#4



今日は先日話をした花永とのラブラブデートの日である。


早朝に花永宅にお邪魔して、野暮ったい花永をデート用に強制おめかしする。



「おい待て、これを私が着るのか?」


「大丈夫です。ちゃんと花永に似合う服を買ってきたから」


「ジャージでよくないか?」


「デートで?」


「むしろそのデートもお家デートとかでいいだろ。わざわざ外に出る必要あるか?」


「これだから陰キャはよぉ……グダグダ言ってねぇでいいから言うこと聞け!」



愚痴愚痴と不平不満を垂れ流す花永に痺れを切らした俺は、強制的にわからせた。



(オホる規制シーン)



大丈夫、まだ朝早くて時間に余裕あるから。




◇◇◇




花永の身支度を整えて一旦別れて家に戻ります着替えて駅前に到着した。


デートなので待ち合わせは必須。駅前集合と激しめのオネガイをしてあるから、ちゃんと来るはず。


スマホを眺めながらリンパマッサージの勉強からマッサージからあんなことやこんなことになってしまう薄い本を見ていると遠目に花永がやって来たのに気がついた。


花永も俺に気がついたようで目が合って、



回れ右して逃げられた。



ダッ!



地を蹴り駆け出す。秒で捕まえた。運動不足のノロマな中年を捕まえるなど容易い。



「はーなーせー!帰る!私は帰るぞっ!?」


「まあまあ」



ジタバタと暴れる花永を羽交い締めにして拘束する。逃がさん。絶対に逃がさんからな。



「なんで急に逃げるの?」


「なんでも何もあるか!オマエ!この服、ペアルックじゃないかっ!?」



そうである。花永が着ている服、そして俺が着ている服はどちらも同じ色、同じ柄の同じ服で、どこからどう見てもおそろのペアルックであった。



「こんなの恥ずかしすぎるわっ!何度も言ってるが私の歳を考えろとあれほどっ……!」


「歳なんて関係ない。愛してるよ花永」


「バカがっ!そんなこと言ったって誤魔化されんぞ!中止だ!中止!私は帰るぞ!」


「えー!そんなこと言わずにペアルックでイチャラブベタベタしながらデートしたいんだけどー!」


「何から何まで恥ずかしい!オマエの羞恥心はどうなっているんだ!?」



花永はギャーギャーと文句を垂れ流しながら俺から逃れようとそれはもう必死になって暴れる。そんなに嫌かねペアルック。まぁそう暴れられても逃がさんけど。



「そうあんまり騒ぐと注目集めますよ?」


「だったら離せっ!」


「いや俺は別に注目されようが何しようが気にしないので」



花永があんまり騒ぐものだから、それなりに人目を引いていた。


傍から見たらペアルックのバカップルが乳くりあっている様にしか見えないだろうから全然構わない。俺は。



「とりあえず落ち着いて、一旦、喫茶店にでも行きましょう」


「ぐぬ……わかった……」



渋々と言った具合で俺の提案を受け入れ、大人しくなる花永。


そんな花永を連れて近場の喫茶店に入った。



「おい待て……なんだこの喫茶店は……」


「カップル限定の非リアお断りの喫茶店です」


「おいぃ!」


「ほらあんまり騒がないで、他のお客さんに迷惑でしょう?」


「うぐぅ……」



花永と共に入った喫茶店は言った通りカップル限定喫茶店である。店内には既に何組かのカップル客がおり、皆それぞれ自身の恋人と共にイチャイチャとカップルフィールドを形成している。独り身の寂しい奴がこの光景を見たら嫉妬のあまり魔王にでも覚醒してしまいそうなダダ甘空間だった。



「いらっしゃいませバカップル様!当店は通常席、個室席、テラス席がありますがどちらに致しますか?」


「テラス席で」


「おいっ!?」


「かしこまりましたバカップル様!座席のタイプは2人がけイチャイチャソファー席と対面ラブラブ席の2種類がございますがどちらがよろしいでしょう?」


「ソファーの方で」


「だからおいっ!?」


「かしこまりましたー!それではバカップル様1組入りマース!」



などと店員さんとやり取りをして席に通される。店員さんの顔には固められた笑顔が張り付いていたり、いなかったり。


通された席は要望通りのテラス席。今日はいい天気だし実に気持ちのいいところ。ちょっと暑い。街ゆく人々の視線も熱い。



「こちら当店サービスの2人で1つのバカップルストロー付きダダ甘砂糖水でございます!ご注文の方お決まりになりましたら呼び出しボタンでお願いしまーす!それではごゆっくりー!」



テーブルの上に置かれたお冷代わりのバカップルストロー付き砂糖水。コレコレ。カップルの定番の飲み口がふたつあるストロー!これいい!



「ほらほら花永。これ一緒に飲も?」


「ぐぬぉ……もう殺してくれ……」



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