だ。本屋を巡る楽しさだ。



これらすべて、言い訳に過ぎないが。



部屋がひっ迫していることに変わりはない。

棚という棚から小説が、漫画が、雑誌が、溢れ出てしまっている。いや丁寧に並べてはあるけれども全く納まっていやしない。

正直、自分の読むペースに対して量が釣り合ってない。


興味の幅広さが仇となり、ジャンル分けにも苦労する。その割に趣味嗜好はごまかせないため同じ本が2冊あるというベタな経験も一度や二度じゃない。

意気込んで整理整頓を始めるも、必ず三冊に一冊は中を改めてしまって全く作業は進まない。



しかしこの部屋が、愛しい。

積み重なって出来上がった言葉の塔は、まだ見ぬ世界へ連れていってくれる。

一段また一段と昇るうちに、世界は広がり色を増していく。

この部屋と生活の中、わたしは主であるはずが、好きと偶然に振り回されっぱなしだ。

そういう、正直な自分も嫌いじゃない。



いや格好よく言ったところで、ただ片付けられない言い訳だが。


今日もその中心で眠る。

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ラベルの塔 夏生 夕 @KNA

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